第2話
永遠だとかいう漢字を眺めていると遠という字は安定していることがわかる。その点、永という字は一瞬でなければ姿を保てそうにない。もしも永遠という字の下に奈落が発生したとすれば奈落の底でも遠の字はしんにょうが土台になり根本的に崩れることはないが永の字は判別不能になるのでは? 奈落の底で永の字が砕けて氷と誤読されるかもしれない。そう考えると、永ははかない。
はかないからこそ美しいとはよくいったもので、偶然にも永の字は私の名前の四つの漢字のどこかに入っている。
そう、永の字の崩れやすさを小学生のころの習字の教科書を写しながら考えていた。自分の字、紛れもなくそう思っていた。占有というか愛着というか。少なくともこの日本で「田」や「藤」の字の普及具合よりは「永」の字の方がマイナー。
なにより永の字は小学生の遊べそうな滑り台の代わりになりそうな箇所も多い。儚さと娯楽性、言うなれば東京ディズニーリゾートだ。
第三者は自分の名前を奪われたことがあるのかしらんが、私はこの永の字を今は持っていない。父親が仕事先で心臓発作をおこして死んだため永は私から消えた。
つまり、昔の私は母子家庭が慎ましやかに暮らすことのできる公団住宅にいた。隣人の親に見棄てられた子も何かの事情でここにやってきたのである。
そういえば第三者に対して展開されかけていた物語はその子が私に声をかけたところまでだったか。内容は忘れた。ただ、私とその子の頭の中の世界を比べると明らかに私の方が豊穣であった。その子は言葉を話さない・話してもまとまりがなく幼稚。対して私はといえば、大人も顔を赤らめて真っ当に私に怒りを表明せざるをえなくなるところまで追い込まれる。第三者、どうしてか見当がつくか?
その子は私に物乞いをした。何度も何度も嘗めた後の缶詰めの黄金色は脂ではなくその子の涎でテカテカとしていてそれを私に見せた。1階の踊り場で座り込んで通る人すべてに見せていた。
なぜ缶を持っている?
お母さんがこれに金を入れてもらえと言った。
いくら貰えた?
50円と黒飴。
私はこのとき確実に世界との接続を絶ったのだ。たやすいことである。接続中のUSBをいきなり抜くようなものだった。
幾日後にその子が衰弱死したと聞いた。
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