第10話 嘘と追跡

 「俺が頼んでおいてあれだが、もう見つかったのか?」


 以前と同じように、中庭で海斗と昼食を取りつつ、そう尋ねた。


 事件の犯人を探してほしいと海斗にお願いしたが、まさか土日のうちに見つかるとは思わなかった。相変わらず、仕事が早い。


「一応だが、こいつらが犯人とは限らないからなー。あくまで近くの防犯カメラに映っていた怪しげな人物ってだけ」


 海斗はそう言って、ノートパソコンを俺に向けた。そこには、監視カメラ特有の粗い画像と、四人の人影が映っていた。画面が粗くても、その四人が誰なのかはすぐにわかった。


「こいつら、ウィルス排斥団体!?」


 つい最近見たウイルス排斥団体の内の四人だった。その中には、リーダーと思われるあの厳つい男も映っている。


「地下鉄、コンビニ、本屋の監視カメラに、この四人が度々映り込んでいた。決定的な場面があったわけじゃないが、何かを気にするような素振りを何度も見せている」


 そう言って、海斗は別の防犯カメラの映像を見せてくれる。


 確かに海斗の言う通り、四人の行動は不審な点が多かった。


 犯人という確信は持てないながらも、思わず手を握りしめてしまう。


「これは一緒に見つけた情報だが、このウイルス排斥団体のリーダー・熊谷くまがい幹也みきやの息子である熊谷翔太しょうたは、うちの学校の生徒らしい」


「何!?」


 やつらのリーダーの息子が、うちに在籍している? 


 思わぬ情報に、嫌な想像が頭を巡ってしまう。


 今回の一件は、熊谷翔太が田本健司に恨みをもち、親の熊谷幹也にお願いしたのでは?


 ……勝手な憶測だ。できるならこんなこと信じたくない。


 しかし、もしこの憶測が本当だったら、到底許せない。


「とりあえず、今調べられる情報は調べたぞー。……この前佐々木にも言われてたけど、無茶な行動だけはするなよ」


「……ああ。ありがとうな、海斗」


 海斗に礼を言いつつ、後ろめたさを感じてしまう。


 嘘を、吐いてしまった。



 学校が終わった後、そのまま帰らずに地下鉄付近を見て回る。


 目的は、熊谷率いるウイルス排斥団体だ。


 海斗から無茶をするなと言われたが、それをどこまで守れるか正直自信はない。もし昼に想像した通りなら、次に危険なのは乃愛だ。


 いくら乃愛が『エラー』を持っていても、複数の大人に相手されたら無事では済まない。現に、『エラー』を持っていた田本健司も殺されている。


 危険を感じる場面なら、これまでの2年間にもあったが、今回はそれらと比にならない。


 危険はもう目の前に迫っている予感がした。


 だから、危険だとわかっていても、このまま熊谷たちを野放しにしておくことはできない。


 今まで熊谷たちを見かけたのは、自分たちの町と、海斗の情報によるここら一帯。


 もしかしたら、まだこの辺りにいる可能性もある。


 しかし、そう思って探してみても、熊谷たちは見つからなかった。



 思わぬ偶然っていうのは本当にあるんだな。


 地下鉄を降り、地上に出たところで、あの野太い声が聞こえてきた。この声は……。


 道路を挟んだ向こう側に、ウイルス排斥団体がいた。前回見かけた時よりは八人と減っていたが、そこにはリーダーの熊谷幹也もいる。


 熊谷たちは北の方角に進んでいるようで、俺は気づかれないように、距離をとって後をつけることにした。


 どこに向かっている? いや、そもそも目的地なんてあるのか?


 そう思いつつ後をつけていくと、1キロほど進んだところであるところに辿り着いた。


 そこは、1年前に廃墟同然となった時計塔だった。塔の劣化が激しく、時計塔としての機能は失われている。


 そんな誰も寄り付かないだろう時計塔に、熊谷たちは入っていった。


 つい逡巡してしまったが、これ以上はまずい。


 何も策がない状態で、これ以上深追いすると、熊谷たちに見つかってしまう可能性がある。


 この場は引き返すべきだ。


 熊谷たちが時計塔で何をしているのかは気になったが、拠点と思われるような場所を見つけることができただけ収穫だと、自分を納得させるのだった。

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