第7話 これは食料です

 またまたやってきました、ダンジョンへ。あんな魔物を倒せる気がしません・・・戦うことをせずに過ごすことはできないんでしょうか・・・。


 遠い目をしていた私の体が、突然光る。


「え!?なになに?」


「物理攻撃にも魔法攻撃にも呪いにも状態異常にも無効化出来る、シールドの魔法をかけたから、心配せずに戦えるよ」


 驚いてる私に、カインはそう言って先に進む。


 いやいやいや、私の心配はそうじゃなくて、戦わない方へ行きたいんですけど!何か方法はないかな・・・?


「ねえ、カイン。魔物と動物の違いってなんなの?」


「ん?魔物と動物の違い・・・?」


 私の質問に歩いていた足を止めて、カインはこちらを振り返る。


「そう。この世界に、魔物の他に動物はいるの?」


「うん、いるよ。この魔の森には、かなりの瘴気が溢れているんだ。この世界には、そんな所があちこちにある。その瘴気によって魔物に生まれると言われているんだ」


「瘴気・・・?」


「瘴気は、穢れとか悪い気とか言われているかな」


「でも、その瘴気からどうやって魔物が生まれるの?」


「それなんだよ。ハッキリと解明していないんだけど、昔からこっちの人たちは、瘴気の中から突然魔物が生まれると考えられているんだよ。けど俺は、動物が瘴気に当てられ、悪しき心を持つものだけが魔物となると考えてるんだ。ま、俺だけじゃなく、中にはそう考えている人がたくさんいるけどね。・・・実際に確認した訳じゃないから、何とも言えないけど」


 そう言って、カインは首をすくめた。


「ん~、そうだよね・・・難しいところだね。あと、悪しき心って何?」


「あぁ、この世界では、妬み嫉みや欲望などをそう言うんだ」


「・・・そっか。じゃ、それを取り除いたら元に戻るかな・・・」


「厳しいんじゃないかな?悪しき心と瘴気が原因だって根拠はないんだから・・・それに、長年いろんな研究者が瘴気を取り除くため生きている魔物に浄化を施したりとか、いろいろとやってみたけどダメだったみたいだよ」


「浄化で瘴気を取り除くことはでしょ?それじゃなくて、悪しき心の方を何とかするとかは?」


 瘴気を何とかしようとしてダメで、悪しき心じゃない動物だと瘴気にあたっても大丈夫なら、それをなんとかすれば良いんじゃないかな?


「なるほど・・・でも、どうやって?」


 カインは、興味深そうに顎に手をやる。


「魔法はイメージなんでしょ?心を何とかするのなら癒しとかの魔法はないの?」


「あるのはあるけど、心を落ち着かせるぐらいのものだよ。でもそれさ、ノアなら作れるんじゃない?スキルの『創造』で」


「・・・え?魔法って作れるの?」


「作れるよ。属性の魔法も、昔の人が生み出したと言われといるんだ」


 目から鱗だよ、魔法を作れるなんて。あっちの世界だと魔法なんて無いから、属性魔法とかって元々あったのかと思ったよ。この世界の昔の人もスゴイな~。考え方が違うんだね。でもこれって・・・スローライフに役立つ魔法も作れる・・・?


「へ~、そうなんだ。じゃ、試してみる?」


「良いね。やってみよう」


 言ってみたものも、心を癒すってどうすれば良いんだろう?心の不安を無くすとか?心を落ち着かせるとか?ストレス発散とか?自信を見つめ直させるとか?・・・諭す?悟させる?諫める?そうすると、正しい方へ導くとか指導とかの方が良いのかな?う~ん・・・。


 そう考えながら歩いていると、ゾウくらいの大きさがありそうな赤黒い狼が現れた。


「ちょうど良いね。このブラッドウルフで試してみよう」


まだ、考えている途中なんだけど・・・。


「うぅ・・・わかった。やってみるよ」


当たって砕けろだ!


