ACT6-1 雨の中

 木曜日、授業が終わってホームルームの時間。先生が事前に言っていたように、来週のオリエンテーリングの説明が行われた。


「予定は二泊三日で、一日目は周辺散策とキャンプファイアーをやります。二日目のオリエンテーリングは班行動で、目的の史跡跡まで行ってもらうわね」


 山口さんが先生に班員表をもらい、黒板に書き写していく。俺と鷹音さんは違う班だ――鷹音さんの班には中野さん、渡辺さん、そして男子は高寺、荻島がいる。


 俺はどこの班になるだろう――黒板を何気なく眺めているうちに、あることに気づく。


 俺と、朝谷さんの名前が出ていない。山口さんが黒板に少し丸い字で名前を書いていく――そして、最後の班に入る。


 朝谷霧、千田薙人。男子二人、女子三人の班に、その名前が一緒に含まれていた。


「うちのクラスは女子の方が多いから、千田くんと佐藤くん、申し訳ないけど二人でもいい?」

「はい、僕は大丈夫です」

「こっちもOKです」


 クラス委員の佐藤君がこちらを向き、眼鏡を直す仕草をする。よろしく、ということらしい。彼が頼れるやつだというのは、今までクラスで見ていて分かっている。


 朝谷さんは俺の方を見ると、パクパクと右手を動かして見せるが、それが何を示しているかは分からない。分かるのは、あえて言うならば可愛いということだけだ。


「薙人さん、朝谷さんと同じ班ですね」

「あ、ああ……オリエンテーリングの間だけだけど」


 そんな言い訳っぽいことを言ってる場合じゃない――と、心を決めて鷹音さんの方を見ようとすると。


「鷹音さん、私と同じ班だね。よろしくー」

「よろしくお願いします、渡辺さん」


 前の席の渡辺さんが振り向いて、鷹音さんと和気あいあいとしている。その横顔を見る限り、鷹音さんは何も気にしてないみたいだ。


「この班で決まったコースを巡って、ゴールに着いたら少し散策してもらって、バスで合宿所に戻ります。スマホを持っていくのは許可されてるから、いい景色を見つけたら写真撮ってもいいわよ、写真屋さんはお願いしてるから記念写真は撮ってもらえるけど」


 班の発表が終わって、ホームルームも終了となる。同じ班になったメンバーが集まっているので、俺も佐藤君と合流し、朝谷さんのところに向かう。


「千田くん、佐藤くん、よろしくね」

「うん、よろしく。千田くんは体力があるから、オリエンテーリングも早く回れそうだな」

「ああ、それは善処するけど……コース的には結構きつそうだな」

「疲れちゃったら、体力のある千田くんにおんぶしてもらったりしてね」

「霧ちゃん、めっちゃ大胆……それじゃ私と伊名っちはどうする?」

「うちがサユのことおんぶしてあげてもいいよ? クラス委員二人一緒って、なんか強い班って感じだよね」


 山口さんは下の名前が『紗友香』なので『サユ』と呼ばれている。朝谷さんと友達二人が一緒の班というのは、これもクジの巡り合わせか。


 それにしても朝谷さんが「おんぶして欲しい」なんて言い出すとは――それも、友達としての距離感ならではなのか。


「あー、でも来週ってなんか、箱根の方って雨っぽいよ」

「来週の予報って当たるの?」

「山の天気って変わりやすいっていうよね。一応カッパとか持っていった方がいいのかな」

「雨が降ったら中止になるんじゃない?」


 女子三人がかしましく話している横で、さっき配布された資料を見て、オリエンテーリングは雨天決行だが、天気が荒れる場合は中止もあるというのを確かめる。


「僕はクラス全体を見てないといけないから、何かあったら班を離れるかもしれない。千田君、大丈夫かな」

「その時はその時で、何とかなるんじゃないか」

「そう言ってもらえると助かるよ」


 オリエンテーリングの日になってみないと天気なんて分からない。予報が外れて晴れたりすることもあるんじゃないだろうか。


   ◆◇◆


 箱根での一日目は、クラス全員で合宿所近くにある神社まで行ったり、飯盒炊爨をやったりした。中学の時も林間学校があり、飯盒で米を炊いた経験があるため、大きなミスもなく並行して作ったカレーも上出来だった。


 夜に行われたキャンプファイアーの時は、星空が綺麗に見えていた。天気予報は外れて明日は晴れるのだろうと、その時は思ったのだが――。


 二日目の朝は薄曇りで、高原らしく空気がひんやりとしていた。スタート地点は山の中のパーキングで、合宿所からバスで移動したあと、説明を受けてから次々にオリエンテーリングに出発していく。


 一年生の全クラスを二つに分け、それぞれ別の地点からスタートする。、A、C、EとB、D、Fという分け方だ――スタート地点に集まった100人余りの生徒の中に、酒井さんの姿も見えた。


