第25話 黒より白

「よっ」


 地下鉄前で、海斗が俺たちに手を挙げている。


「外に出るのが嫌なお前がよく来てくれたな」


 乃愛が海斗にメールし、海斗も買い物に付き合うと返事がきたのだ。正直、誘っても滅多に家から出てこないため、今回も来ないと思っていたぞ。


「まあ、たまにはこういうのもいいかなって。で、そっちの子が雫ちゃん?」


 海斗が物珍しそう目で雫を見る。


「ああ。雫、こいつが間宮海斗だ」


 雫は海斗を見て、訝しんだ目をした。


「……あなたが不登校で噂の間宮海斗ね」


 海斗もうちの学校ではそれなりに有名人なため、雫の耳にも入っていた。


「どうもー。不登校気味な間宮海斗です」


 雫の言葉にも、海斗はおどけた調子で対応する。


 雫の性格からすると、この二人の波長は合わないかもと思っていたが、その通りのようだ。


「雫、こいつのバカがうつらないように気をつけてね」


「ええ。そうね」


 雫が叶の言葉に納得するように頷いた。


「二人してひどいなー。そういや、これで全員か? メールだと、あと一人いるんじゃなかったか?」


 海斗が俺たちの人数を数えて首を傾げた。


「うむ。本来ならもう一人と思ったのだが、失敗してしまったのだ……」


 乃愛が落ち込む、というよりも悔しそうな表情を浮かべている。


「まあ仕方ないさ。今回は俺たちだけで行こうぜ」


 努めて明るく言った。まあ、簡単にはいくとは乃愛も思っていない。それに、まだチャンスはいくらでもあるはずだ。



 俺たちは地下鉄に乗り、札幌市の中央区にやってきた。


 俺と乃愛が住む厚別区よりも立ち並ぶビルは多い。その中にあるショッピングモールの一つに入った。


 ちょうど時期ということもあり、ハロウィンコーナーなるものがあった。


「これはどうだ、雫よ! まさに漆黒の姫であるぞ!」


 乃愛が真っ黒なドレスを見せながら言った。雫は以前乃愛から『漆黒の姫』とあだ名をつけられていたが、今でも時々そう呼ぶことがあるとかないとか。


「……悪くはないわね」


 以前までの雫なら、絶対に嫌がっただろう。だが、今の雫は、まんざらでもないというように、そのドレスを見ている。


 家に遊びに来る時も思ったが、雫は黒い服などが好きなんだろうな。実際似合っているし。


「へぇ、色々な種類があるのね」


 叶が物珍しそうに見ている。すると、数ある中から猫耳のカチューシャを手に取った。


「猫耳ってハロウィン関係あるのかしら?」


「楽しめれば何でもいいんじゃないか?」


 関係あるかは知らないが、まあこういうのは楽しんだもん勝ちだろう。


 俺も近くにあった熊の手の形をした手袋を手に取る。お、このぷにぷに感くせになりそうだな。


「佐々木、その猫耳つけてみてー」


 海斗がニヤニヤしながら、叶の持つ猫耳カチューシャを指して言った。


「付けないわよ! 少なくとも、あなたの前では絶対に付けないわ!」


 叶が威嚇するように唸る。その猫耳付けたらなかなか様になるんじゃないか?


「俺の前じゃなかったら、付けてみてもいいのか?」


 海斗はさらにニヤニヤして、叶をからかう。


 叶は顔を真っ赤にし、さらに唸っている。だから、ますます猫っぽいって。


「いいんじゃないか? 似合うかもしれないぞ。それに、叶って猫好きだろ」


「きょ、京介まで!? ぜっったい付けないわよ!」


 叶が猫耳カチューシャを思い切り叩き付けうとしたが、売り物と思い出したのか、そっと置いた。意外と冷静だな。


「兄者よ! どうだ!?」


 後ろからそう声を掛けられ、振り向く。そこには、角のカチューシャを付け、コウモリのような羽を備えた乃愛がいた。


 隣には、頭にティアラをのせ、白いドレスを着た雫がいる。恥ずかしいのか、その頬は赤い。


「おお! 似合ってるぞ、二人とも!」


 すごいクオリティだな! 乃愛の衣装は魔王を意識しているのだろが、禍々しい衣装の中に、どこか可愛いらしい雰囲気があり、ちょうどマッチしている感じだ。超似合っている!


 雫の衣装もすごいぞ。いつもの黒を基調とした格好ではなく、真逆の白を基調とした格好だ。


 以前、乃愛が言っていた、雫には白の方が似合うという言葉を思い出した。確かに、黒もいいが、白の方が雫本来の美しさといったものが際立っている気がする。


「うむ! 我は魔王であるからな。似合って当然である」


「れ、礼を言うわ……」


 乃愛が自信満々にドヤ顔を浮かべるのに対し、雫は頬を赤らめてしおらしい様子を見せる。


 何この二人、可愛いな。


「すごいなー! 見事にマッチしてる」


 海斗も感心した様子を見せる。そして、叶をもう一度見て、


「ほら、二人も着てみたんだから、佐々木も何か着てみようぜ」


「だ、だから私は別にいいって……!」


 叶のいやいやという反応に逆に興味を示したのか、乃愛と雫は目をキラリと光らせた。


「叶に似合うベールならたくさんあるぞ!」


「そうね! せっかくの機会だし、色々試してみましょう!」


 二人がじりじりと叶に詰め寄っていく。


 叶は二人の様子に、首を振りながら後退りしていく。諦めろ、叶。もう逃げ場はない。


「い、いやぁぁぁぁーー!!」


 その後、叶は二人の着せ替え人形とさせられるのだった。

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