第23話 釣り堀


魔王城っていうぐらいだから何か凄い仕掛けでもあるんだろうな〜と思っていた。しかしいざ探索してみると内部構造は一般家庭並みで特に驚くことはなかった。まさか最後に登場した地下で驚くことになるとは……



「なんで釣り堀があるんだよ!?」


「釣り堀が何なのかはわかりませんが……魔王城の下には水脈があったらしく、地下室を作ろうとしたところ掘り当ててしまったそうです。なんでも使い道がないからこのまま今まで放置されていました。」


パンドラからの返答に俺はびっくりした。



釣り堀という概念がないのはわかるが使い道がない?使い道し・か・ないように思う。


ここから見える範囲でも大小様々な魚影が見える状況から考えると、海か川に繋がっておりここが1つの入り江のようになっているんじゃないか?



それともう一つ、あのお食事大好きパンドラがここは使い道がないと言った。魚がいるにもかかわらず。


だとするとこの世界には魚を食べるという習慣が無いんだろう。もし食べる習慣があるのなら、お食事大好きパンドラがこれだけの魚を見てヨダレを垂らさないわけがない。これだけは断言できる!



……一回それとなく確認してみるか。



「パンドラ、魚って知ってるか?今泳いでいるのがそうなんだが……」


「魚?? あれは何なのかな〜とは思っていましたが……魚と言うんですね。初めて知りました。」


「私も〜〜、知らな〜〜〜〜い。」



やはり知らなかったようだ。



やっぱりパンドラもフィリアも知らないのか…

だとしたら今からあれが実は食べられるって言うのはなかなか勇気がいるな……


でも俺も食べてみたいんだよな、異世界の魚。



とりあえず勇気を出して真実を告げようとしたが、その雰囲気を察したのかパンドラから逆に質問された。



「まさかとは思いますがゼノン様……! もしかしてアレ……食べられるんですか………?」



今にも消え入りそうな声で質問してきた。


俺は答えるのに多少の罪悪感を覚えながらパンドラに真実を伝えることにした。



「……ああ。 実は……食べられるんだ。」


「実は食べられるんですか!!??」




目が飛び出るんじゃないかというほど驚かれた。

それはそうだろう。今まで食べられないと思っていたものが、実は食べられると知ったのだから。



「でも……実は美味しくないというオチがありますよね……!? そうだと言ってください!?」



まるで一つのドラマを見ているような迫真した表情で俺に縋り付いてきた。


残念だが…ここで俺はもう一つ残酷なお知らせをしなければならない…



「残念ながら……美味しいんだ…めちゃくちゃ。」


「めちゃくちゃ美味しいんですか!!??」


「しかも…癖になる味なんだ。」


「癖になるんですか!!??」




パンドラは現実に耐えきれなくなったのか、痙攣しながら地面に倒れ伏した。


これはもう御愁傷様としか言いようがない……

何百年もの間食べられないと信じていたものが実は食べられて、なおかつそれが美味しいときた。


食べること大好きな彼女からすれば、これは拷問並みに苦しい現実だろう。



「ゼノン様〜〜、これ食べられるの〜〜?」



おっとフィリア、パンドラは無視の方向か。



「ああ、食べられるぞ。」


「どうやって捕まえるの〜〜?」


もっともな質問だ。魚を食べる文化のない彼女達からすれば、水の中を泳いでいる魚を捕まえる方法など思いつきもしないだろう。


素潜りで捕まえることもできるが、ここは異世界だ。危険性もわからないし、もしかしたら魚が何かしらの攻撃をしてくるかもしれない。


なのでここは釣るしかないな。

釣竿は丈夫な木で代用できるが、糸と針をどうするかだな。フィリアに頼んでみるか。



「細長い丈夫な木と、糸の代わりになりそうな植物ってあるか?」


「あるよ〜〜。ここに咲かした方がいい〜〜〜?」


「ああ、頼む。」



まさか今の状況にピッタリな植物があるとはな。

自分で聞いてびっくりだ。



すると足元から一本の丈夫な木とワタのような植物が生えてきた。



[ゴムの木]

伸縮性があり、丈夫な木として評判がある。樹液を溶かして固めるとゴムが出来る。



[ワタ花]

フカフカのワタのような花。ベッドなどの素材としてよく使われる。細長くすると糸になる。




改めて見るとフィリアの能力は凄いと言える。

何もない砂浜から植物を生やすことが出来る、それだけでどこでもいろいろな素材を生産できるってことだ。


だがこの植物は地球にもあったような気がするぞ?



