深緑の君
「私の前で野菜を調理することを思案するのやめて?」
冷えた調理済みの肉がある。こいつをチンすれば食べられるだろうか。そんなとき、玄関のドアが開く音がした。
「誰?」
壁から廊下を除くとそこには・・・
目を見開いた涙腺が刺激されるのを感じる。
「母さん!!」
「キッチンから呼ばれるなんて小さい頃ぶりねぇ」
「心配したんだよ?連絡もなくいなくなるなんて。」
安心した。自分の中にそれがあったことも、母がこうして生きていることもだ。
「あら、あなたの携帯にメール送信したつもりだったのだけれど。」
携帯を見る。確かにメッセージがははから届いていた。
「あ、ごめん気づかなかった。」
ほらね?と言わんばかりの顔をして母はレジ袋の中から恐らくカレーの材料と思しきものを取り出し、冷えたそれをみた。
「これ腐ってるじゃない。食べないならちゃんと捨てなさいな。」
「それ俺じゃなくって・・・」
しまった、無計画に物は言うもんじゃないと自覚した。もし仮にユグがいることがばれたら何らかの知的生命体が家にいることがばれる。大方、研究所か警察行だろう。
「いやぁ俺、俺だよそれ作ったの。」
「含みのあるいいかたするんじゃないの。」
「あらっ?カレーのルーとかいう大事なもの忘れちゃったわ~勝手きて?」
「冷蔵庫に・・・」
「アレ賞味期限切れよ。」
「でもおいしくないだけで・・・」
「まずいカレーが食べたい?」
しゃあなしに買いに行くことにした。ユグは・・・母が俺の部屋を勝手に開けるとも思わないので、考えないことにした。
おかしい、さっきから身体が厚いのだ。呼吸が激しくなる。
彼の部屋からキッチンを覗き見する。彼の母だ。そのまましばらく観察していると、おそらく私の存在に気づき、こちらにやってくる。
「あなたはだぁれ?息子の彼女さん?」
「え?ただの木みたいなヘンテコ生物ちゃんですけど。」
「奇抜な自己紹介ね。お名前は?」
「ユグドラシルです。さっき息子さんにつけてもらいました。ユグって呼ばれてます。」
「さっき・・・名前を・・・付けてもらった?」
そのままのことを伝えただけなのに、この人は違和感を覚えているらしい。
「あと、彼女ではないです。私はただの木ですし。」
「あら、そうなの?私には木の仮面をつけた女の子にしか見えないわ?」
僕の胸のしこり あーとぶん @artbun
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