第16話 そう来たか!!

名前:イルーナ

種族:人族

性別:女

職業:主婦(主婦特化)

AGE年齢:26

Lv:31

HP(生命力):1071/1071

SP(体力):103/103

MP(魔力):156/156

STR(攻撃力):46

VIT(防御力):80

AGI(俊敏性):79

DEX(器用):308

INT(知力):205

MND(精神力):242

LUK(運):91

CHA(魅力):98

スキル:『全生活魔法(家事特化)』『遣り繰り上手』『家事向上』『良妻賢母』


 なんとまぁ、そう来ましたか・・・。

 でも、どうするよ、コレ!?商人のイルーナさんに、何をどう説明したら良いのか!


 そう思いながらも、紙に『鑑定』結果を記入していく。


「イルーナさん、なんと言って良いのか・・・」


「イルーナで良いわ。わたしもノアと呼ばせてもらうから。それで、もし悪い結果でも、わたしは受け止めるから話してほしいわ」


 私の目をじっと見て、イルーナが決心したように頷く。


 うん、覚悟は決めた。泣かれても、怒鳴られても、大丈夫!それにイルーナは、私に疑惑の目は向けないはず!!


「わかった・・・職業は『主婦(主婦特化)』となっていて、スキルは『全生活魔法(家事特化)』『遣り繰り上手』『家事向上』『良妻賢母』の4つあるんだけど・・・」


 イルーナに、『鑑定』結果を書いた紙を渡す。私の言葉とそれを見て、彼女は目を見開く。


「主婦って・・・でも、変よ。わたし魔法は使えないし、商人として結構上手くいっている方よ」


 不思議そうに、首を傾げるイルーナ。


 非難されなくて良かった・・・。

 ん~、でも、あっちの世界では主婦を冗談で"大蔵省"とか言ったりするよね?それがスキルにある『遣り繰り上手』なのかな?あと、旦那さんが外で働くのを支えるのもだよね?それこそスキルにある『良妻賢母』的な。家族経営だっていっているし、イルーナが商人として上手くいっているのは、全部スキルのお陰なのかな・・・。


「主婦って、家計とか家庭内の金銭面をやりくりするよね。出来る主婦は、それを増やしたりするのも聞いたこともあるよ」


「え、家計のやりくり?でもそれって、家庭と商会じゃ規模が違い過ぎるわ」


 唐突な私の言葉に、イルーナは困ったように疑問をぶつける。


「家族経営なんでしょ?商会も家庭内になるんじゃない?だから、主婦の家族を支えるっていう能力が、商会でも発揮出来るんだよ。多分!」


「多分って・・・驚き過ぎて頭の回転が追い付いていないわ。けど、すっごい屁理屈を言われてる感じがするわ」


 軽く言う私とは逆に、イルーナは頭を抱えた。


「ま、商人の成功も、主婦の能力の内っていうことだよ。それに、この『鑑定』結果に縛られなくても良いと思う。ただ、自分の行く道が増えただけで、深く考えないこと。自分のやりたいことをやれば良いんだよ。あと、魔法は練習すれば使えるよ」


「ふ~、そうね。あなたの言うとおりかもしれないわ。家族に言われたままずっとこの道を進んで来たけど、自分で選ぶことも出来るようになった訳ね。それに、これまで商人として上手くいってきたから、職業が『主婦』で良かったわ・・・あと、さっき言っていた、魔法を練習すれば使えるようになるって、本当なの?」


 今まで押さえていた物を吐き出すかのように息を吐き、イルーナが吹っ切れた感じで晴れやかに言う。


 お、直ぐに持ち直した。商売してる人って、切り替え早いのかな?それとも、主婦の職業による能力もあるのかな?


「えぇ、私も魔法の練習中で、徐々にだけど使える魔法が増えているよ。最初は、魔力の放出もろくに出来ずに全くだったんだから!」


 指折り数えるが、全属性の初歩しか使えないので、折り返した指が途中で止まる。


「そうなの?わたしも、魔力操作を子供の頃に教わったわ。魔道具を使うのに、魔石へ魔力を注がないと使えないから。でも『職業判定』で、魔術師とか魔法を使う関係がある職業とかが出ないと、魔法なんて殆どの人は教わらないわよ」


「子供の頃?」


「えぇ、トイレトレーニングと一緒に。じゃないと、いくら一人でトイレが出来るようになっても、トイレが使えないと駄目でしょ?」


「へ~、そうなんだ・・・」


 子供のトイレトレーニングと一緒!?あの厳しい訓練が・・・やっぱり、こっちの世界の人の話を聞くことも大事だね・・・。


「・・・でも、魔法を教わるのって、魔術師とかじゃないと出来ないんだね。そっかー、『職業判定』ってスキルまで見れないもんね。でもそれって、スキルに魔法があってもわからないから、みんな損してるね」


 勿体ないな~。あっちの世界では、何をやりたいかわからなくて、自分探ししてる人が多いのに。


「それ、損ですまないわ。本来、手に入れられる商品が、情報不足で手に入れられないってくらいのことなのよ!それどころか、その商品の存在を知らないで、自分の利益になる物を見逃しているのと同じだわ・・・無知は罪という言葉があるように、商売じゃ大損害なことで、商人にとったら罪よ!」


 良く分からないが、流石、長年の商人としての心構えと、家庭を預かる主婦の心得?


