第8話 手の平で転がされてる?

 その後、吐き気を抑えながら、カインに教わり解体をした。身から皮を上手く剥がせなかったり内臓も破れたりしたが、なんとか形になった。食べられるところが減ったけど・・・。


 食べ物だと思えば、意外とできるかも・・・。


「食べるところ減っちゃったね・・・」


「・・・ま、初めてにしては上手な方だよ」


 落ち込んでいる私に、カインは苦笑いをしながら慰めの声をかける。


「ほら、今日は魔法の練習もするんでしょ?」


 そう、今日は魔法の練習だ。魔力はなんとか出せるようになったが、これに属性を付けていかなければならない。相性もあるが、意識してやらないと失敗するのだそうだ。昨日の『浄化』は聖に属するが、神の加護がある私たちには意識しなくてもできるらしい。


「はい!お願いします!!」


 私はカインに深々と頭を下げた。


「そんな畏まらなくても・・・べつに普通で良いのに」


「いや、先生ですし!」


「やりづらいな~。じゃ、先生の権限で敬語なしの今まで通りでということで」


「え、それじゃ・・・」


「じゃ、俺も敬語にするよ。では、やりましょう、お願いします」


「うぅ~、わかった・・・」


 家の目の前にある畑や花壇などが広がっている一角で、練習することになった。家の中だと、なんかあった時に片付けが大変だからだそうだ。


 ・・・それはそうだけど、安全の方を気にしようよ。それに、今の私の力量ではそこまでいかないと思うんだけどね。


「まずは、水からやってみようか」


 水は確か、H2O・・・。水素と酸素の原子が結合してって子供のころ習ったような気がする。え、でも水素のイメージってどうやれば・・・。


「難しく考えなくても良いよ。水素とか酸素とかは良いから・・・」


 何故、私の考えがわかった!えぇ~、でもそれじゃ、どうすれば良いのか・・・。


「ん~、難しい・・・水って、水蒸気になって上って雲になり、その雲が雨を地上に降らして、みたいな感じだよね」


「ま、それはあっちの世界の考えだからね。こっちでの一般的なやり方は、今どこかにある水を持ってくるというイメージみたいだよ」


「えっでも、それってどこから持ってくるか、でしょ?実際に存在しない所から水を持ってくるイメージでも良いの?」


「人それぞれみたいだよ。自分が知っている場所から持ってくるイメージをする人や、空想の場所から持ってくるイメージをする人とかね。後者は、量や勢いが半減するみたいだけどね」


 前者のじゃ、私には無理だね。う~ん、空気中に水蒸気が漂っているわけだから、それを集めて水にすれば良いのかな。でも、量が気になるよね。この世界で水の場所なんて・・・あった!カインの家の目の前にあるじゃん!!水の量が欲しいときは、カインの家の前にある湖の水にすれば良いんだ!・・・うん、まずはやってみよう!


「うん、できるかもしれない!」


「そう?じゃ、やってみて」


「わかった!」


 そう言って、持っていた杖を前に突き出す。


 は~い、水蒸気の水さんたち集まれ!


 自分の体から出た魔力に、周囲にある水蒸気を集めて纏わせるような感覚でやろうとするが、水と油みたいに馴染まない感じで、水が出てこない。


「ヒントね、魔力と水を別に考えちゃダメだよ。魔力と水が一緒のモノだと考えないとね」


 え?どういうことですか!?ちんぷんかんぷんです・・・。


「今までやっていたことは、魔力を放出することだったけど、今回は水を出すことだから、まず魔力を出すのという考えは置いておいて、水だけを出すイメージでやってみて」


「え、そうなの?魔力を意識しなくても良いの?」


 目から鱗ですよ。魔法を使うのに、魔力を意識しなって。


「うん、たぶん意識しない方が成功しやすいと思うよ」


「それ、やる前に教えて・・・」


「そう簡単に教えちゃうと、自分で考えないでしょ?」


 返す言葉もありません!はい、納得です。流れ作業のように、言われたまんまやると思います、私!!


