第21話 その問いの真意は?
「今日は転校生を紹介します」
休みが終わり、また一週間が始まる月曜日の朝、担任から突然そんなことを言われた。
急な転校生の紹介に教室がざわつく。
こんな時期に転校生? 珍しいな。
担任はざわつく皆を静かにし、廊下に向かって、「入っておいで」と言った。
全員の視線がドアに集中し、転校生が入ってくる。
瞬間、教室がさらにざわついた。
入ってきたのは女の子で、その髪は金色に輝き人を惹きつけるようだった。身長は乃愛と同じくらいで、左眼には眼帯をしている。
…………って、昨日見た女の子じゃないか!?
昨日の帰り道に偶然見かけた女の子が、まさか転校生だったなんて。
彼女は自分に集まる視線など意に介さない様子で、教壇まで歩いた。
「今日転校してきた
そう言って、担任は金剛に自己紹介をするように促す。
「金剛舞花……」
それで終わりと言わんばかりに口を閉じ、教室が静まり返った。
担任は戸惑った様子で、「金剛さんの席は窓際の一番後ろの席です」と言い、金剛は指定された席に歩いていく。よりによって俺の後ろの席に。
もしかしたら金剛も俺を覚えていたりするのだろうか。少し窺うように金剛を見るが、俺など眼中にないかのように通り過ぎていく。
あ、覚えてないですか。まあ話したわけじゃないもんな。
少し期待した自分が恥ずかしいです。はい。
HRが終わり、一部の生徒がそわそわしはじめる。おそらく、金剛と話をしたいのだろう。
だけど、金剛の前には俺がいる。極力近寄りたくもないため、金剛と話せずじまいといったところだろうな……わかりやすい。
ま、邪魔者はお暇しますよ。
1時限目が始まるギリギリまで適当に時間を潰してから、教室に戻った。
さて、金剛はクラスの皆と馴染めただろうか?
そう思いつつ、ドアの取っ手に手を掛けたところで、
「そんな言い方ないじゃない!!」
女子生徒の怒りの声が聞こえてきた。
…………まじかよ。嫌な予感しかしないんだが。
恐る恐る教室に入る。見れば、金剛の周りには四人の女子生徒がいて、何やらもめているようである。
「うるさいって言ってる。私は別にあなたたちに興味はない」
遠慮のないその言葉からは、拒絶の意思が感じられた。
「何よっ、せっかく一人で不安だろうから声を掛けてあげたのに!?」
女子生徒のほうは相当怒っているのか、今にも飛びかかりそうだ。
「別に私はそんなの求めてない。あなたたちが勝手にやっているだけのこと」
女子生徒の厚意を無下にし、金剛は鬱陶しそうに女子生徒を見ている。
さすがにまずいと思ったのか、周りの生徒が止めに入ろうとする。
だがそこで教師がやってくる。
「何をしているお前たち!? もう授業が始まるぞ、席につけ!」
その怒号に、生徒たちは席についていく。女子生徒たちも金剛を睨みながら、席に戻っていった。
おいおい、転校初日に何やっているんだよ……。
というか、席に座りづらいな。
しかし、金剛のあの態度は何だろう? 単に嫌がっているだけには見えなかったぞ。
3時限目、体育の時間。教師の指示で、生徒たちが二人一組で準備運動をしている。
毎回のことだが、体育の授業などで二人一組のペアになる時、俺はあぶれてしまう。
教師もあえて触れてこないため、別に気にしないのだが、今回はそういうわけにもいかなかった。
「…………」
俺と同じように、金剛もペアを作れずにあぶれている。
朝の騒動のせいで、すっかり金剛に近づく生徒はいなくなった。金剛も別にそれは気にしていないのか、朝と何ら変わらない様子である。
しかしこれ、どうすればいいんだ? 金剛はずっと無言だし、いつものように一人でやるのは果たしてどうなのか。
とりあえず、話しかけてみるか。ま、嫌だって言われたらそれまでだ。
そう思い、金剛に話しかけようとする。
「あなた、一人なの? なら一緒にやりましょう」
急に口を開いたかと思えば、ペアのお願いをされた。
「え? あ、ああ! そうだな」
突然話しかけられ、驚きつつも了承する。
どっちが先にやるか話し合われなかったが、金剛が視線で座れと訴えかけてくる。
……俺が先ね。いや、別にいいけど。
素直に従い屈伸の姿勢をとる。
金剛が近づき、全体重を乗せるように、体全部を俺の背に預けてくる。
……そのやり方はできればやめていただきたいんですが。何せ、背に二つの柔らかい膨らみを感じてしまう。
だけど気づいていないのか、さらにググっと押し寄せてくる。ちょっ!? 本当にやめ…………痛てててて!?
「ちょっ、ストップ! 痛い痛い!?」
これ以上は曲がらないって!? 二つの膨らみがどうたら言ってる場合じゃない!
しかし、いくらストップを掛けてもやめる気配がないときた。
本気で背中が折れ曲がると思った時、耳元で金剛が呟いた。
「……あなたが奥原乃愛の兄?」
「!?」
瞬間、金剛の力が弱まる。
「はぁ、はぁ……た、確かに俺は乃愛の兄だが……それがどうした?」
なぜ急にそんなことを? とも思ったが、それ以上に、その言葉に含まれる棘が気になった。
しかし、金剛は俺の疑問に答えることはない。
「奥原乃愛は、何のために『エラー』を使っている?」
まただ。金剛の言葉に棘を感じる。
金剛は乃愛のことをネットで知ったのか? それでいて、乃愛が『エラー』を悪用していないのか確かめたいのだろうか……。
真意はわからないが、ここは正直に答える。
「乃愛は困っている人を助けるために『エラー』を使っている。間違っても、人を傷つけるためなんかじゃない」
「……そう」
納得したのか、金剛は短くそう答えた。
金剛のことがますますわからなくなってしまった。まさか、乃愛を知るためだけに、転校してきたわけではないだろう。
だけど、金剛の質問には、どこか不穏なものを感じてしまう。
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