第15話『鑑定』と『鑑定』
可愛い可愛い私の未来の従魔のために、毎朝早起きをして、マンドラゴラに魔法で出した水と魔力をあげることにした。魔力放出の拡大や魔法の訓練にもなるので、一石二鳥ということだ。何故、早起きしないといけないかというと、魔力をどのくらいあげて良いのか分からないうえ、チョロチョロしか出せないので、時間をかけてあげるからなのだ。
そして、ゲイルさんの鑑定の件だが、いつやると決めていなかったが、こちらの都合の良い日で良いと言ってくれたので、早い方が良いだろうと思い今日行くことにした。
「ゲイル、いるか?」
「こんにちは!ゲイルさん」
「おう!今行く」
店に入って直ぐに声をかけると、奥から声が聞こえてた。
なんか、昨日来た時よりお店がスッキリしてる・・・。
昨日は、乱雑に商品が積み上がっていたのに、今日は商品を種類別に分けて綺麗に並べてあった。
「悪いな、わざわざ来てもらってよ」
「大丈夫だ」
「そんなことないですよ。・・・なんか、店内スッキリしましたね」
「いや~。昨日話してた時に来たヤツがいるだろ?」
そういえば、ダークレッドの色をした髪の女性が来てたね。
「あぁ、いたな」
「えぇ、いましたね」
「実はよ。あいつ商人でな。オレに武器を打って欲しいって、ずっと来てたんだよ」
ゲイルさんは、言いづらそうに頭をかく。
「でもよ。武器を打つ奴は、もっと体が大きくて筋肉もスゴイ奴なんだと思ってたんだ。それに比べたら、オレなんてヒョロっとしてる方だからよ・・・だから、ずっと断り続けてたんだ」
「そうなんですか・・・」
それでヒョロっとしてる方って・・・昔に見た映画の、未来から来た人間そっくりなロボットの主人公並みなんですけど・・・。
「昨日、オレの商品を『鑑定』してくれただろ。『武器』になってるって・・・」
「あぁ」
「はい」
うん、言いましたよ・・・ゲイルさん、前置きが長いです。照れているんですか?
「・・・あいつは、どんなに断られても、オレの腕を信じて諦めずに通ってくれてたんだよ・・・それで、そいつがあの後来てよ。武器を打つの考えてみるつったら、店掃除手伝ってくれたんだ・・・」
これはアレですか?アレですよね!アレに発展しますよね!?
必死に、にやけてくる口元を手で隠して押さえる。
「そうか、良い方向に向かっているな」
「お、おう・・・」
「じゃ、その気持ちが変わらないうちに、ノアに『鑑定』してもらおう。良いか、ノア?」
「うん、良いよ。じゃ、ゲイルさんやりますね。・・・『鑑定』」
名前:ゲイル
種族:人族
性別:男
職業:鍛治職人(武器特化)
AGE年齢:32
Lv:23
HP(生命力):1642/1642
SP(体力):201/201
MP(魔力):178/178
STR(攻撃力):96
VIT(防御力):87
AGI(俊敏性):83
DEX(器用):189
INT(知力):71
MND(精神力):167
LUK(運):82
CHA(魅力):68
スキル:『武器創造』『属性付与(武器のみ)』『強化・向上(武器のみ)』
やっぱり、そっち系じゃないかと思っていたよ・・・。
カインに、紙と書く物を借りる。
うーん、書くのは良いけど、字があまり上手じゃないんだよね、私・・・字が綺麗な人って良いよね。っていうか、こっちの世界の字は読めるけど、字って書けたっけ?ま、やってみよう。
『鑑定』した内容を、書いていく。
おぉ!日本語で書いてるつもりだけど、日本語じゃないよね、この字。
「『武器特化』に『武器創造』と・・・」
私が書いた紙を、カインが除き混む。
「なんとなく、そうじゃないかなと思っていたけど・・・」
「ん?どうしたんだ?どうだったんだ?」
心配そうにゲイルさんが、私を見つめてくる。