「ウゥゥ~」


 唸って威嚇してくるブラッドウルフに向かって、恐る恐る不安げに手をかざす。


「・・・ただの導きだとアレだし、ちょっと付け足してみて、神の導きとか?・・・でも、恥ずかしすぎる!なので、そのままにする『悪しき心よ消えろ』!」


 恥ずかしいがそう叫んで、魔力を放出する。ちょろちょろだが・・・ある程度大きくなるまで溜めていくと白く光る球状になった。その間、ブラッドウルフに攻撃をされたが、シールドのおかげか私のところまで届かず全然ダメージが無いので、無理なく溜められた。それをブラッドウルフに当てたが、痛くも痒くもないみたいで、少し躊躇ったように感じる。


「・・・あれ?ダメだった?」


「いや、もう少し様子を見た方が良いよ」


 ブラッドウルフの反応にそう言うと、少し離れて後ろにいたカインが近づいてきた。


「でも、何の反応もないような・・・」


「ほら見て、ブラッドウルフの動きが止まっているよ」


「あ、本当だ」


 さっきまで攻撃的だったブラッドウルフが、突然静かになった。それが暫くたつと、ブラッドウルフの体がキラキラと光りだして、その場にドサッと倒れた。


「なんか・・・倒れたね」


「あぁ・・・倒れたね」


「あれ?色がグレーになって、小さくなった・・・」


 ブラックサーペントを倒した時は、色も大きさも変わらなかったよね?どういうこと??


「仮にだけど、魔法が成功して魔物の姿が変わったということは・・・」


「・・・ということは?」


 勿体ぶるように間を開けるカインに、思わず口を挿んでしまった。


「魔物になる前の姿に、戻ったということじゃないのかな・・・」


「そうなのかな・・・でも、元の姿に戻しても死んじゃったら・・・」


 魔物になる前の姿に変わる?でも、悪しき心を消して、ブラッドウルフは死んじゃったんだよね?これって良いことなの?


「このブラッドウルフはレベルが高いから、魔物になってかなり経っているんじゃないのかな。本来だったら寿命で生きてはいない。だから、死んだんだと思う。もし、時間が経っていない魔物にこの魔法をかけたら・・・」


「・・・生きたまま魔物になる前に戻れる?」


 元は動物なら、魔物になる前は家族だって仲間だっていたはず。何かきっかけがあって魔物になったのかな・・・。


「この森の外に行けばもっとレベルが低い魔物がいるから、今日はもう休んで明日行ってみよう」


「うん、わかった。この魔法で誰かが助かるのなら、いろいろやってみたい・・・。でも、これってカインも使えるの?」


「ん~。今は無理だけど、練習をすれば出来ると思うよ」


「たくさんの人が使えれば、それだけ助かる人がいるかもだね・・・」




୨・୧ ୨・୧ ୨・୧ ୨・୧ ୨・୧ ୨・୧ ୨・୧ ୨・୧




 あれから、元ブラッドウルフを回収してカインと家に戻り、疲れてしまったので食事を簡単には済ませ、お風呂に入って直ぐ寝てしまった。そして、次の日の朝。私は、とても過酷で今すぐにでも逃げ出したい新たな局面を迎えていた。家の脇にある小屋で・・・。


「じゃ、これを解体していこう。血抜きはしておいたから」


 ブラックサーペントを前に、そう簡単に言うカインを恨めし気に見つめる。


「そんな顔しても、この世界でスローライフしたいのなら、必要なことだからね」


「どうにかならない?解体しなくてもいいような・・・」


「町なら、解体してくれる所もあるんだけど・・・無限収納インベントリから倒した魔物を取り出したりすると、いろいろ聞かれたりするよ。それだけなら良いけど、無限収納インベントリとか大容量の袋型アイテムボックスとかは珍しいから、下手したら攫われたりお偉いさんに囲われたりするからね。気を付けて」


