第20話 探しもの

 放課後、家に帰らず適当にぶらつく。


 今日は乃愛がいないため、夜は一人。たまには外食をしようと思ったが……さて、何を食べよう?


 食力をそそるような店は多数あるため、迷ってしまう。


 ……ん? あれは?


「海斗?」


 目の前に海斗がいた。何やらお店を見ているようだったが、海斗は俺に気づき、「よっ」と手を挙げた。


「外出なんて珍しいな。てか、今日も学校こなかったな」


「徹夜明けだったからなー、学校はサボった。で、起き抜けでめんどいから、適当に外で済まそうかなと」


 徹夜明けかよ。確かに、よく見ると目の下にクマができてる。珍しくはないが。


 だけど、ちょうどよかった。


「それなら、これから一緒にどこかで食べないか? 俺も今日は一人なんだ」


「お、いいね。でも珍しいな。乃愛ちゃんは?」


「今日は雫の家だ」


 海斗は「なるほど」と納得する。


 そうして、適当なラーメン屋に入ることに。


 注文を済ませ、料理がくるのを待つ。


「そういや、今んとこ何も問題はないな」


 海斗が何気なく聞いてくる。俺は頷く。


「あの情報を知った時は焦ったが、今のところは何の危害も加えられていないよ」


 あの情報とは、彗星高校立てこもり事件が報道されたと同時に、乃愛のことが全国で公になってしまったことをさす。


 あの場には警察だけでなく、マスコミも来ていた。そのせいで、梶原たちのことだけでなく、名前は伏せられていたが、乃愛のことも公の場に流されてしまったのだ。


 だけど、ネットの情報までは防げなかった。生徒の何人かが、ネットに乃愛のことを書いてしまったのだ。


「中には乃愛ちゃんの行動を正当化する意見もあるが、その他多くの誹謗中傷によって埋もれてるよな」


 海斗が怪訝な顔をする。


 海斗の言う通り、乃愛に対する意見は誹謗中傷のものがほとんどだ。


 ネットの世界も現実の世界と変わらない。少数が多数に飲み込まれる。


「だけど、乃愛は前を向いて明るく生きてる。だから俺も暗い気持ちばかりでいるのはやめたよ」


 梶原たちの一件が解決しても、根本の問題が解決したわけじゃない。


 今も、乃愛たち『エラー』保有者を否定する世界はあり続ける。


 それでも、大丈夫だ。


 俺たちはこの世界には屈しない。



 海斗と別れ、駅に向かって歩く。


 時刻は19時をすぎた頃で、辺りは薄暗い。


 あのラーメン屋、うまかったな。今度乃愛にも教えてやろう。


 たまには外食も悪くないと思いつつ、ふと目の前から歩いてくる影に気づいた。


(……ん?)


 目の前から歩いてくるのは乃愛と同じ身長くらいの女の子だ。


 至って普通の女の子だと思ったが、近づくにつれて暗闇に美しく映る金髪に、視線が惹きつけられた。


 ……綺麗だな。


 危うく口に出しそうだったが、突然知らない男からそんなこと言われたら、ナンパだと思われてしまう。


 だがすれ違いざま、その金髪の下から眼帯が覗いているのが見えた。


 左眼に眼帯……怪我でもしてるのか?


 そう思った瞬間、


『――——どこにいる?』


 そんな心の声が聞こえてきた。


「えっ?」


 今度ばかりは思わず声に出てしまった。


 しかし、彼女は俺の声には気づかず、そのまま歩いている。その背には、細長い筒を背負っていた。


 何かを、探している?


 思わず聞こえてしまった心の声に、申し訳なく思いつつも、どこか不吉な予感を覚えてしまった。


 だって、彼女のその声音からは、怨恨のようなものを感じてしまったから。

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