「ゲイルさん・・・」
「お、おう・・・」
「あなたには、職業に『鍛治職人(武器特化)』と、スキルに『武器創造』と『属性付与(武器のみ)』と『強化・向上(武器のみ)』がありました」
私は、ゲイルにステータスを書いた紙を見せる。
「・・・鍛治職人は『職業判定』の時と同じだか、この他のは何なんだ?」
「『武器特化』は、はっきり言って武器しか作れません。『武器創造』は、この世界に無い武器を産み出せ作ることが出来る能力です。『属性付与(武器のみ)』と『強化・向上(武器のみ)』は言葉のとおり、属性付与も強化も向上も武器のみだけに出来るということです」
私の言葉に、ゲイルは唖然としたようだ。
「・・・じゃ、オレは鍋や包丁とか、もちろん金属の防具も作れないのか?」
何とか声を出したゲイルが、そう聞いてくる。
「そうですね、そうなりますね・・・」
「そっか・・・いや、オレな、本当はよ。人を傷付ける武器を作るのは、ずっと躊躇してたんだ。いっぱい練習してよ、いずれは立派な防具を打ちたいと思っていたんだけどよ・・・」
ゲイルは、武器の他に、日用品や防具も作れると思っていたのだろう。だから、昨日来たダークレッドの髪の女性には、何気なく武器を打つと言ったんだと思う。でも、今回の『鑑定』によって、ゲイルの立派な防具を作るという、目標への道が突然途絶えたのだ。私はただ良い方向に向かえばと思い、彼のステータスを『鑑定』したが、それが良かったのか悪かったのかと不安が込み上げてくる。
「ゲイル・・・防具は身を守るためには大事だ。だが、攻撃も自分の身を守るための防御だと思っている。盾や大盾は防具としての機能だけではなく、それを使って攻撃することもある。逆に武器で攻撃を受け止めたり流したり、防御する時もある。お前の作った『包丁』という名の武器で、助けられた命もあるはずだ。だから、それを買いに来る者が絶えないんだろう?」
これまでも、これからも、命の危険と隣り合わせにいるカインの言葉に重みを感じる。
「・・・あぁ、そうだよな」
「でも、この『鑑定』結果を受けて、それでもオレは日用品や防具を作るというのもお前次第だ」
その言葉に、ハッとさせられる。この『鑑定』結果が出たから、その結果のとおりにした方が良いと思い込んでいた。そして、武器しか作れないのなら武器だけを作った方が良いというのは、私の勝手な考えの押し付けなんだなということが分かった。この『鑑定』は、結果にしか過ぎない。これを聞いた本人の受け取り次第で、これから何をするのかを決めていくのだと、そして色んな道があるのだと示したカインの言葉に私も教えられた。
「・・・カイン、ありがとうよ」
「ゲイルさん・・・」
泣きそうな顔だが、吹っ切れたように笑うゲイルさんを見て、心の奥底から良かったと思った。
୨・୧ ୨・୧ ୨・୧ ୨・୧ ୨・୧ ୨・୧ ୨・୧ ୨・୧
今日は、カインに言われダルートの町で店番だ。この世界の人や生活に馴染んでいくためにね。
カイン手作りのちょっと変わった魔道具や魔の森で採取した薬草で作られた各種のポーション、魔の森で狩った素材と採取した薬草など、この店には置いてある。それも他の店に比べたら、かなり格安の値段らしいので、転売目的の人には売らないし、転売出来ないように魔法をかけているらしい。
私はというと、店の掃除を終わらせ、カウンターの上にマンドラゴラとイチゴ擬きを並べて置いて、客が来るまで魔力を注入だ。
そんなことをしていると、店の入口に取り付けているベルが鳴る。
「いらっしゃいませ~」
店の入口を見ると、先日ゲイルさんの店に来ていたダークレッドの髪の女性が中に入ってきた。
「こんにちは。お店の中を見させていただいて、よろしいですか?」
「・・・どうぞ」
