第64話 アイの機能

あれから5人でアイが待っている3階の部屋に戻っていった。まさかこんな短期間で彼女が一気に4人も増えるとは思わなかった。



それから部屋で不祥事が起こらなかったかって?

起こるはずがなかろう。いくら何百年と生きていようと恋愛初心者のウブな4人娘。終始顔が真っ赤っかだったからそろそろ限界だったと思う。


対する俺もそうだ。前世でもそんな経験など夢のまた夢の事象であり、空想の産物だと思っていた男だ。告白だけで口から心臓が出そうになったんだぜ?それ以上のことをしてみろ。尻から十二指腸が出るね。



表面的には取り繕っているが、内面・精神的には動揺で悶え苦しんでいる5人が並んで歩いている。側から見ればなんとも滑稽な光景だろう。


羞恥から一言も喋ってはいないが、その空間には幸せが滲み出ている。なんとも初々しい風景である。


そして必然的に足取りが速くなるため、あっという間にアイが待つ部屋まで辿り着いた。



「すまん、待たせたな。」


「いえ、そこまで時間は経っておりませんよ」



謝罪する俺に淡々とした口調で返答を返してくる。

するとここで4人が動いた。



「アイ、ちょっといいですか?」


「はい」


パンドラ達がアイを連れてここから離れようとしている。何かするつもりなのか?


「大丈夫です。少しお話をするだけですので……なのでゼノン様はこちらで少しお待ちください」


「いや、何するか気に……」


「いいですね?」


「…………はい」



有無を言わさぬ4人の気迫にめちゃくちゃ気圧された。やっぱり逆らえないよね。逆らったら負の未来が待っているんだもん。もう尻に敷かれてるよ。


しかし来るなと言われれば気になるのが人としての心理である。


でもこれ以上信頼を失いたくないので大人しく待っていようか。多分これ以上着いて行ったら顔が地面に陥没すると思う。物理的に。



しばらくすると全員が部屋に入ってきた。



「お待たせしました、


「おい!何を吹き込んだ!?」



その場でひっくり返りそうになった。いやマジで裏で何を話したら次の言葉があなたになるんだ!?



「確認したところアイも添い遂げると申していますのでとしてなら認めました。第一夫人の座は誰にも渡しません!」



ちょっと惚気ていい?威張ってる姿超かわいい。

俺の彼女超かわいい。


ごめんなさいね。急激に惚気たくなったんだよ。

初めての経験だからね。


しかし俺の知らないところで側室ができていた。

側室ってアレだよな?



Q.側室とは?

A.一夫多妻制の下の身分の高い階層における夫婦関係において、夫たる男性の本妻である正室に対する概念で、本妻以外の公的に認められた側妻や妾にあたる女性を指す。



とんでもねぇ言葉だ。夢のような言葉だ。

そしてまさか俺が側室を取る日が来るとは思わなかった。


「と、言うわけでこれからよろしくお願いします。あなた」


「いや…まずその『あなた』と言うのをやめようか。恥ずかしいから」


「わかりました。ご主人様」


「より悪化したぞ!?」



とんでもない威力だ。美少女から放たれる『ご主人様』コールがここまで精神を削るとは思わなかった!そりゃメイド喫茶行くわ。秋葉原通うわ。

俺も前世でこの技食らってたら給料全てメイド喫茶の料理に消えていたな。



「では、本題に戻りましょうかご主人様?」


「そうっすよ、ご主人様?」


「ご主人様〜〜?」


「何デレデレしてんだよ、ご主人様?」


「お前らからかってるだろ」



これ見よがしにご主人様コールしてくる。

クソっ、かわいい!!

強敵と戦ってないのにHPが減っていく!!


