第24話 ペットを飼ったよ

考えて欲しい……。まさかこんなことになるとは思わないだろう……。



餌は吸血コウモリの肉、釣竿はゴムの木とワタ花で作った即席釣竿。釣り場は魔王城地下の深さのわからない釣り堀。



こんな3要素でRPGゲームの中ボスに出てきそうな風貌の魔物が釣れると思うか? 普通は思わないだろう。だが、現に今釣れてしまった…



巨大な亀の甲羅から足が6本、尻尾が2本生えてきており、亀の顔にドラゴンの顔を混ぜたような なかなか凶暴そうな風貌をした顔が4つ、そしてその内の顔の一つに釣り針が引っかかっていた。



まさか初めての釣りでこんな怪獣を釣るとは思っていなかったのだろう、パンドラとフィリアは腰を抜かしている。


俺も腰を抜かしそうになったが、レベルが上がっていたおかげだろうか 威圧に怯えることもなくそのままの姿勢を保つことができた。





[オロチガメ]

4つの首を持つ獰猛な魔物。海の掃除屋とも呼ばれ、基本的には何でも食べる。成長した個体は首を8つ持っており、ヤマタノオロチガメ と呼ばれるようになる。




これ俺が出会った中で歴代最強レベルの魔物になりそうな予感がプンプンするんだけど……


迫力や説明だけじゃディメンションイーターよりも強いんじゃないかと思う。


それよりも獰猛で海の掃除屋か……

マズイな…





その時オロチガメは一斉に雄叫びをあげた。



「グオォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」




雄叫びだけで大気が震える。

今にも地下室が崩れてしまいそうな勢いだ。



だが同時に違和感も覚えた。




雄叫びをあげているが俺達を見据えていない。それどころかどこか苦しそうで何かに耐えているような……



その時俺は見つけてしまった。

オロチガメの後ろ足にどこかにぶつかったのか、又は何かに噛まれてしまったのか、歯のような物が深く刺さっていた。



現に足をバタバタしたり、首を後ろに回して抜こうとしているが届いていない。



うーん…どうしようかな。

足に刺さっているものと口の釣り針を取ってあげたいな……


でも今近づいたらぶっ飛ばされそうな気がするんだよなぁ…



だが目の前でずっともがいている亀を見ていたらだんだんかわいそうになってきた。多分水の中でもずっと

こんな感じなんだろう。


あんなに大きく恐ろしく見えた魔物が今は自分よりも小さく見える。



俺は意を決して取ってあげることにした。


だがさすがは魔物だ。俺が近づくと痛いにもかかわらず俺を睨みつけてきた。


とりあえず敵意が無いことを伝えないとな。



「こわくないよー、こわくないよー」



俺は手を頭の上に上げながらゆっくり近づいていく。我ながらアホな作戦だと思うが、力ずくで取ろうとするよりマシだ。もし相手が俺より強い場合、俺達は全滅してしまうからな。



そのアホな作戦が功を奏したのか、はたまた俺が魔王ということに気づいたのか、オロチガメは暴れるのをやめて大人しくなった。


いや、俺が魔王とは気づかんだろうな。

手を上げながら近づいてくる男が魔王など、俺でも思わん。



「今からそれ抜いてやるから、少しじっとしてな。」


「グルゥゥ…」




こいつ言葉分かるのか?

返事みたいに返ってきたし、さっきからめっちゃ大人しいしな。



ゆっくり近づいていき、とうとう俺は後ろ足の前までたどり着いた。そして刺さっているものに手をかけ、思いっきり引っこ抜いた。




「グオォォォォォォォォォォォォォ!?」




激痛が走ったのか、突然暴れ出した。

そらそうだ。誰だって今まで体に刺さっていたものを引っこ抜かれたら俺でも絶叫して暴れるだろう。


暴れる振動で天井から砂埃がすごい落ちてくる。

頼むから崩れないでくれよ!?



ただやっぱりこいつは強い魔物だったのか、傷口が みるみるうちに塞がってきた。


これ小説とかで強キャラがよく持ってる自動HP回復とかいうやつじゃないか!?

俺も魔王なんだから、いずれは欲しいスキルだな。



なんて考えてたらすっかり大人しくなったオロチガメが俺の方に顔を、特に釣り針が引っかかった首を主張するように顔を向けてきた。


これは……取れってことか?

まぁこれは俺達が引っかけたものだからな…



釣り針を取ろうとした瞬間にガブッ!………と、食べれることもなく大人しくしてくれていたので安全に釣り針を取り外すことが出来た。



「釣り針引っかけてごめんな。もう大丈夫だから帰ってもいいぞ」



なんか言葉を理解してそうだから大丈夫だと言うことを伝えておいた。


これでもう痛みに耐えることなくいつも通り泳げることだろう。こいつの家がどこにあるのかなんて知らないが安心して帰るといい。



だがその場から動こうとしなかった。



どうしたんだ?と思い何か言葉をかけようとした時、頭の中に変な言葉が流れた。









【仲間になりたそうにこっちを見ている。仲間にしますか? はい / YES / オッケー 】











完全にドラ○エじゃねーか!!??



しかも選択肢いっぱいあるように見えるけど全部内容は『はい』一択じゃねーか!?







それよりもまずこのオロチガメが仲間になってくれんの!? そっちの方がびっくりだよ……


トゲを抜いてやったのがそんなに嬉しかったのか?

さっきからずっとこっちを見てくる。


仲間になってくれるのは嬉しいが、場所やエサはどうするか……… そっか、ここで飼えばいいのか。


ここなら広いしエサも水の中に豊富にあるはずだ。

もしかしたら、何か取ってきてくれという命令を聞いてくれるのであれば、魚を定期的に 尚且つ大量にゲットできるだろう!




それに……一度ペットを飼ってみたかったんだよな!

まぁ、これをペットと呼んでいいのかわからんが……



というわけで、俺は『はい』を選択することにした。





【オロチガメが仲間になりました。】




「よし、じゃあこれからよろしくな!」


「グルアァァァァァァァァァァ♪♪♪」



とても嬉しそうに雄叫びをあげた。



そうだ、仲間になったことをパンドラとフィリアに報告しないとな。よくわからないような感じでこっちを見ているからな。




「パンドラ、フィリア いろいろあってこいつも仲間になることになった。まぁ……仲良くしてやってくれ。」




どちらもポカンとしていた。



まぁそうだろうな。今さっき釣り上げたばかりで暴れていた奴をいきなり配下にするなんて言ったんだ。

すぐには認められ………




「さすがですゼノン様!! そんな強そうな魔物を戦わずして従えてしまうとは……! 」




すぐに認められた。

そして何故か好感度が爆上がりした。




「ゼノン様〜〜、すご〜〜〜い! カッコい〜〜♪♪」




何故かべた褒めされた。




「グルァァァ♪♪」




いや、何言ってるか分からん。




「あなたもそう思いますか! なかなか見所がありますね!!」


「グルァァ! グルァァ?」


「そうです! それがゼノン様なのです!!」


「グルゥゥゥゥゥゥゥ♪♪」





いやなんで分かるんだよ!?

俺には「グルァァ」としか聞こえないんだが…


まぁ、仲良くなったようで何よりだな。





こうして俺達の家に1匹の住人が増えた。




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