シーン30~39

―― マンションの玄関口


サンダルを履く詩衣。

プリントのワンピース。

詩衣も外へ出て、鍵をかける。

詩衣「お待たせ!」

ニッコリ笑う詩衣。

朱雀の空いた手に腕をまわす詩衣。



シーン31

―― マンション階段~マンション前


階段を下りてマンションの外へ出る朱雀と詩衣。道に停まるサイケデリックに塗装されたおんぼろワンボックスカー。扉を開けて待っていた健吾たち。

健吾「よお!」

朱雀「よお」

千春「詩衣ちゃん、おはよ。荷物はこっち」

詩衣「おはよ。朱雀、荷物」

朱雀「詩衣、俺は運搬係か? 千春、ほい」

大きなバックを千春に渡す朱雀。

健吾「詩衣ちゃん、乗って」

詩衣「うん」

車に乗り込む詩衣。

朱雀も後から乗る。

最後に千春が乗り込む。



シーン32

―― ワゴン車、車内


信郎「おはよ」

運転席に信郎。

助手席に健吾。

健吾「さて、んじゃ、行きますか?」

千春「しゅっぱーつ!」

詩衣「しゅっぱーつ!」

健吾「音楽、音楽」

軽快な音楽が鳴り始める。



シーン33


BGM IN~

走り出すワンボックスカー。

街中を軽快に走る。

車内では大騒ぎの五人。

お菓子を配る詩衣。

大声で歌う。

ふざけあう朱雀。



シーン34

―― 伊豆半島


窓から見える海。

眠っている健吾、千春、朱雀。

運転している信郎。

海を見ている詩衣。

信郎「作詞するんだって?」

詩衣「え、うん」

信郎「で、どう?」

詩衣「うん」

詩衣の隣りで眠っていた朱雀が、ごそごそと動きポケットから折りたたんだレポート用紙を信朗に差し出す。

信郎「ん?」

受け取る信郎。

再び眠る朱雀。

レポート用紙を見る信郎。

突然の急ブレーキ。

飛び上がる健吾。

驚く千春。

詩衣「きゃ!」

健吾「どうした?」

千春「何?何?」

レポート用紙を見つめる信郎。

健吾「どうした? 信郎」

信郎「見ろよ」

レポート用紙を健吾に渡す信郎。

健吾「ナニ?」

信郎「詩衣の歌詞」

レポート用紙を見つめる健吾。

後部座席から覗き込む千春。

健吾「おおっ」

千春「いいじゃん」

健吾「作詞家誕生?」

信郎「ライブハウスが満員になる日も近い」

健吾「ですね」

詩衣を見て笑う三人。

朱雀は寝ている。

詩衣「え、え、え?」

信郎「急ぐか?」

千春「急ごう!」

再び、ワンボックスカーは走る。

キラキラ光る海が見える。



シーン35

―― 朱雀のマンション入口


SE バイクの止まる音。

郵便局の配達バイクが止まる。

バイクから降りる郵便配達人。

宛名を確認しながら、階段を駆け上がっていく。

通路から見える町並み。

朱雀の部屋で立ち止まる郵便配達人。

様々な郵便物の中から、エアメールを郵便受けに入れる。

FROM HIDEHIKO FUSANO。

「カタン」と乾いた音と共に部屋の中へ落ちる。

通路を帰っていく、郵便配達人。



シーン36

―― 伊豆下田、伊野旅館駐車場


よく晴れた昼下がり。

砂利を踏みしめてワンボックスカーが旅館駐車場に侵入してくる。

旅館玄関口を過ぎ、旅館奥の木立の中へ。



シーン37

―― 伊野旅館裏、焼却場


旅館の自家用車らしいトラックの駐車してあるトタン屋根の下、ワンボックスカーは停車する。

横にはゴミ焼却機や薪が置いてあり、その近くで初老の男性(佐崎 仁 さざき じん)が、箒を持って掃除をしている。

佐崎は車に気付き手を止める。

健吾・信郎はドアを開け車から降りる。


信郎「仁さんお久しぶり」

佐崎「誰かと思えば信郎君」

健吾「今年もお世話になります」

佐崎「いえいえ、ゆっくりしてってください」

朱雀「仁さん、お袋は?」