「失敗は成功の母って言うし、辛くて苦しい想いをした時の方が、人って覚えてるって言うから」


 そうですね・・・カインさん、先日から思っていましたが、結構スパルタですね・・・。


「はい、頑張ります・・・」


まずは、水を出すことを成功させないとね。


 今度は、カインに言われたとおりに、魔力ではなく水自体を出すイメージを浮かべた。すると、何もないところから水が現れた。


 水蒸気を集めて集めて・・・おぉ!ちょろっとですが、できました!やったね!!


「良かったね。できたね」


「ホント、良かった~」


 何もかもダメダメで、今のところカインにおんぶに抱っこばかりで、申し訳なささが半端ない。自分の不出来に、ぞわっとするよ・・・チート能力もらったのに、全然役立たないわ!私!!


「じゃ、次の魔法をやってみようか。水ときたら、今度は火かな」


「了解です・・・」


 火って、どうやって出すの?オイルも火薬もない・・・っていうか、それも火がないと点けられないじゃん!あれしかないのかな、原始的なあれ・・・木の棒で、一心不乱に両手で回すヤツ!!あっでも、木の棒や板がないとできない・・・。


「言っておくけど、木とか使わないからね」


 頭を抱えだした私に、カインはそう言った。


「え?・・・もしかし、水魔法と同じ原理?」


「そう、正解!」


「ヨシっ!」


 じゃ、火もどっかから持ってこないといけないんだよね・・・でも、空想でも良いってカイン言ってたよね?


「行きます!」


「はい、どうぞ」


 杖を前にかざして、火が現れるイメージをすると、マッチ棒で点けたくらいの火が現れた。


 私がイメージしたのは、キャンプファイヤーの焚き火くらいの大きさだったんだけどね・・・。


「うん、順調だね。次は、土にしようか」


「土?・・・この土?」


 もしかして、一番簡単じゃないですか!だって、目の前にありますから!土が!!


「今度は、土を動かしてみよう」


「え?土を動かすの?」


「そう、ゴーレムとか作る時の応用になるからね」


「へ~、ゴーレムか~」


 私は、どっちというとゴツゴツよりモフモフの方が良いな。


「ちなみに、これの応用でフィギュアを作った知り合いの来訪者がいるよ」


「え!?」


 うわっ、テレビでやっていた秋葉原のフィギュアを思い出すよ・・・。


「ジャックのもあるよ。頼んでいないのに作ってくれたんだ」


 なんと!その人の活力に拍手を送りたい・・・マジで、偉い!是非是非、会ってみたいですね!!終わったら見せてもらおうっと。


「頑張ります!」


 もしかして、私も自分で作れる?あんなジャックくんや、こんなジャックくんなんても良いね!頑張ろう!!


 杖を地面に向かってかざし、モグラが地中を移動するイメージをした。ボコボコと真っすぐに線を描くような感じで・・・だが、できたのは数センチの大きさの土が盛り上がっただけだった。


 今の私の力ではこれくらいだが、必ずやジャックくんのフィギュアを作ってみせる!


 そう心に決め、私はギュッと拳を握った。それを見ていたカインは、目標ができるって頑張れるよねと明るく言った。


 え?・・・うん、頑張るけど。


 その後、時間が掛かったが、全ての属性を出すことができてホッとした。


 休憩無しで頑張りました!はぁ~良かった、良かった。




୨・୧ ୨・୧ ୨・୧ ୨・୧ ୨・୧ ୨・୧ ୨・୧ ୨・୧




 そして、次の日。


 今日はジャックくんと一緒に畑仕事です!やったー!!昨日頑張ったご褒美ということで。


「ここを耕せば良いのね?ジャックくん」


「がうがう!」


 コクコクと頷くジャックくんと私の目の前には、約一反ほどの畑が広がっていた。雑草が一つもないのは、ジャックくんが頑張ったんだろう。


 偉いな、ジャックくん~。なんか子供を見守る親の心境だよ。涙が出てくる・・・。


 鉞担いだ金太郎ならぬ、鍬を担いだジャックくん。トコトコと畑の一番端に行くと、鍬を畑の土に入れ始めた。小さい体で大きく鍬を振り上げる姿にハラハラドキドキするが、意外にしっかりとした足腰で驚いた。


