第24話 ハロウィン

 魔王との特訓、いや乃愛との特訓が決まった翌日、教室にやってくると、金剛を見つけた。


「おはよう」


 昨日のことがあったから若干気まずいが、席が後ろのため挨拶しないわけにもいかない。それに、金剛とは何とかして仲良くならなくては。


 しかし、金剛は俺に一瞥くれただけで何も言わなかった。


 すでに俺のことは眼中にないのかね。



 無視された気まずさの中、朝のHRが始まった。担任からプリントが配られ、それには『ハロウィン 10月31日開催!』と大きく書かれていた。


 ああ、もうそんな時期か。


「ええ、皆さんは去年に経験しているので知っていると思いますが、今月末に学校でハロウィン行事が行われます。参加は自由ですが、もし出し物等ありましたら、生徒会まで提出お願いします」


 担任から軽い説明がなされ、教室が少しざわつき始める。


 彗星高校では、毎年10月31日にハロウィン行事なるものが開催される。


 最初はこんな行事なかったのだが、過去の先輩たちが発案したことによって行事化されたらしい。おかげで、その日学校は休みとなり、学校中がハロウィン一色となる。先輩たちには感謝だね。


 当日は生徒たちがハロウィンの仮装をしたり、出し物をしたりする。


 去年は乃愛と少し覗いただけだったが、今回は雫もいるため、もしかしたらそれなりに楽しめるかもしれないな。



 昼休み、俺は叶と、それに乃愛と雫も交えて学食で昼食をとっていた。今までにない組み合わせで、周りから視線が集まるのを感じる。


 今回、乃愛と雫を誘った。乃愛はこれまで俺に迷惑をかけるのが嫌で断っていたが、半ば強引に誘うことによって来てくれた。妹が兄に迷惑をかけるなんてもう気にすることじゃない。


「あなたが雫ちゃんね。こうして話すのは初めてね。私は佐々木叶よ」


「私は烏丸雫よ。よろしくお願いするわ、佐々木さん」


 叶と雫がお互い自己紹介をする。二人が会うのはこれが初めてだ。


「よろしく。それと、叶でいいわよ」


「わかったわ、叶。私のことも雫と呼び捨てで構わないわ」


 二人ともすんなりとお互いを受け入れたことに、少し安心する。今日は学校に来ていなかったため誘えなかったが、今度海斗のことも紹介したいな。


「ふむ。二人の契りは済んだようであるな。ではさっそく、本題に入ろうではないか!」


 乃愛はそう言うと、プリントをテーブルに置いた。朝配られたハロウィンについてのプリントだ。


「もう間もなく、魔の饗宴が開かれる! 我も魔王として当然、参加するつもりである! そして、そのためには相応の身に纏うベールが必要となる!」


 興奮した様子で、乃愛は語る。


 本当、ハロウィンが楽しみなんだな。去年参加できなかったのが、少し悔やまれる。


「ベール……?」


 叶は乃愛の中二言葉がわからないのか、疑問符を浮かべている。


「ハロウィン用のコスプレ衣装のことだ」


 なので、意味を教えてやった。全く、勉強が足りていないぞ、叶。


「うむ! そのベールを錬成するためには、儀式のための欠片が必要となる。よって今日の夕刻時、皆で見繕いに往こうではないか!」


 なるほど、それはいい案だな。だけど、叶はさらなる疑問符を浮かべている。


「えっと、今日の放課後に皆でコスプレ衣装の材料を買いに行こう、ってことで合っているかしら?」


「ああ。それで合ってる」


 何だ、叶も思ったより理解できているんじゃないか。うんうん。


「いいわね。せっかくのハロウィンイベントだもの、楽しまないと損だわ」


 雫が乃愛の誘いに賛同する。


「俺もいいよ。叶はどうする?」


「まあせっかくだしね。私も付き合うわよ」


 この場の全員で買い物か。賑やかになりそうだな。


 だが、乃愛は首を横に振った。


「もう二人誘いたい者がいる。影の主と、隻眼の娘である」


 海斗と金剛か。海斗のことは雫にも紹介したいと思っていたところだからちょうどいい。家から出てきてくれるかはわからないが。


 だが、金剛は来てくれるだろうか。乃愛は金剛と友達になろうとしている。今回誘うのも、そのためだろう。


「海斗はわかるけど、隻眼の娘って誰のこと?」


 叶はまだ金剛と直接会っていないため、誰かわからないようだ。


「昨日俺のクラスに転校してきた女子生徒だよ」


 叶は「ああ」と納得したように頷いた。


「金剛さん、来てくれるかしら……」


 昨日の一件があったため、雫の顔は不安げだった。


 金剛から受けた言葉は、まるで雫の古傷を抉るようなものだったため、雫の表情は若干強張っている。


「大丈夫である! 隻眼の娘は少々恥ずかしがり屋なだけで、盟友となれば我らにも心を開いてくれるであろう!」


 不安げな雫を元気づけるために、乃愛は自信満々に告げる。


 どんな時でも明るい乃愛の強さが、とても頼りになるものだった。



 金剛を誘う役目は同じクラスである俺になったが、朝の様子を見ると、また無視されるオチが見えるんだが。


 放課後になった瞬間、金剛に話しかけた。


「あー、金剛。ちょっと話がある。これから時間あるか?」


 予想通りというか、金剛は俺を無視して教室を出ていってしまう。


「ま、待ってくれ!」


 せめて話だけでも聞いてほしいんだが!


 金剛を追いかけるが、予想より早く乃愛たちがやってくる。


「隻眼の娘よ、待つのだ!」


 乃愛が通せんぼするように金剛の前に立つ。そんな乃愛に、金剛は鬱陶しそうな顔をする。


「……何?」


 金剛は不機嫌そうな声音でそう言うが、乃愛は怯む様子がない。


「これから我らと、魔の饗宴に向けて、身に纏うベールを見繕いに往かないか?」


「ハ、ハロウィン用の衣装を買いに行こうってことよ」


 叶が焦ったように、乃愛の言葉を翻訳する。


「結構」


 しかし、金剛は迷う素振りも見せずに断った。そのまま、乃愛たちの間を通り抜けていく。


「……ちょ、ちょっと待って!?」


 雫が声を掛けずらそうにしつつも呼び止めるが、金剛はそのまま歩き去ってしまった。


 これは、本当に手強いな。


 そう思わずを得ないほど、金剛の拒絶の意思は固く見えた。

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