第27話 救い出せ!
『あの女を見つけ出し、私が殺す!』
金剛の過去を聞いてから、ずっとその言葉が脳裏にこびりついていた。
今の金剛には、村を襲った女に対する復讐心しかない。
どうすれば金剛を救える? 答えの出ない問いだけが頭の中を回り続ける。
そんな中、翌日の体育の授業で再び金剛とペアになった。
気まずいっていうレベルじゃないな。
だが、何も話さないわけにもいかない。それに確かめたいこともある。
「……金剛。お前どうしてうちの学校に転校してきた?」
転校してきた理由には、金剛の過去と関係しているのではないか?
金剛は俺の心を見透かすようにじっと見てくる。
「あの女を探すためよ」
やがて小さく、しかし躊躇いなく金剛は答えた。
あの女? ここに復讐相手である女の手掛かりがあるか?
……いや、待てよ? もしかして。
「奥原乃愛。彼女はここで起きた立てこもり事件で、ネット上で有名になった。あの女も奥原乃愛に気づいた可能性はある。あの女の性格からすると、興味を示す可能性はある」
やっぱりか。考えられるものとしてはそれくらいしかない。でも、
「あの女が乃愛を狙ってこの学校にくるとでも?」
いくら何でも、不確定要素が強いんじゃないか? 俺はあの女がどんな人物か直接知っているわけではないが。
「可能性は限りなく低いかもしれない。それでも、わずかな情報でも頼りにしないと、あの女を見つけられない」
感情が昂ったのか、金剛は手を握りしめていた。その目に、再び憎悪の色が宿っていた。
その目を見てしまうと、もう何も言えない。
それに、こんなこと聞いてどうする? 復讐に加担しようとでも?
……ダメだ。答えが見つからない。
……ピロリーン。
携帯からメールの着信音が聞こえた。
差出人を見ると、海斗からだった。
さすが海斗と思ったが、今回は情報を掴むのが早いな。
メールの内容に目を通していると、最後の一文に、『他に調べられることないかもうちょい探してみるわ』と書かれていた。
海斗も、金剛のことが心配なんだな。
海斗の気づかいに感謝してメールを送りつつ、俺は掴んでくれた情報をもとに、さっそく明日動くことにした。
次の日、俺は地下鉄に乗り真駒内まで向かっていた。
昨日海斗が掴んでくれた情報、それは金剛を知る人物だ。
金剛の家族や村の人たちはもういないが、それでも事件後に身寄りのない金剛を受け入れた孤児院がある。そこに当時の金剛を知る人物がいるはずだと思い、海斗に調べてもらった。
金剛の故郷である村は、北海道の端・釧路市にあったそうだ。
事件後は、同じ市内にある小さな孤児院に引き取られたそうで、うちに転校してくるまではそこで生活していたらしい。
その孤児院で、金剛を世話していたという鳴上蓮という女性が、今真駒内にいるという。
なのでこの機を逃すまいと、今こうして真駒内に向かっているわけだ。
真駒内に到着し、事前に待ち合わせ場所としていた喫茶店に向かう。
喫茶店に着いたはいいが、鳴上さんはもういるのだろうか?
中に入り、鳴上さんらしき女性を探すと、年配の女性が俺の様子に気づいたようで手招きしてくる。
「鳴上蓮さんですか?」
多分そうだろうと思いつつも聞く。
「ええ、そうよ。あなたが連絡をくれた奥原くんね」
鳴上さんは俺を見て柔和な笑みを浮かべる。
「突然の申し出ですみません。どうしても、金剛のことを知りたくて」
いきなり見ず知らずの他人が、自分が世話していた子のことを知りたいと思ったら怪しまれるとも思ったが、鳴上さんは嫌な顔一つしない。
「気にしないで。むしろ、舞花ちゃんを気にかけてくれる人がいてくれて嬉しいわ」
一瞬、寂しそうな表情を鳴上さんは浮かべた。
「鳴上さんは、孤児院で金剛の世話をしていたんですよね?」
「ええ、そうよ。……だけど、舞花ちゃんはそう思ってないでしょうね」
鳴上さんは当時を思い出しているのか、辛そうに顔を歪める。
「あの時から舞花ちゃんは、周りに対して壁を作っていた。だから、他の子たちも舞花ちゃんには近づかなかった。……一人になったあの子にとって、信用できる人は誰もいなかったんだろうね」
家族を殺され、天涯孤独となった。金剛が拒絶の意思を持つようになったのは、悲しくも当然の流れと言えるだろう。
「私は舞花ちゃんのお世話をしていたけれど、舞花ちゃんにとって私は邪険に映っただろうね……。それでも、放っておくわけにもいかなかった」
当時の金剛の境遇を知っているからこそ、そのまま一人にさせておくわけにはいかなかった。
この人は金剛のことを本気で気にかけているんだな。今も変わらずに。
「舞花ちゃんは本当はとっても優しくていい子なはずなの。家族を、故郷を失ったことで変わってしまっただけ。あの子は今も苦しんでいる」
鳴上さんは悲痛な面持ちから、懇願するように俺を見る。
「だから、奥原さん。お願いします。どうか舞花ちゃんを救ってください! あの子を、一人にさせないで……!」
深々と頭を下げる鳴上さん。
金剛はずっと一人と言っていたが、今もこうして金剛の救いを願ってくれている人はいたんだ。そのことが嬉しいし、金剛にもこのことを知ってほしい。お前は決して一人じゃないんだと。
そして、金剛を救いたいと思うのは、俺や乃愛たちも一緒だ。
「はい! 金剛は俺たちが救い出してみせます!」
鳴上さんのためにも、金剛を救い出すんだ!
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