皇女サマはお年頃 Ⅰ
――それから六年の
リディアも十八歳。今では
次期皇帝としての
――この日は、皇帝イヴァンは隣国に出向いており、城の
「――それでですね、皇女
客人は、海を
ティーカップを手に、
「お話はよく分かりました。ただ、わたしの一存では何とも……。父が戻りましたら、わたしから父にこのことは伝えておきますわ」
「お心遣い感謝致します、皇女殿下。陛下が不在の時に来てしまったので、話を聞いて頂けるかと頭を抱えていたのですよ」
彼は
「それでは、私はこれで失礼致します。陛下にもよろしくお伝えくださいませ」
「ええ、必ず伝えます。――お国へは、これからお戻りに?」
客人を見送ろうと、一人
「いえ、一週間ほどはこのレムルに
レムルとは、このレーセル帝国の帝都であり、皇帝一族が暮らすレーセル城も、このレムルの
「まあ、そうですの? でしたら、父が直接、宿を
リディアは
プレナの使者を見送った後、応接の間に残っていたリディアの元に、
「よお、リディア。客人が来てるって女官に聞いたんだけど。もう帰ったのか?」
「デニス……。いいえ、レムルにしばらく滞在するんですって。何でも、お父さまにどうしてもお願いしたいことがあるとかで」
話の
だがデニスは、「ふうん?」と鼻を鳴らしただけで、興味を失ったように長椅子にドカッと腰を下ろすと、客人の飲み残しの紅茶に口を付け始めた。
「ちょっとデニス! お行儀悪いわよ」
ギョッとしたリディアが、
「だって、もったいないだろ? あっ、菓子も頂くぜ」
今度は、客人が手もつけなかった焼き菓子の皿に手を伸ばし、
「まったく……。給金も、
「……?」
コメカミを押さえるリディアに、デニスは首を傾げた。
「……いいえ、何でもないわ」
デニスやジョンのように、城に仕える若い兵士達は、城の敷地内に建てられている宿舎で共同生活をしているのだ。
思えば彼は、リディアの知る限り幼い頃から食い意地が張っていた。
城での茶会に招いた時も、当時まだ七歳だったデニスは他の子供の分の(それも、自分よりも幼い子の、だ)菓子まで食べたがっていたし。三組の親子連れで湖のほとりまで
「相変わらず、といえば……。あなたのそのふてぶてしい態度も相変わらずよね」
「……え?」
リディアが
「『え?』じゃないでしょう? 一人前の兵士になったら、態度を改めるって約束したじゃない! なのに、一向に改める気がないんだもの」
「あれ? オレ、そんなこと言ったっけ?」
「言いました! 『オレを信じろ』とも言ったわ。――もう六年も前のことだから、忘れてるかもしれないけど」
リディアは
ここレーセル帝国では、十八歳でもう一人前の大人として認められる。飲酒が解禁されるというだけでなく、仕事や結婚の面でも、親の
したがって、デニスももう一人前……のはずなのだが。彼のリディアに対する態度は、六年前からほとんど変わっていない。
変わったことといえば、呼び方が「お前」から「リディア」に変わったことくらいだろうか。
「なに? リディアはオレに、『姫様』って敬ってほしいのか?」
「そっ……、そんなんじゃないけどっ! せめて、そのふてぶてしい態度は何とかして。今のわたしは、あなたの
(……正直、デニスが昔のままわたしに接してくれているのは、幼なじみとしては嬉しい限りなんだけど。皇女、という立場を考えると、ね……)
慌てて言い
そんな彼女の
「んー、分かった。考えとくよ。ただ,この言葉
きっと、これが彼の考えた,精一杯の忠誠心なのだろう。リディアはそう思って、明るい表情で頷いた。
「ええ、それでいいわ」
ジョンが自分に敬語を使うようになってから、彼女はずっと淋しいという感情を
彼にまで壁を作られたら、リディアは
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