「・・・えっと、じゃ、スキルだけ分かる、魔法とかはないの?」


「魔法は、無いわね。スキルが分かるのは『鑑定』のみよ。でもそうね、スキルだけ見れる『スキル判定』という魔道具もあるわ。各ギルドにあるけど、それも高額だから一般人は無理よ」


 おぉ、ギルド!各っていうことは、色んなギルドがあるのかな?


「え、じゃ、それをお金ある人が購入して、みんなに貸せば良いんじゃないの?」


「貸して壊れたら大損よ。借りた方も莫大な金額を請求されると思うわ」


 私が不思議そうに首を傾げるのを見て、イルーナは有り得ないという感じで首を横に振る。


「貸して魔道具を預けるんじゃなくて、あんまり高くない金額に設定して、測定してあげれば良いんじゃないかな?」


「それ良いわね!あ、でも、購入するお金をどうするかよね・・・お金を借りるとしても、元を取るまで結構な年数がかかるわね。リスクが高すぎるわ」


 パッと明るくした顔を直ぐに変えて、考え込むようにイルーナは顎に手を持ってくる。


「ん~、そうだよね・・・」


 私も考え込むように顎に手を当てようとしたが、ふと思い出す。魔法や魔道具関係に詳しい人物を・・・それも身近に・・・。


「うん、そうだ!」


 閃いた!とポンッと手を打つ。


「後で、この店の店主に、魔道具のこと聞いてみるね!」


 格安で魔道具を手に入れられないか、カインに後で聞いてみよう!


「あら、そう?それは、ありがたいわ。よろしくお願いね」


 イルーナが、満面の笑みを浮かべる。この店内を見て分かっていたのだろう、私がそう言うのを。


 流石が、職業が主婦でも長年の商人が染み付いてるな~。先を読む力、凄いよね。


「ところで突然ですが、イルーナは結婚してるの?」


 会ったばかりの女性に、こんなことを聞くのも悪いが、ゲイルとの関係がとても気になっていた。なので、いつ聞こうかとタイミングを計っていたのだ。


「本当、唐突ね。そうね、ハッキリ言うと、今まで結婚に見向きもせず、仕事をずっとしてきて行き遅れよ」


 唐突だと私に言うが、それを気に止めることなく、行き遅れだと堂々と言うイルーナはカッコいい。


「え、まだ若いじゃない!」


「そんなことないわ。あなたが居た世界ではどうかわからないけど、こっちの世界で20代半ばは、もう行き遅れよ」


 そっか・・・私はあっちで40才独身だったけど、周りにそういう人結構いたからな・・・結婚もみんな諦めていなかったしな・・・。


「でも、遅くはないと思うよ。イルーナは、気になる人はいるの?」


「ん~、恋か愛かはわからないけど、気になる人はいるわ」


「それって、商会の人?お客様?友人?」


「ん~、どれでもないわ。応援したい、支えたいっていう人だから・・・」


「なるほど・・・」


 その言葉に、私はニマニマしながら、それ以上のことは聞かなかった。


「ノアはいるの?好きな人とか、気になる人とか」


 逆にイルーナに聞かれたが、頭に浮かんでくるのは、20代の頃良い感じになりかけたある男性だった。それを手で煽って消し去り、ため息をつく。


「今はいないかな~」


「そう?」


 それに、気付かないようにしてくれているのか、私の"いない"と言う言葉を軽く流してくれた。


「それで話は変わるけど、イルーナは魔力操作を子供の頃に教わって、それをずっと出来るんでしょ?」


 それも照れ臭くて、慌てて誤魔化すように話を変える。


「また、唐突ね。えぇ、そうよ。それがどうしたの?」


「実は私、魔力操作?それが上手くできないのか、魔法を使うのに魔力をチョロチョロとしか出なくて、とても時間がかかるの・・・」


 べ、別に、話を変えたかっただけじゃないよ。聞きたかったことだし・・・。


 カインに聞いても、スムーズに魔法が使えるようになるには、魔力は出していればその内ちゃんと出来るようになるから、としか言われないし、どうしようかと困っていたところだった。