「え!それはちょっと・・・攫われるのも囲われるのも、嫌だな・・・うん、気を付けるよっ」


 攫われたり囲われたりして、休みなく働かされたりするとかなったら、考えるだけでゾッとする。


「あ、聞こうと思ってたんだけど、ここから町って遠いの?」


「ん~、歩いてだと一か月以上はかかるかな・・・空からの送迎だと1日くらいで行けるよ。ものすごく早いから景色とか見てられないけどね」


「空か~、飛行機みたいなのあるの?」


「いや、鳥系の魔物とか動物に乗ってだよ」


「え~、それは怖いかも・・・」


 高い所でも下が見えなければ良いけど、周りが見えないように囲わず、魔物や動物に身一つで乗って空を飛ぶって、考えただけでもゾワゾワするよ。


「大丈夫だよ。絶対落ちないようになっているから」


「いや、そういう問題じゃなくて・・・」


「じゃ、無限収納インベントリの中に収納しておけば時間停止しているから大丈夫だけど、狩った魔物は時間が経つたびに鮮度が落ちていくから、早く始めよう」


 私の言葉を遮り、カインが解体を促す。


 く~、時間を稼ごうと思ったけど、ばれたのか・・・。


「・・・わかりました!で、始めに何をすれば良いの?」


「まずは、『浄化』だね。汚れや菌などを落としてくれるだけじゃなく、瘴気も取ってくれるんだ。魔物から元には戻れないけど瘴気だけは取れるんだよ。で、瘴気を何とかしないと、食べることも加工して装備することもできないんだよ。人の性格が荒く変わったり、体調不良になったたりするからね」


「うわっそれは怖いね・・・でも、それじゃ『浄化』って誰でもできるの?」


「いや、できない人もいるんだ。だから、『浄化』できる人に頼んだり、『浄化』できる魔道具を使ったりするんだよ」


「へ~そっか、出来ない人もいるんだね。魔道具?そんなのもあるんだ・・・あ、スキルに『全ての魔法』ってあるから、カインも『浄化』できるんだよね?」


「できるけど、今回はノアがやろうね。何事も練習だよ」


「う、うん。わかった、やってみる」


 『浄化』は瘴気を、キレイさっぱり無くすという考えなのかな?あと、汚れとか菌とかもだよね?消毒とかだと食べられないよね・・・食べられるようにしないとね。イメージ、イメージっと・・・。


「『浄化』!」


 そう言い、ブラックサーペントに向けて手をかざして魔力を放つ。やはり、ちょろちょろと魔力が流れていく。


「・・・もう、止めて大丈夫だよ」


 『浄化』をやり始めて3、4分くらいだと思う。カインが声をかけてくれた。私の魔力が少ししか出ないので、やはり時間がかかってしまった。ブラッドウルフと違って、『浄化』したブラックサーペントの姿に変化はなかい。


「キレイにできたね。人によっては、汚れや菌が残ってしまう時もあるんだ」


「ふぅ~、良かった。食べ物になるわけだからね!」


 私の言葉に、カインは苦笑いをする。フードを被っているから見えないけど、たぶん。


 ・・・でも、あれ?変なこと言ってないよね?苦笑いされること言ったっけ?


「次に、ナイフで皮を剥いでいこうか。肛門から内臓を傷つけないようにね」


「うぅ~」


 カインに渡されたナイフを手にブラックサーペントに近づくが、なかなかブラックサーペントにナイフの刃を入れられない。料理をする時に一匹の魚を捌いていたので、魚なら包丁を入れることは大丈夫なのだが、ヘビはキツイ・・・たぶん、ウルフとか獣系もキツイだろうと思う・・・。


 そういえば、私って魔法を作れるんだよね?魔法で解体とか出来ないかな・・・。あっこれもイメージか!どうする私!?


「あのカイン。解体も魔法で出来たらな・・・なんて・・・」


「ん~、それは難しいかな。皮を剥ぐぐらいなら出来ると思うけど、慣れないと身が皮についたりするし、内臓の処理とかはきちんとやらないと腸とか膀胱とか傷付けて、糞尿まみれになって食べられなくなるしね」


 うぅ・・・それは困った。食べ物を粗末にはしたくないな・・・やっぱり、解体に慣れてから魔法を創るしかないのかな。物事って、簡単にはいかないね・・・成長は苦なくしてならずって誰かが言っていたな・・・。


「・・・うん、頑張って解体を覚えます」


 これは食料、これは食料・・・。

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