「がうがうっ」


 耕していた手を止めて、こちらを見ながら何か言っているジャックくん。たぶん、やらないのかと言っているのだろう。


「ごめん、ごめん。私もやるね。隣で良いかな?」


「がうっ」


 隣で良いと言っているのだろうと、都合の良い方へ解釈。いそいそとジャックくんの隣に並ぶ。そして、鍬を振り上げて耕す。


 田舎の農家に生まれ育ち、小さい頃から手伝っていた私に畑を耕すのなんて、どうってことないわっ。


「ノア、鍬じゃなくて魔法でやってみようか」


 ジャックくんに良いところを見せたくて、一心不乱に鍬を振り下ろしていると、いつの間にか近くに来ていたカインにそう言われた。


 え?・・・今日は勘弁してください。ジャックくんとの至福のひと時が・・・。


 期待をした眼差しを向け、隣でコクコクと頷くジャックくん。


「・・・わかりました」


 負けました・・・ジャックくんのそんな眼差しを向けられたら、私に拒否権はありません。


 鍬を置き、地面に手をかざして土を耕すイメージを浮かべる。


 そして、ボコッと耕されたのは直径10㎝ほどの小さな一部分だった。ガクッと肩を落とす私に、ジャックくんは腰をポンポンとしてくれた。落ち込んだ私を、慰めてくれているのだと感じる。


「ジャックくん!」


 それに、思わずジャックくんに抱き着く。


「ありがとう、慰めてくれるのね」


 ぎゅうぎゅうと抱きしめると、ジャックくんは苦しそうだが、気が済むようにと黙って耐えていた。


「じゃ、その魔法で、今日一日できる所までやろうか」


「うっ」


 私の一時の安らぎと和み、それをぶち壊すカイン。


 恨めしい・・・。




୨・୧ ୨・୧ ୨・୧ ୨・୧ ୨・୧ ୨・୧ ୨・୧ ୨・୧




 更に、夕食の支度時。


「風魔法で食材を切って、火魔法で火を通そうか」


 うぅ~、今の私の力では、食材が、食材が無駄になってしまう~。


 ちなみに、畑仕事は半分も行きませんでした。ごめんね、ジャックくん・・・。


「まずは、水魔法で野菜を洗ってね」


「う、了解です」


 時間をかけて桶に水を溜めていく。そこに、形はキャベツなんだけど色は赤の野菜を入れてジャブジャブと洗い、綺麗に土や汚れを取っていく。


「あれ?『浄化』でやった方が早いんじゃ・・・」


「それじゃ、他の属性の練習にはならないよね」


「・・・はい、おっしゃる通りです」


「野菜は風で浮かせてから切った方が、まな板にキズが付かないよ」


「・・・イエッサー」


 次に、その野菜を浮かせるがゆらゆらと定まらず、更にザッシュ、ザッシュと切っていくが、大きさがバラバラになってしまう。そのうえ、私の目の前には野菜の残骸が散らばっていて・・・。


「うっうっ、難しい・・・」


 今日は野菜炒めにしようかな・・・。


「少し、お手本を見せるね」


 そう言ってカインは、黄緑色した玉ねぎのようなものを浮かせて、空中に水を出し洗うと、葉と根を切り落として空気圧で皮をむく。そして、あっという間に薄くスライスをした。


「魔法って便利だね・・・」


 お、お見事です・・・普通に切るより、早いような気がする。恐るべし、魔法・・・いつか私も、カインのように魔法で素早く調理出来たら良いな~。


「魔法は、攻撃だけの物ではないよ。覚えれば、こんな便利に生活で使える。料理や畑仕事だけじゃない。掃除や洗濯、この家を作る時だって活躍したんだから」


「・・・スローライフには持って来いだね!」


「そっち?・・・ま、やる気が出るなら良いけど」


 私の言葉に、カインは呆れたように呟く。


 ほえ~、魔法って奥が深いんだね!これから、どんな魔法と出会えるのか楽しみだよ。あれ?なんかカインに、手の平で転がされてる感が半端ないのですが・・・気のせいかな?

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