佐崎「お帰りなさい。事務所にいらっしゃると思います」

信郎と健吾は、車の後部のドアを開け荷物を降ろし始める。

千春と詩衣はサイド扉の前で朱雀と佐崎の会話を聞いている。

朱雀「紹介するよ。仁さん、俺の大学の友達、詩衣。仁さん」

佐崎に詩衣を紹介する朱雀。

佐崎「こりゃ驚いた。ぼっちゃんの彼女ですか?」

詩衣「かのじょ?」

朱雀「仁さん……」

佐崎「ああ、すみません。佐崎です。仁って呼んでください」

詩衣「桜木詩衣です。お世話になります」

健吾「ちっちゃい頃から、色々とお世話になったんだ」

信郎「機材どうする?」

朱雀「あ、仁さん蔵は空いている?」

佐崎「朝、掃除しましたから、鍵も開いたままですよ」

朱雀「じゃ、このまま運んじゃおう。俺、ちょっとお袋のとこへ行ってくるよ。昼飯どうする?」

信郎「何か食いてー」

朱雀「OK! じゃ、蔵のほうに先、行ってて」

詩衣「蔵って?」

信郎「朱雀の部屋兼練習場所」

詩衣「へぇー、朱雀の部屋って、蔵なんだ」

千春「すげーぞ」

信郎「朱雀んち客商売だから、ウルサイからって閉じ込められたらしいぜ。その代わり少々音出しても外には漏れない様になったらしい」

佐崎「荷物運ぶんだったら、そこのリヤカー使ってください」

信郎「ありがとう仁さん」

リヤカーに機材や荷物を乗せる信朗と千春。

詩衣は見てるだけ。

最後に詩衣のバックが一番上にポンと乗せられる。

荷物を積み終え、焼却場の横の通路からその裏へとリヤカーを押して移動する四人。

リヤカーが通る広さしかない砂利道を信朗が引っ張り、健吾と千春が押している。

詩衣はきょろきょろしながら、ついて行く。



シーン38

―― 伊野旅館裏、蔵の前


古めかしい土蔵。

入口は作り変えてあり格子の引き戸。

小さな窓が幾つかある。

詩衣「暑くないの?」

信朗「大丈夫、エアコンもあるし、防音もバッチリ」

入口の前にリヤカーを止め、中を覗きこむ信朗。

詩衣は蔵の周りを一回りしている。

信朗「じゃ、みんな荷物持って入って。私物は二階ね、機材は一階に入れて」

千春と信朗は荷物を順番に蔵の中へ持って入っていく。

詩衣のバックはいつの間にか蔵の中へ。

詩衣は、蔵の中を覗きこむ。中には入らない。



シーン39

―― 蔵の内部、一階


入口右に階段があり二階に続いている。

小さな窓が三方と入口横にある。

床は板張りで、椅子が数脚と音楽機材が雑然と置いてある。

一番奥に白い布がかけられたモノがあり、その横も、白い布がかけられてある。

詩衣は入口横から、機材の確認をしている千春と信朗を見ている。

健吾はうろうろと部屋の中を見て歩いている。

信朗「詩衣、ドラムとアンプにかけてあるシーツ取っておいて」

詩衣「あれ?」

信朗「そうだよ」

奥のシーツを取るとドラムのフルセットとベースやギターのアンプが出てきた。

詩衣「まるでライブハウス」

信朗「だろ! 朱雀がおばちゃんとおっちゃんを騙して買わせたもんだよ。大学に行くことを交換条件にね」

千春と信朗は持ってきた機材と楽器を準備している。

次々と楽器がセットアップされていく。

ギターとベースがそれぞれのスタンドに収まり、アンプに電源が入ったとき、朱雀が入ってきた。

朱雀「おっ、早いね~。メシどうする? すぐに食えるけど」

信朗「腹減った!」

千春「俺も」

朱雀「じゃ、メシ先にするか。そのままにして行こう」



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Ballade バラッドに抱かれて 森出雲 @yuzuki_kurage

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