「Cクラス6班が出たから、次は私たちのクラスね。何かあったらすぐ連絡するのよ、コースからは外れないこと」

「せんせー、途中で雨とか降ってきたらどうします?」

「予報だとそんなに強くならないっていうけど、そうも言ってられない天気ね……もし強くなるようだったら、安全なところで天候が落ち着くのを待つとか、班ごとに適宜判断してね」


 オリエンテーリングのコースは一般の客もいるし、整備をする人もいるので、不測の事態が起きても問題なく対処できる。


「さて、そろそろ出発か。みんな、準備運動はしたか?」

「運動前のストレッチって、なんか逆効果って話もあるよね」

「はー、それより結構寒いんだけど。千田くん、ウィンドブレーカーあったかそうだね」

「まあ、動いてるうちに暑くなるんじゃないかな」


 伊名川さんにウィンドブレーカーの生地を摘まれる――なんだろう、朝谷さんと同中で友達だったということで、山口さんと伊名川さんの距離感に影響が出ている。


 朝谷さんも少し寒そうにしている――別のグループの鷹音さんはというと、ハイキングの備えは万端だ。ジャージ姿でさえ凛々しく見える。


 目が合うと、鷹音さんは笑顔で手を振ってくれる。朝谷さんもそれに気づいて手を振り返していて、鷹音さんと一緒にいる中野さんは足踏みをして身体を温めていた。


 鷹音さんたちの2班が先に出発する。同じ班の高寺と荻島はもう一人の男子と話しつつ歩いていたが、先生に注意されて整列して歩いていく。


「じゃあ最後の班も出発ね」

「はい。先生、またゴールでお会いしましょう」

「先生も同じコースで後から追いかけていくから、寄り道してると追いついちゃうわよ」


 佐藤君が先生に挨拶をして、先陣を切っていく。その後に山口さん、朝谷さん、伊名川さんと続き、しんがりが俺になった。


「千田くん、ちゃんと付いてきてねー」

「あ、ああ……もちろん」


 これくらいの山道はそれほど苦労しないだろうが、気を引き締めて行くに越したことはない。


 しばらく歩いたところで列が崩れ、女子三人が並んで話しながら歩き始める。俺は周囲に目を配りつつ、鷹音さんの班はどうしているだろうと考えていた。


 ◆◇◆


 出発して一時間ほど経ったところで先に出た班にアクシデントがあり、佐藤君と山口さんが救護のために待機することになった。合わない靴を履いてきてしまい、靴擦れで歩けなくなってしまったらしい。


 朝谷さんは、山口さんを置いていくことを気にしている伊名川さんに「サユちゃんと一緒にいてあげて」と言った――それは、つまり。


「今からペース上げたら、前にいる鷹音さんたちに追いつくかな?」


 朝谷さんと俺の二人だけで、山道を歩いている。朝谷さんは体力十分のようだが、なかなか気温が上がってこないので少し寒そうにしていた。


「ペースは変えない方がいいと思うけど、天気が心配だな」

「降ってきちゃうかな?」

「さっきより辺りが暗くなってる気がするから、いつ降ってもおかしくないかな」

「あー、そうなんだ。私が『霧』だから、雨女なのかな?」

「そんなことはないと思うよ。ラジオ収録の日もよく晴れてたし」

「あー、そっか……そうだよね、あの日めっちゃ晴れてたよね。変装なんてしてたから、厚着で暑くって。ナギ君涼しそうな格好でいいなとか思ったりして」


 朝谷さんが饒舌になる。けれどその後は言葉少なになって、しばらく黙々と山道を歩く。


「……ナギ君、あの時は……ね」


 とても小さな声で、朝谷さんが言う。何を言おうとしたのか、それが『ごめんね』だとして、何に対しての言葉なのか。


「あの時……って……」


 ――言いかけた時、周辺の林全体からザァ、と音が聞こえてくる。


 大粒の雨。ナップザックから雨具を取り出すが、着る前に濡れてしまう――山の天気は変わりやすいというが、実際これほどとは思っていなかった。


「降ってきちゃったっ……それもすっごい土砂降り……!!」

「やばいな……どこかで雨宿りしてやり過ごそう。確か、さっきの看板に……」

「ナギ君、あそこ、休憩するところじゃない?」

「ああ、あそこまで急ごう。朝谷さん、足元に気をつけて!」


 二人で走り、屋根のあるところまで行く。休憩スペースらしい円形の屋根はそれほど大きいものではなく、中に入っても風が入ってきてしまう――だが、このまま山道を進むよりはいいだろう。


