第17話 また増えました・・・とエピローグ
シクシクシク。今日も今日とて、マンドラゴラに魔力を注ぐ・・・。
「ノア、仕方ないよ。マンドラゴラとイチゴの鉢を別にしたのも、ホーンラビットを細切れにしたのも、魔力を一気にたくさん注いだのもノアの判断なんだから・・・」
「分かってる、分かってるけれどもっ」
昨日あの後、カインが帰って来てマンドラゴラの事情を説明すると、何故こうなったのか原因がわかった・・・ちょっと、遠い目をしてみる。カインがジャックくんが産まれるまで行ったことは、鉢に別々ではなく一緒の地面であったこと、肥料として置いた魔物はそのままであったこと、魔力を注ぐのは毎日微量であったことだった。私はもちろん、どこでも持って歩けるように鉢は個々に、肥料の魔物は栄養が行き届くようにと細切れに、魔力は昨日たくさん出たのが嬉しくて一気に注いでしまった・・・。
そして今日の朝、リビングの窓際にある日が当たる棚の上で、自分の葉をおでこに乗せて、悠々と土の中に浸かっているマンドラゴラに、哀しみながら魔力を注いでいるところを、カインが慰めてくれているという状況だ。
しかし、嬉しいこともあった。自分の手を見て、にやっとしてしまう。昨日、魔力を大量放出したお陰か、ぷくぷくしていた手が、前に比べて少しほっそりとした感じだ。カイン曰く、今までは魔力を出さなくては!と意識し力んで魔力を放出していたのを、昨日のことが切っ掛けで力が抜けて自然と魔力の放出が出来るようになったからではないか、という見解だ。これからは、徐々に痩せていくんだって。
やったー!!嬉しい!
「今泣いた烏がもう笑う・・・」
カインが、ボソリと呟く。
はいはい、何とでも言うが良い!私は今、機嫌が宜しいのだ!
ふふんふん~と鼻歌を歌いながら、マンドラゴラに魔力を与え注ぐのを止めて庭に出る。
「今日も良い天気だ・・・」
『スキル判定』の魔道具の問題は、カインに相談して直ぐに解決した。「自分が作れるけど、ノアの『創造』って造れるの魔法だけなの?」という言葉によってだ。
今日は、それを作ってみようと考えている。でも、その前に畑仕事だ!魔力をたくさん使って、早く痩せようという魂胆でなのである。ふっふっふ~。
「ジャックくん!手伝うよ~」
先に畑に出ていたジャックくんに声をかけると、がうっとジャックくんはコクンと頷いた。
可愛いわ~。
畑に散らばっていたスライムたちが、私の声を聞いてわらわらと集まり出す。
『『『『『『『ノア様だー』』』』』』』
スライムたちは、其々の属性を生かして、自分に合った薬草に魔力を注ぐのが日課になっている。後は、数体で力を合わせてポーションを作ってみたり、武器や防具とかスクロールにも付与してみたり、私の役に立ちたいと練習をして、色んな能力を身に付けている・・・。
・・・あれ?スライムたち、私より役に立って・・・る?
「みんな、ありがとうね・・・」
私は複雑そうにお礼を言うが、スライムたちはそれに気付かず照れたようにぷるぷると揺れる。
「じゃ私は、ジャックくんの手伝いをするからね」
そう言うとスライムたちは、邪魔にならないように一定の距離を取る。だが、私の側から離れない。自分では分からないけど、私の魔力は美味らしく、そのおこぼれを貰おうとしているのだ。もちろん、カインの魔力も美味らしい。そんなスライムたちが言うには、私のは濃厚だがくどくなくて甘味があり、カインのはスッキリ爽やかだがコクがあると、グルメレポーターの食レポなみに力説していた。
「さ、やっちゃおうか」
ジャックくんにそう声をかけて、畑の土を土属性の魔法で耕す。それが終わると今度は、収穫時の作物の実を風属性の魔法を使って収穫する。葉や茎を傷付けないようにするには、神経を使うのだ。そんなことをしていると、森の奥から『めっめっめ~めめめ~』という動物か魔物の、ご機嫌そうな鳴き声が聞こえてきた。
それが気になり、一旦手を止めて聞こえてきた森の方を見ると、水色の淡いパステルカラーをした二足歩行のふわふわの羊が、木の枝を短い腕?前足?で振り回し、短い足?後足?でスキップをしながら木と木の間を歩いていた。
その羊は私の目線に気付いたのか、何気なくこちらに顔を向けると、ピタッと動きを止めて動かなくなってしまった。多分、こんな所に人間がいるとは思わなかったのだろう。暫くお互いじっと見つめ合ったまま動かなかったが、先に動いたのは羊だった。顔色を変えて、サッと木の影に隠れようとするが、体が三割は出ている。可愛いけど、残念感がとてもある。
「見えてるよ・・・」
そう声をかけると、羊はチラッとこちらを見てまた隠れた。体三割はそのままで。
でも、珍しい。この辺りは、魔の森の奥だから普通の動物はいないはずだし、魔物だったらカインの魔法のお陰で近寄れないはずなのに・・・。
そう思っていると、ぎゅるるる~と、お腹が鳴る音が大きく聞こえた。私は朝食をしっかり食べてきたし、とスライムたちを見るがぷるぷると否定。ジャックくんの方を見るが、がうっと首を横に振って否定。それならばと羊の方を見ると、体を殆ど木の影から出てお腹を押さえていた。
「お腹すいてるの?」
羊に声をかけるが、また体を三割残して木の影に隠れる。
それではと、スライムたちも私の魔力が美味しいと言ってくれたので、これは餌で釣るしかないかと、人差し指だけをピンッと立てて魔力を出す。そして、バレーボールくらいの大きさにすると、その魔力を羊はクリクリとした瞳を輝かせて、じっと見つめヨダレを垂らしている。やはり、お腹がすいていたようだ。
そして、耐えられなくなったのか、目線は私の魔力に釘付けのまま、ふらふらと羊が近付いてきた。それで分かったが、羊は私の膝くらいの大きさで以外に小さかった。なので、ピョンピョンと私の胸の高さにある魔力目掛けて短い腕?前足?を伸ばしてジャンプをする。もう、警戒心がゼロだ・・・可哀想なので魔力を羊の目の前に持っていくと、私の手をガチッと掴んで地面にストンとお尻を付けると、モグモグと食べ始めた。
ま、可愛いけどっ!
