プロローグ2
「君が見ている景色を私も見たいわ」
彼女が僕を見ながら言った。二人で歩いていた途中で公園のベンチに座り、そこで同じ景色を見ていた。見ている景色は何も変わらない筈なのに、その一言で、彼女は違う世界にいるように思えた。
「ならこっちに来てみる?」
「そっちに行っても、君が見ている景色は見えないの、だって君と私が見ている景色は、全くの別物だもの」
そう言った瞬間、何気ない疑問を言葉にしたことを後悔する程に、彼女の顔は悲痛を帯びていて、今にも泣きそうだった。そのせいで、ますます思考が混乱し、言葉に詰まった。
「え、...なんで...?」
「...ごめんね...」
彼女がそう一言謝ると、ベンチから立ち上がり、少し進んでこちらを振り向き、
「あなたには私がどう映って見える?綺麗な女の子?それとも、醜い人間?ううん、どちらも正解で、答えなんてないの、...矛盾してるね...」
今にも泣きそうになっている表情をなんとか笑顔にしようとしながら彼女は言った。こんな思考の中で、彼女の言葉を理解できる筈もなかった。
「何を言ってるの?、どうして突然そんなこと...」
「私の言ったことと私の存在がいつか理解できる時が来るかもしれないし、出来ないかもしれない、でも、私はこの世界であなたと出会えて本当に良かった、この気持ちだけは確かだから」
「それは僕もだけどさ...」
僕がそう言うと、彼女は再び前を向いて歩き出す。彼女を追いかけるように自分も立ち上がり、ゆっくりと歩き始めた時、彼女は再び止まった。
「もう行かなきゃ」
彼女はこちらを振り向かず、独り言を呟いていた。
「え?」
僕が疑問を呈して、思わず声に出した時、彼女はこちらを振り向き、微かな声でこう言った。
「ずっと好きだったよ」
桃源郷にいるあなたへ 常上功成 @ophia
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