「そうなの?魔法が使えないわたしで分かるかどうか、分からないけど。魔力を出しているところを見せてもらえるかしら?」


「お、やった!是非、お願いします!!」


 私の気合いの懇願を、イルーナは微笑ましそうに笑う。


「では、行きまーす」


 そう言って、ふぬぬぬぬ~と、近くに有ったマンドラゴラに魔力を注ぐ。だが、やはりチョロチョロとしか魔力が出ない・・・。

 そして、ふぅ~と息を付いてイルーナを見ると、彼女は考え込むように顎に手を当てていた。


「ど、どうかな?」


「そうね・・・素人意見だけれど、良いかしら?」


「ど、どうぞ・・・」


 何を言われるか、ドキドキしてしまう。


「ノアは、何故そんなに力を入れるの?」


「え?魔力がちゃんと出ないから、力を入れれば出るかなと思って・・・」


 じっと見つめられ、イルーナにそう言われた私は、キョトンとするしかなかった。


「ちゃんと、とか考えなくても良いんじゃないかしら。もう少し力を抜いて、やってみたらどう?イメージだけど、力を入れるから魔力が出るところを、ぎゅっと締めるんじゃないかしら?」


 その言葉に、目から鱗がポロポロと剥がれ落ちる。ちゃんと、きちんと、と力んで私はやってきた。


 それか!


「おぉ!なんか、出来る気がするしかないよ」


「それ、言葉が変よ」


 興奮して、言葉使いが変になってしまったみたいだ。 そしてその言葉に、ふふふとイルーナは笑う。


「そうかも、変だったかも。でも、出来る感じがする!ヨシ!やってみる!!」


 気合いを入れてながら、力を抜くために手首を回すという矛盾なことをする。


 そして、魔力のマンドラゴラに注入!イメージは、力を抜いて、そよそよ~だ。


「お!お!おぉ!」


 なんと、力まずにやったら簡単に出来てしまった。


「出来たー!良かった~ありがとう、イルーナ!」


「いえいえ、どういたしまして」


 イルーナにお礼を言いながらも、魔力をマンドラゴラにドバドバと注入する。


「ちょ、ちょっと、そんなに魔力を注いで大丈夫なの?あなたもマンドラゴラも・・・」


「え?私は大丈夫」


 イルーナが焦ったように言うが、私は何に焦っているのか不思議にしか思わなかった。


「・・・でも、見て」


「え?」


「マンドラゴラよ」


 イルーナが静に声を落として言うので、不思議に思いマンドラゴラの方へ目をやると、なんか根の部分が太くなったような・・・。


「な、なんか太い?」


「まるで、茶色い小さな大根ね」


 イルーナが、ため息をつくように言う。私は慌て魔力を止め、二人で良く良くマンドラゴラを観察する。

 すると、私のように太っちょなマンドラゴラが、顔?を少し上げてこちらを見るような仕草をした。眠たそうな感じに見える糸目のような窪みをこちらに向け、また顔?の位置を元に戻した。


「う、動いたわね・・・」


「う、うん。動いたね・・・」


 二人で会話をしながら目が離せずにいると今度は、ずんぐりむっくりした手のような太めの根を、ズボッズボッと初めに土から出し、声は発していないが"よっこらしょ"という感じで、植わっていた土から緩い動きで這い出るかにように出てきた。そして、足?後根?をぺっぺっと振って、付いていた土を落とす。その姿は、大きさは手の平サイズだが、良くテレビの情報番組とかで映し出されていた、人の形をした寸胴の大根のようなモノだった・・・。

 土を落としたそのマンドラゴラは、"よいしょっ"という感じで飛び降りたが、上手く鉢からカウンターの台の上に飛び降りることが出来ず、ぴょんっドタッと台の上に俯せの格好になった。ピコリと起き上がると手をパンパンと叩いて誤魔化し、トコトコと歩き始めた。そのまま商品棚の方へ行き、勢いを付けてカウンターから商品棚へ飛び移ろうとする。マンドラゴラにとって結構な距離があるので、危ない!と思ったが、手?前根?が棚の端にかかり、なんとかぷらんぷらんと掴むことが出来たみたいだ。片足を棚にかけてやっとの想いで這い上がり、商品を物色する。その一連の動作が、なんともオヤジ臭いのだ。そして、自分と同じくらいの大きさのポーションを選び、自分の葉を使って背負うようにくくりつけ、来た道のりをまたやっとの想いで戻って来る。危なっかしいそれをハラハラしながら見守り、マンドラゴラがカウンターの台にたどり着いたところで、どっと疲れを感じた。

 そんな私たちをよそに、マンドラゴラはポーションを器用に葉を使って鉢の中の土にドバドバドバっと全体的に撒くと、空のビンを台の上にそのまま放置して、声は出していないが湯に入るように"ハ~"と息を吐くような仕草をして、土の中に入った。


 オヤジじゃん!仕草も、存在も、全てがオヤジだよ!イチゴとウサギの要素はどこ行った!!


 おでこらしいところに自分の葉っぱを乗せ、鉢に寄りかかり背を預けると、その縁に腕?前根?を乗せた。その、オヤジ臭いマンドラゴラの姿を横目に、私は頭を抱えるしかなかった。


 そう来たか!!

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