食事に夢中になっているふわっふわっの手触りの羊を、抱き抱えて家の中に入る。その後を、ジャックくんとスライムたちも続く。
どうしようかな、コレ・・・。
そう思いながら廊下を歩きリビングに入る。中にはマンドラゴラの観察をしていたカイン居たので、私の手を掴んだまま食事中の羊を目の前に差し出す。
「どうしたの、コレ?」
ずっと、フードを被ったままだから表情は分からないが、カインは驚いたような声を出した。
「なんか、お腹すいてたみたいで・・・」
「そうなの?この種の子は、瘴気が強い『魔の森』には、いないはずなんだけど・・・」
"この種の子"と言うということは、カインはこの羊のことを知っているみたいだ。私の手から魔力を食べている羊を、それごと彼は受け取り椅子に座ると、その子を膝の上に乗せた。
「カインは、この子がどんな生き物か知ってるの?」
その隣に、椅子を引いて私は座る。
「うん、ま、妖精の一種だよ」
「よ、妖精?スライムたちと同じの?」
「スライムたちとは、ちょっと違うかな・・・生まれた時から妖精だから、この子は」
「へ~。けど、妖精にしてはこの子、残念感が半端ないんだけど・・・」
カインの言葉が、歯切れが悪い。スライムは特殊だと言いたそうだ。だが、私はそれを受け流す。
でも、妖精だから魔物を寄せ付けないカインの魔法が、この羊には反応しなかったんだ・・・。
「ま、妖精には色んな性格の子がいるけど、こういう子も珍しくはないよ。木とか花とか、自然から生まれると言われているからね」
大まかに言って、妖精って自由・・・?
「そうなんだ・・・」
スライムたちは、何から生まれたということになるんだろう?・・・水たまりかな?でも、ヘドロだったら嫌だな・・・。
「で、どうするの?」
「え、どうするって?」
「いや、手懐けちゃったから、面倒見てあげないと」
カインの膝の上で魔力を食べ終わり、けぷっとゲップをしている羊の妖精を見つめる。
この子を?・・・私みたいなのが一匹増えるんですけど、大丈夫?カイン!?
う~ん。でも、そうだよね。可愛いし、餌あげちゃったし、しょうがないよね・・・。
「・・・ねぇ、君。うちの子になる?」
一応、本人の意思が大事だからね。うちの子になりたいのか、確認を取ってみよう。
「め?」
しかし、私の言っていることが分からないのか、何?と首を傾げる羊。ま、可愛いけどっ!
「私の魔力好き?」
これじゃダメだと、聞き方を変えた。
「めっ!」
私の言葉に、羊はクリクリとした瞳を輝かせて、嬉しそうに勢い良く両手を上げた。これは、肯定だろう。
「たまにこの家に来て、私の魔力を食べる?」
「め~」
もふもふしているから分かりづらいが眉間にシワを寄せ、何を悩んでいるのか、考えるように羊は短い腕・・・で良いか、それを組む。
「じゃ、この家に住んで、毎日私の魔力を食べる?」
「め~!」
今度は、え!毎日食べられるの?という感じで、組んでいた腕をピンッと斜めに下に張り、またクリクリとした瞳をキラキラと輝かせた。それは、子供が飛行機になって遊ぶあの格好、若しくは"米餅の菓子"と同じ名前の少女形人造人間のキーンッと言いながら走るあの格好に似ている。
そして、カインの膝の上から飛び降りると、喜びを表すためか、お尻をフリフリ、腕をフリフリ、と変で不思議な踊りを踊り始めた。
それに便乗して、スライムたちもピョンピョンぷるぷると動き始め、ジャックくんは幼い子たちを見守るように優しい目で頷いて見ている。
カオスだ~・・・う~ん、これは保護者、確定だね~。
そう思いながら、窓際の我関せずとしているマンドラゴラをチラリと見る。
また、増えてしまった居候で穀潰しが(私も含む)・・・ま、羊は可愛いから良いけどね。
踊っている羊を強制的に抱き上げ、色々と動かしてじっくり見てみる。それを羊は、されるがままでキョトンとしている。
「・・・何してるの?」
「オスかメスか、どっちだろうと思って」
「妖精に性別はないよ・・・」
「そうなの?じゃ・・・」
う〜ん。あ、このふわふわ感、わた飴に似てる~・・・それか雲だこの感触は・・・。わたあめ、くもり、わた、あめ、くも、コットンキャンディ・・・。
「うん。君の名前は、コトンで」
「ネーミングセンス・・・」
カインが、またボソリと呟く。
「うるさいです!」
コットンキャンディでコトン、可愛いじゃないか!!
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何故か、あっちの世界にいる家族がどうしているか気になるけど、心配はしていない。そして、どんな時も何をしても気持ちが上がらなくて、底を這うように生きてきたけど、こっちの世界に来てから、毎日が新鮮で充実して気持ちが上がりっぱなしだ。
家族には悪いけど、こっちの世界に来て良かったと思う。また、会いたいけどね。
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