ん?でもご主人様ってことはアレか?何か命令してもいい系か?散々俺だけからかわれたんだ。俺だけ恥ずかしい思いするのは不公平だろう。



「よーし、ご主人様からの命令だ。もう一回俺に面と向かって『好きです』と言って……」



一斉に殴られた……

みんなも程々にしようね♪♪






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






「いろいろありすぎて忘れ始めてたけど、俺達掃除しにきたんだったよな」


「たしかにそうでしたね」


「忘れてたっす!!」



ホコリの中からアイを発掘しただけで全くといっていいほど作業が進展していない。


しかしここで救世主が登場した。


「掃除でしたら私にお任せください、ご主人様」


そう、アイだ。


「私にはご主人様をお助けするために掃除・家事などの知識・行動は全てプログラミングされております」


「そりゃすごいな。ならこの魔王城の家事を頼みたい。一人ではしんどいだろうから俺達も手伝うがな」


「かしこまりました」


俺も掃除なんてろくにできないから、その道のプロが一人いるのはとてもありがたいな。しかしこれだけ広い魔王城だし、しかも3階4階は手をつけていないときた。一人で管理は大変だから極冬の冷地でフローリアを見つけ次第使用人を雇うのもいいな。


俺はこれからに向けての展望を考えている間にいつのまにかアイが目の前から消えており、部屋がとんでもなく綺麗になっていた。



「ええっ!?これ何があったんだ!?」


「はい、今しがたアイが高速で移動しながらこの部屋を掃除致しました……一瞬の出来事で私にも何が起きたのかさっぱり……」


「あのホコリを一瞬で!?」



俺は急いで廊下に出た。するとそこには先程までとは見違えるような廊下があり、アイが高速で動きながら作業していた。


「アイ!!一旦ストップ!!」


すると作業を止め、俺の目の前に戻ってきた。



「はい。如何致しましたか、ご主人様?まさかここは掃除してはダメでしたか?」


「いや……ダメなことは無いが、一体どうやって掃除しているんだ?さっき目の前で大量のホコリが一瞬で消えたような気がしたんだが…」


「はい。私には『対埃・汚れ抹殺機能』が搭載されていますので、私が魔力を流したホコリや汚れは一瞬にしてこの世から消し飛ばすことが可能です。使いすぎると魔力が無くなり充電しなければならなくなりますが」


何そのピンポイントな機能!?

たしかに便利だけどアイの製作者は何を思ってこの機能搭載したんだよ!?


「しかし、魔力があまり溜まってなかったので少々の休憩をお許しください。回復次第行動を開始致します」


「大丈夫か?疲れないか?」


「御心遣い感謝致します、ご主人様。しかし私には疲れというものは存在致しません。ですので心配はご無用です」



改めてとんでもないな。

だが魔王として、ご主人様として何か力になれることはないかな?俺、今有り余るほどのMPがあるし減っても勝手に回復するから分け与えたりできたら便利なんだが……


ものは試しだ。一度やってみるか。


「アイ、そのまま後ろを向いてくれないか?」


「後ろですか?了解しました」



俺はそのままアイの背中に手のひらをつけた。



よく小説の主人公達が一喜一憂してたな。確か手のひらから魔力が放出していくイメージを持ち……


「ご主人様何をなされたのですか?魔力が回復致しました。さらにこれほど高濃度の魔力を……」



どうやら成功したらしい。


「いや、俺の魔力を分け与えられないかな〜、と。成功したみたいで良かった」


「しかしご主人様の魔力は大丈夫でしょうか?」


「大丈夫大丈夫。俺の魔力はすぐ回復するから」



本当に便利なスキルだよね。もう回復したよ。

それと新しくスキルも覚えた。




【魔力譲渡】

他人に自分の魔力を分け与えることができる。




後天的に覚えるスキルもあるんだな。永続的に回復する俺からしてはまさに適任のスキルだな。



「ありがとうございます、ご主人様。先程までより強力な魔力で格段に早く掃除が終わると思います」


アイは再び高速で動き出し、掃除を始めていった。その光景は圧巻の一言で、アイが通る箇所が全て綺麗になっていく。


よりハイスペックになったアイの活躍によって、あれほど苦戦するであろうと思っていた掃除がものの30分程度で終わってしまった。



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