第31話 虫!虫!虫!

すげー、山ってあんなに綺麗に切れるんだー。


……じゃなくて!!



風刃で切れてしまった山はすごい音と土煙を立てながら崩れて落ちていった。


そして今すぐ修正しなければいけないこともできた。


俺のレベルとステータスは、もうこの世界で上位といっても過言ではないレベルにまできていると思う。

じゃなきゃ山なんて普通切れないしね。


だからこそMPを込め過ぎた場合、とんでもない場所に被害さえ出てしまう。


これは早急に力加減を覚えた方がいいな。

どれぐらい込めればどんな威力になるとか。



未だにパンドラは真っ二つになった脳筋ゴリラと山を交互に見比べて驚愕している。


そしてキラキラした目でこちらを見据えて言った。




「す…………っごいです!ゼノン様!! まさか私のぶち殺してほしいという願いを叶えてくれるだけでなく、自分の憂さ晴らしも兼ねて山まで真っ二つにしてしまうとは!!」




すごく良いように捉えてくれている。

山が切れたのは偶然の産物なんだがな。


まぁ、素直にその褒め言葉を受け取っておこう。



とりあえず真っ二つになったゴリラをカバンにしまい、これからどうするかと考えようとしていたら遠くから何かが近づいてくる音がした。



「パンドラ、何か聞こえないか?」


「えぇ……何かドドドドっという音が近づいて…」



だんだん近づいてくる音が気になって後ろを振り返ってみると……



山が崩れた方角から大量の芋・虫・がこちらに向かって移動してきた。




「イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」




パンドラが叫んだかと思ったら俺にしがみついてきた。それよりも俺は鼓膜が破れそうになったんだが…



いや、そんなことを言ってる場合ではない!!

何あれキモっ!!



見てると崩れた山から逃げてきた様に見える。

多分俺が山を崩してしまったせいでその近辺にいた生物が危険を察知して移動しているのか。



いや、そんな感慨にふけっている場合ではない!

早く逃げなければ!! 芋虫単品ならなんとかなるが、あれは数が多すぎる!!



何百匹いる上に1匹1匹の大きさが1メートルぐらいある。


そいつらが人間のダッシュと同じくらいの速さでこちらになだれ込んできていた。



「パンドラ!! 急いで逃げるから離してく……」


「イヤァァァァァァァァァァァァァァ!!」


「パンドラ!!離してくれないと逃げ……」


「イヤァァァァァァァァァァァァァァ!!」


「パン……」


「イヤァァァァァァァァァァァァァァ!!」


「…ある日森のクマさんが……」


「イヤァァァァァァァァァァァァァァ!!」




ダメだ!!もうまともに会話することもできない!

仕方ない…このまま走るか…

別にパンドラ1人くらいなんてことはない……筈だ。



俺はそのまま走って逃げた。

ついでに落としていたカバンをディメンションの中に収納しておく。



だがやはりかなり走りづらい。前からパンドラが抱きつくように腕と足でガッチリホールドされている。


何とも誤解を招きそうな体勢だな。

今は誰にも会わないことを祈ろう。




だが走りづらい分そんなにスピードが出ない。


距離がどのくらい離れているか確認しようとちらっと後ろを見てみると、さっきよりも距離が近づいている気がする。しかも何故か数も増えていた。




[軍隊キャタピラー]

村で生活しており、集団で行動する。成長することで軍隊バチになる。雑食なので人も食べる。




うわっ、最後の一文見なきゃよかった!!

これ追いつかれたらむしゃむしゃコースじゃねーか!



俺はそれから一度も後ろを振り返ることなくひたすら足だけを動かした。



「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」



とにかく走れ! ただひたすら走れ! 足がもげそうになるぐらい走れ!!




それから全力で何キロ走っただろうか…?


ひらすらぐにゃぐにゃ木々の間を走り抜けながら、俺達はやっと芋虫の大群を巻くことに成功した。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「はぁ……なんとか巻けたか。」



辺りはしんと静まり返っており、凶暴な魔物が出てくることもらなさそうだ。


ひとまず安心したので、未だにしがみついて離そうとしないパンドラに声をかける。



「もう大丈夫だぞ。芋虫の大群はもういない。」


「もう……大丈夫でしょうか……?」



パンドラは今にも泣きそうだ。あの反応からすると 虫が嫌いなんだろう。俺は別に虫は嫌いではない。

世界には虫を使った料理なんていっぱいあるしな。


そんな俺でもさすがに群れで来られたら気持ち悪さMAXだった。虫嫌いだったら俺の比じゃなかった筈だ。よく耐えてくれたと思う。



「よく耐えたな。もう大丈……」



ガサガサガサッ



後ろがガサガサいっていたので見てみると、次は大きめのダンゴムシの様な昆虫がいた。しかも複数。


なんだ…ダンゴムシか…と少し安心していたら突然背中から刃物のようなものが生え、丸くなって転がってきた。




[スライサーバグ]

背中からトゲを生やし、転がってぶつかりズタズタに切り刻んで食べる。殻は固く一般的な刃物では傷をつけられない。





また逃げるタイプかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?

しかも障害物ごと切り刻んで最短ルートで近づいて来やがる!




「イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」



またパンドラ発狂モードに入ってしまったじゃないか!!どうしてくれるんだ!?




俺は風刃を乱発しながら全力で逃げた。

ひたすら逃げた。ときおりファイアも火事にならない程度に打った。



そしてまた何とか逃げ切ることが出来た……







少し離れた場所で………






「はぁっ…今度こそ大丈……」




ガサガサガサッ




また後ろから音がした。



再び嫌な予感がしたので振り返ってみると、今度は 巨大な羽の生えた虫が飛んでいた。しかも複数。




[腐乱蝿]

腐敗物を好み、吐息に触れると腐っていく。吐息を吹き付け腐らせたところを捕食する獰猛虫。腐っているので食べることはできない。




またかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?

しかも今回はデフォルメがグロい!


日本の蝿を大きくして、表面がドロドロに溶けていたり腐っているような見た目をしている。


そしてまた大群で襲ってくる。




「マジでなんなんだこの森はぁぁぁぁぁ!!」



俺はまたまた全力で逃走した。

腐乱蝿は木を溶かしながら追いかけてくる。



パンドラに至っては「えへへ、お家に帰ったら美味しいものをいっぱい食べるんだ」と死亡フラグ的なセリフを呟き始めている。



「パンドラァァァ!帰ってこぉぉぉぉい!」



俺は精神が病みかけなパンドラを現実に戻してから全力で走った。走り続けた。




今日だけで本気で何十キロ走り続けただろうか……?

かなり走ったところで奴らは追跡を辞めた。





しばらくして…………





「はぁっ……はあっ……本当の本当に今度こそもう大丈夫だろ………」



もう一生分走ったような気がする。早く帰ってベッドに飛び込んで寝たいと考えていたところ、




ガサガサガサッ




またまた後ろの茂みから音がした。



またかよ……どんだけ出てくるんだ……




俺は疲れと苛立ちを含んだ表情で後ろを振り返ると…





そこには人類が嫌悪している『奴』がいた。




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