シーン20~29

―― 校舎内


全員が楽譜とサンプルCDを受け取った時、もうすっかり日が暮れていた。

学舎の窓に灯る電気の灯り。

朱雀の声「お袋? 俺。うん、うん、解っている。で、さぁ……」

中庭から手を振る健吾・信朗・千春。

窓辺で電話をする朱雀。



シーン21

―― 朱雀の部屋


夜、ベッドにもたれ、並んでケーキを食べる朱雀と詩衣。

大きなイチゴの乗ったケーキを頬張る朱雀。

笑いながら、それを見ている詩衣。

じゃれ合う子犬のような二人。

夜はふけて行く。

窓の外には、星空。



シーン22

―― 日常風景 


翌日、忙しいものの、平和で幸せな時が続く。

バンドの練習に参加する朱雀。

楽譜の修正をしたり、演奏の感想を言ったり。

詩衣は、アルバイトしながらも、歌詞の事が頭から離れず、いつもペンとメモ帳を離さない。

時には、二人でウィンドショッピング。時には、公園で、ふざけ合ったり。暮れ行く夕陽を、寄り添って見つめたり。

そして、一週間が過ぎた。



シーン23

―― 朱雀の部屋


詩衣はいつもの様に朝食の準備をしている。

ベッドの中には、昨夜バンドの練習で帰宅の遅かった朱雀。

台所で朝食を作りながら鼻歌を歌っている詩衣。その曲は、着メロに登録されている曲。

朱雀を揺り起こす詩衣。

詩衣「朱雀、起きて! 時間よ」

窓を開け、新鮮な空気を入れる詩衣。

風がカーテンを揺らす。

同時に本棚から何かが落ちる。

落ちたものを拾い集める詩衣。

その中に数通のエアメール。

差出人を見る詩衣。



シーン24

―― エアメール


差出人は、詩衣と朱雀の先輩。房野 英彦(ふさの ひでひこ)。ニューヨークから送られている。



シーン25

―― 本棚前からキッチン


拾い集めたものをそのまま本棚に置く詩衣。

再び、台所で朝食を作る詩衣。

二人の皿をテーブルに運ぶ詩衣。

再び、朱雀を揺する詩衣。

詩衣「ねぇ、時間だってばぁ」

シーツをめくる詩衣。抱きつく朱雀。

詩衣「目が覚めているんだったら、早くおきてよぉ」

詩衣の顔を両手の平で包み、見つめる朱雀。

詩衣「なに?」

朱雀「おはよ」

キスをする朱雀。

詩衣「もぉ。早くシャワー浴びなさい!」

朱雀「ハーイ」

シャワールームに向かう朱雀。

腰に手をあてて怒る詩衣。



シーン26

―― 室内、キッチン付近


鼻歌を歌いながら、出来た朝食をテーブルに運ぶ詩衣。

スクランブルエッグ、ベーコン、サラダ。トースターからこんがり焼けたトーストを出す。グラスに、牛乳を注いでいる。



シーン27

―― 室内


シャワールームの扉が開き出て来る朱雀。

いつもの様にジーパンに上半身は裸、首にタオル。

頭をゴシゴシ拭きながら、テーブルにつく。

朱雀「おおっ、美味そう!」

詩衣「ねぇ」

朱雀「ん?」

詩衣「これ。読んでみて」

朱雀「何?」

一枚のレポート用紙に書き込まれた歌詞を読む朱雀。

その朱雀を心配そうに見つめる詩衣。

レポート用紙から目を離し、詩衣を見つめる朱雀。

朱雀「いいじゃないか、詩衣。いいよ!」

詩衣「ホント? うまく出来ている?」

朱雀「うん、いける。絶対、大丈夫!」

テーブル越しに右手を伸ばし詩衣の頬に触れる朱雀。

その右手を両手で包み込むように、愛撫する詩衣。

詩衣「嬉しい」

朱雀「そうだ」

詩衣「どうしたの?」

朱雀「詩衣、バイト休みだったよね?」

詩衣「うん、定休日だし」

朱雀「休み、3日ほど延ばせる?」

詩衣「うん、大丈夫だと思うけど。なに?」

朱雀は、スマートフォンで誰かに電話。

朱雀「水着ってある?」

詩衣「昔のだけど」

朱雀「うん、それでいいよ。あ、もしもし、俺。健吾、今日だっけ?」

朱雀は健吾と電話。

朱雀「うん、で、何時? うん」

詩衣「……」

朱雀「OK! 解った。じゃ、また後で」

詩衣は不思議そうな顔で朱雀を見ている。

朱雀はニコニコと笑いながら、電話を切る。

朱雀「詩衣、海行こうか?」

詩衣「ホント? いつ? どこ行くの?」

朱雀「バンドの合宿で実家に帰るんだ」

詩衣「実家?」

朱雀「うん、実家」

詩衣「実家って?」

朱雀「伊豆で旅館やっている」

朱雀はトーストを頬張りながら答える。

詩衣「うそ」

朱雀「健吾の車で機材積んで行くから、あと一時間くらいで、迎えに来てもらう」

詩衣「え、ええっ」

朱雀「うん」

詩衣は突然、慌て出す。

詩衣「え、どうしよう、何? 何がいる? 服は、えっと、その前に、お風呂入って、髪、髪はカットに行く時間ある? その前に、えっと、歯ブラシと着替えと……」

朱雀「水着」

黙々と朝食を食べる朱雀。

そわそわと落ち着かない詩衣。

詩衣「水着? え、どこだっけ? えっと、水着どこに仕舞ったっけ」

バタバタと動き出す詩衣。そんな詩衣を見ながらニコニコ笑う朱雀。

詩衣「ねぇねぇ、朱雀」

朱雀「なに?」

詩衣「お母様とお父様って、いらっしゃるのよね?」

朱雀「ああ、今んとこ『死んだ』って聞いていないし」

詩衣「あ、」

思わず吹きだす朱雀。



シーン28

―― 室内。窓付近


開けられた窓から、風が流れ込む。

揺れるカーテン。

窓の外で鳴るクラクション。

SE クラクション×2



シーン29

―― 室内

窓を閉める詩衣の手。

ポニーテールの詩衣の髪の毛。後姿。

扉の前で待つ朱雀。

いつものデパックを担いでいる。

朱雀「早く!」

詩衣「うん」

大きなバックを持ち上げる詩衣。

朱雀「何なんだ? そのバック」

詩衣「だって」

朱雀「たった数日なのに、いったい何が入っているの?」

詩衣「着替えでしょ、化粧道具に、水着、えっと、それからドライヤーにバスタオルに歯ブラシと」

朱雀「俺んち、旅館なんだけど?」

詩衣「だって、女の子はこのくらい必要なの!」

朱雀「解ったから、早く」

大きなバックを抱えきれない詩衣。

詩衣「朱雀?」

朱雀「なに!」

詩衣「持って……」

朱雀「ばか、自分で持てないくらい詰め込むんじゃないの」

仕方なしに、詩衣のバックを持ち上げる朱雀。

詩衣「ありがと」

大きな詩衣のバックを肩に担いで、外に出る朱雀。



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