第3話 波風は立たないよ、ごめんね

僕が通ってる高校は自宅から一番近いところにある高校だ。偏差値は県内で一番良いところらしいのだが、怠惰な僕がなぜ入学できたのかは容易に想像できるだろう。この僕の人となりを見て聞いて触れて味わって、それでもわからない場合は考えてくれ。(嗅覚の記述がないのは怠惰であるという証明のほかないのだけれど)


おべんちゃらはここまでにして、実際のところ『怠惰を求めて勤勉に行き着く』ということである。勤勉にすればある程度のことができてしまう僕にとって、怠惰であることに全力を注いでいる。スポーツでも勉学でも芸術でも。(有紀に言わせると僕の収めてきた成果はすべて僕の運の良さに起因する偶然、らしいが。)


 ちなみに有紀に女子高ではなく僕と同じ共学の高校にした理由を尋ねたら、

『私がわざわざ女子の群れに出向く必要があるかしら?』だそうだ。そのとおりだ、間違いない。僕は有紀には甘いのだ。時に甘すぎて嫌気がさすことがあるほどに。


 有紀は有紀だけで有紀であるし、僕は僕だけで僕なのだ。彼女に何かを求めてはいけない。それはわかっている。僕は彼女に陶酔していて、彼女は僕を無造作に狂わせる。恋人になりたいだとか、デートに行きたいだとか、そんな単純な話ではなく本当に彼女の人生の歯車の一部になりたいのだ。どんなに小さな部品でもいい、有紀に対しては怠惰でなく勤勉で、利他的でなく利己的でいたいのだ。


 もっとも彼女は生粋のレズビアンであるから、これだけ愚考したところで意味のないことではあるし、彼女が男性を受け入れようとしても僕には止める勇気はないんだろうけど。


「なんか、、無駄っていうか、、人生を浪費してるよなぁ。」

どう考えても日々を怠惰に暮らしているもののセリフではないのだけれど。


そんなことをつぶやくと放課後のチャイムがなった。

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