ゲイルさん曰く彼女は商人さんなのだから、この店にあるものは見慣れているのでは?と思うのだが・・・。
引っ込み思案でコミュ症な私では、声をかけられません・・・。
「あの、すみません。ここにあるものは、転売できないんですよね?」
「あ、はい。そう魔法がかかっているみたいです」
「特級クラスの魔法がかかっているのに、こんなに格安なんですね・・・」
「店主本人が魔法をかけているので、実質ただなんですよ」
「そうですか・・・羨ましいかぎりです。私にもそんな力があったら、仕事に役に立つのに・・・」
仕事にって・・・商人の彼女が仕事に役立つっていうことは、この世界も転売が問題になっているのかな・・・。
「・・・先日、私たちがゲイルさんのお店にいる時に、来られた方ですよね?」
「えぇ、そうです。あなたが、ゲイルさんのお店に居ましたのを覚えています。彼からこの店のことを紹介されまして伺いました」
「そうなんですか?ゲイルさんがですか?ありがたいですね、紹介してくれるなんて。この前、お店に行って驚きましたよ。綺麗になっていて」
あれは酷かったな・・・店内が。あと、これからお客様も増えてくれたら良いな。
「・・・そうですね。でも、驚きました。彼、あんなに武器を作るのを渋っていたのに・・・」
「あぁ~、自分には武器を作る筋力がないからって言ってましたね。自信がなくて、偏見があったみたいですね」
「本当に、良かったです・・・」
その言葉は、喜びの中に安堵感が含まれていた。
「・・・すみません、ちょっと個人的に伺いたいことがあるのですが、良いですか?」
「えぇ、構いませんが、なんでしょうか?」
申し訳なさそうに言う私に、彼女は微笑みながら了承した。
「お客様は、商人さんだとゲイルさんから聞きましたが、『職業判定』で"商人"って出たんですか?」
ゲイルさんの技術を信じて後押しする、そんな彼女は見る目のある商人さんだなと思った。けど、自分で決めずに『職業判定』を得て、その職業に進むということに疑問を感じなかったのか、それを聞きたかった。
「わたしですか?わたしは『職業判定』を受けてないんです・・・家は代々商売を生業にしておりまして、商売は家族でやるものだという方針なんです。職業関係なく成人を迎えると、家の手伝いをすることが義務付けられます。ま、成人を迎える幼い頃から勉強だと言われ、手伝いをしていましたが」
表情には出してはいないが、彼女の瞳には憂いの色が見えた。あぁ、そうか、あっちの世界で産まれ育った私にとって、家の都合でその跡を継ぐのは当たり前に良くある話だが、この世界で皆が『職業判定』をして自分の進む道を決めている中、家のために決められた道しか進むことが出来なかった彼女のとって、それは羨むことなんだろう。だから彼女は、『職業判定』をしたのに上手くいかないゲイルさんに、何とかその道で成功してほしかったんだと思う。
「あの私、ノアって言います。お名前を伺ってもいいですか?」
「すみません。まだ、名乗ってなかったですね。わたしは、イルーナと言います」
「突然ですが、『鑑定』しても良いですか?」
「え、『鑑定』ですか?」
『鑑定』ってやっぱり、嫌なのかな?見られたくないものも、見られるからなのかな?
「はい、『鑑定』です」
「ノアさん、そんな簡単に『鑑定』すると言わないでください。『鑑定』を頼むのに、どれだけ高額な料金が取られるか、わかっていますか?それも、会って間もない素性の知らない人にですよ」
あれ違う方で注意された。『鑑定』がこんなにレアなのが、実感持てない・・・ステータスを見られるのって、プライバシーとか感じないのかな?それよりも、こっちの世界の人たちは、全てを見られる不安より、自分の能力が気になるのかな?