あとはこのゴムの木の先端に細長く糸のようにしたワタ花を頑丈に括り付けることで即席釣竿の完成だ。


後は釣り針をどうするかだが……



「何か手伝えることはございますか!?」



気づいたらパンドラが復活していた。


起き上がったところ俺が変な道具を作っており、それを見て魚を捕まえる道具を作っていると気づいたらしい。さすが魔道具職人だな。


「そうだな……作ってもらいたいものがあるんだが……金属を細く小さく、それでいて強度は強めの……こんな形をしていて……」



そう言って俺は砂浜に絵を描いて見せた。

なかなか絵心はないが、釣り針なんて「し」の字を描けばなんとなく伝わると思う。


「なるほど…このような形で小さく、それでいて強度は強めに…… 任せてください! すぐに取り掛かります!!」



そう言って階段を駆け上がっていった。


5分ほど経った頃、パンドラは急いで戻ってきた。

その手には大小様々な釣り針が入れられた箱を持っていた。



「試しにいろいろな形を作ってみました。もしかしたら折れる可能性も考えられますので……」



やはり彼女は凄腕の魔道具職人のようだ。

この短時間でいろいろな形の釣り針を複数作ってしまうのだから。



これで準備は整ったな。

後はこの糸の先端にこの釣り針を結びつけてと……


うん、なかなか様になった。

即席だし、リールもないから大きい魚は釣れないと思うが、小さな魚を釣るためには申し分ないな。


ついでだし2人の分の釣竿も作るか。

釣り針もまだまだあるし、みんなで釣った方が確率も上がるし何より楽しめる。



さて、早速試してみよう。

餌はパンドラにカバンからいろんな食材を出してもらい、いろいろ試していこうと思う。



「じゃあみんなで釣りをしようか!」


「「おぉーーー!」」




まず始めにお手本を見せる。

振りかぶって……投げる。簡単そうに見えるが初めはなかなか前に飛ばないもんだ。俺もそれなりに練習したから今は余裕で遠投できるようになった。


だが残念なことに糸を木に結んでいるだけだから投げても意味ないんだがな。


その場に垂らす ただそれだけ。



俺達は同時に糸を垂らして魚がかかるのを待った。


すると糸を垂らしてすぐ俺の竿がしなり始めた。魚がかかった証拠だな。




「わっ!ゼノン様の竿がすごく曲がってます!」


「ああ。このように竿が動き出したら引き上げるだけだ。」


「ゼノン様〜〜、頑張れ〜〜〜〜♪♪」




俺は力を込めて竿を引き上げた。

すると30センチほどのイキのいい魚が釣れた。





[ロケットイワシ]

気が弱く死んでしまった場合、ロケットのように突進してくる。焼いてもよし、捌いてもよし。





知ってるイワシと何ら変わりはないが、尾がブースターみたいになっているな。とりあえず突進されないように締めとくか。


するとパンドラとフィリアが寄ってきた。




「ゼノン様! これが魚ですか!?」


「初めて見た〜〜〜〜。」




本当に魚を知らないようだ。

ならたくさん釣って魚の良さを知ってもらおう。


すると今度はパンドラの竿がしなっていた。




「パンドラ、竿に何かかかってるぞ?」


「えっ?………あっ!ほんとです!」




そう言うとパンドラは竿を手に取り釣り上げようとしたが、大物がかかったらしくなかなか上がらない。




「んーーーーー!!」


「パンドラ頑張れ〜〜〜〜。」




くの字になるぐらい竿はしなっているがなかなか折れず耐えている。この木はかなり伸縮性が強いようだ。


それよりも早くパンドラを手伝ってやらないとな。


俺はパンドラの後ろからそっと手を回し、一緒に引き上げてやることにした。女性の後ろから手を回すとかめっちゃ緊張するが仕方ない……



「落ち着け。俺も一緒に引いてやるから大丈夫だ。」


「んっ///// はい…/////」




照れているがまずは目の前の魚だ!

これはきっと大物だろう。俺が支えてもなお引く力が弱まらない。


そこで俺はフィリアにも手伝ってもらうことにした。




「フィリア! 俺を引っ張ってくれ!」


「わかった〜〜〜〜!」




そう言ってフィリアは俺に抱きついた。




「……フィリア、それじゃあ抱きついてるだけだ…もう少し引っ張ってくれないか?」


「だって……パンドラだけずるい……」




やだ何この可愛い生物!!抱きしめたい!!

って今はそんなこと言ってる場合じゃないな!?



微力だが引く力は強くなったはずだ!

今なら引き揚げられると信じたい!




「よし! 『せーの』の掛け声で引き上げるぞ!

いくぞ!? せーの……!」





バッシャァァァァァァァァァァァ!!





俺達はなんとか引き上げることに成功した。

が、同時に後悔もした。




引き上げたそれは、体長7〜8メートルはあるであろう4つの首を持った巨大な亀だった。








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