それでもこの人は、私を本当に心配してくれている。こっちに来てから、出会う人が思いやりのある、心のある人たちばかりで、私は幸せ者だ。
「見る目あると思いませんか?そうやって、会って間もない素性の知らない人に、注意できるあなたと出会えて。私は、ラッキーですね」
私の心配をして言ってくれる彼女に、ニヤッと笑ってそう返した。
神様のありがとうを言いたい、運を∞にしてくれて。
「・・・まずは、金額の交渉です」
イルーナは、何処と無く照れ臭さを隠すように、諦めた感じで私に言う。
「それは、『鑑定』はまだ練習中なので、無料で大丈夫です」
「そういう訳にはいかないです。練習中でも『鑑定』は、してもらう者にとって利がとてもあることなので、依頼料として支払わせてください。でなければ、商人としての恥です」
商人として誇りがあるんだろう、この人は。それに対して、私はとても失礼なことをしてしまった。
「すみません、とても失礼なことをしてしまいました」
「いえ、分かってくだされば大丈夫です。こちらこそ、生意気を言いまして、申し訳ありません」
「いえいえ、お互い様ですね」
私が頭を下げると、イルーナも頭を下げてくれた。
「それでですね。先日、ゲイルさんにも『鑑定』をしたのですが、お金はいらないと言ったんです。ですが、それじゃオレの気がすまないと言われ、後日私に合う武器を作ってもらうことになりました。なので、お金ではなくて現物で大丈夫です」
「ゲイルさんも『鑑定』を・・・けど、現物ですか。しかし、わたしは商人ですので、商会の物を個人的に独断で渡すわけにもいきません」
やっぱり、イルーナさんは思ったような人だ。嬉しくなってしまう。
「はい、物じゃなくても良いんです」
「今、わたしが持っているものは、自分自身と知識しかありません」
「しか、じゃないですよ。知識は防御にも武器にもなります。なので、私にその知識の提供をお願いします。アドバイザー若しくはコンサルタントという形で」
「アドバイザー若しくはコンサルタント・・・ですか?」
首を傾げるイルーナに、大きく頷く。
「はい、私たちの仕事や生活で、より良くなるためのアドバイスや相談にのってほしいんです」
「さすがに、うちの商会のノウハウは、教えられないのですが・・・」
「商会のノウハウは財産ですよ。教えてもらおうとは、思いません。ただ、一般的なことで良いです」
彼女の商会のノウハウを、知りたいと思わない。だって、あっちで生活をするためだけに、やりたいと思って就いた訳じゃない事務の仕事を、散々してきたのだから、もうこれからは自分のやりたいことをやると決めたのだ。
「一般的ですか?そんなことで良いんですか?」
「私は来訪者でして、それも来て半年くらいなんです。だから、こちらのことは疎くて・・・それに私を保護してくれている人は男性なので、ちょっと聞きづらいこともありますし、引き受けていただけないでしょうか?」
「来訪者なんですか!?道理で・・・それも、こちらに来て半年ですか?分かりました、そんなことで良いのでしたら、お引き受けいたします」
「あと、是非友人になってください」
笑顔で言うイルーナのに、私はそう言った。
「え?友人?」
"友達になって"なんて言ったの、子供の頃以来だよ、なんか照れる。
「はい。私、こっちの世界で友人が一人もいないので、是非友人第1号になってくれませんか?もちろん、損得無しで、ですよ」
ま、あっちの世界でも、心から友人と呼べる人は居なかったけどね。なんというか、お互いの損得や利益ありきの知人くらいは、数人いたかな・・・。
「ふふ、こちらこそ、お願いしたいです。是非、わたしと友人になっていただけませんか?損得無しで、ですね」
「ありがとうございます!じゃ、まず初めに、敬語を止めてほしいかな。あと、遠慮も無しでね」
「わかったわ。わたし、商人やっている時はこんな済ました感じだけど、家族にはいつもキツイとか忙しないとか言われるのよ。それでも良い?」
「もちろん、ドンッと来いよ!」
そんなことを言って、お互いどちらともなく笑いだした。
「じゃ、始めるよ。『鑑定』を」
「ありがとう、お願いするわ」
一頻り笑ったので、カウンター内の私の隣にイルーナを椅子に座らせ、早速『鑑定』をすることにした。
「『鑑定』!」
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