「さっきまで大丈夫そうだったのに、困っちゃうよね……あっ……」


 朝谷さんは機嫌を悪くしているわけでもなく、楽しそうに言う――しかし、空からゴロゴロという音が聞こえてくると、明るかった表情が曇る。


「朝谷さん、もしかして……」

「だ、大丈夫。ちょっとね、雷が苦手なだけ。でもみんなそうじゃない?」

「それは、確かに……俺も、得意ってほどじゃないな」

「……どうしよ。待ってたら止んでくれるかな……」


 屋根の外には叩きつけるように雨が降っていて、少し先も見えないくらいの水煙だ。


 鷹音さんは大丈夫だろうか。地図を見ると雨宿りができそうな場所があるので、先に行った班はそのあたりにいるだろう。


「……くしゅんっ」


 そのとき、朝谷さんがくしゃみをする。できるだけ音がしないようにしていたが、俺が気づくと朝谷さんは顔を赤くする。


「……ナギ君、ちょっと向こう向いててもらっていい?」

「あ、ああ……」

「ナギ君も、濡れちゃった服の水気を取った方がいいよ。体温を奪われちゃうから」


 そうは言っても、この場でできることは限られている。ウィンドブレーカーを脱いで、濡れたジャージをタオルで拭く――もちろん、朝谷さんには背を向けたまま。


「……んっ……」


 雨音にかき消されそうなくらいの、朝谷さんの息遣い。それがやけにはっきり聞こえて、

気をそらすために雨の降り注ぐ屋根の外に視線を向ける。


「……このタオルじゃちょっと小さかったかな。ナギ君、もうこっち見ていいよ」

「朝谷さん、俺もう一枚タオル持ってるから使うといいよ」


 後ろ手にタオルを差し出す。朝谷さんは少し躊躇しているようだったが、しばらくして受け取ってくれた。


「ありがと、ナギ君……このタオル、いい匂いするね」


 いい匂いに越したことはないが――朝谷さんが俺の家のタオルを使っていると思うと、何とも言えず落ち着かない。


「……くしゅんっ」


 朝谷さんがもう一度くしゃみをする。やっぱり、濡れた服の水分をタオルで吸ったくらいでは、この気温の低さでは寒いのだろう。


「……ご、ごめんね、ちゃんと拭いたから大丈夫」

「朝谷さん、その……風邪引かないようにした方がいい。これ、使ってもらえるかな」


 俺は上のジャージを脱いで、朝谷さんに差し出す。


 こんなの、羽織りたいと思うわけがない。断られても仕方がない――だが、朝谷さんが風邪を引いてはいけない。


「……ナギ君が風邪引いちゃうよ?」

「俺は大丈夫、ウィンドブレーカーだけでも結構温かいから」

「駄目、ちゃんと温かくしておかなきゃ。私は大丈夫、それはナギ君が……」


 朝谷さんが俺の差し出したジャージを戻そうとして、手を伸ばした――その時、辺りが何度か閃いて、遅れて雷が落ちる音がした。


「っ……!!」


 何が起きたのか、一瞬分からなかった。


 雷に驚いた朝谷さんが、俺の胸のあたりを掴んでいる。しがみついていると言った方がいいかもしれない。


 俺がジャージを貸そうとしなかったら、こうはならなかったのか。雷が怖いのなら仕方がない、でも本当に俺は仕方ないと思っているのか――頭の中を、行き場のない考えが巡る。


「……ごめん」


 小さな声で、朝谷さんが言った。咄嗟のことだし、雷が怖いのは無理しなくていい。そうやって声をかける前に、様子がおかしいことに気づいた。


 朝谷さんは、俺の服を掴んだままでいる。少し身体が震えていて、俺の顔を見上げる彼女の目が潤んでいるように見える。


 泣いているわけじゃない。雨のせいだ――けれど、安易な気休めを言うことができない。


「……どうして私たちって、いつも雨なのかな」


 朝谷さんが言っているのが何のことか。深いところに沈めたつもりだった記憶が、どうしようもないほど鮮明に浮上する。


 初めて、一緒に出かける約束をした。あの日も渋谷には雨が降っていた。


 朝谷さんは約束の場所に来なかった。急に来れなくなったことを、あの時の俺は仕方がないことだと思った。


 そうやって『仕方ない』と割り切ったことが、朝谷さんに何かの見切りをつけさせたのか。それとも、それは関係がなくて、俺とはやはり付き合えないと思った、それだけの話なのか。


 今なら尋ねられる。あの日に何が起きていたのか、確かめたいという思いもある。

 

 ――それは、鷹音さんに対する裏切りじゃないのか。


 『友達』なら、知る必要のないこと。俺が朝谷さんと付き合っていたと思っていた間のことは、徐々にでも忘れていかなくてはいけない。


「今日……一緒の班になることになって、ナギ君はどう思ってた……?」

「……本当を言うと、少し驚いた。そういうこともあるのかって」

「それは、私と同じ班になるのが嫌だったから?」

「それは違う。そんなことは、思ってないよ」


 こんなことを言っても言い訳のように聞こえるだけだ。『元カノ』と一緒の班で、何も思わないでいられる方が難しいなんて。


 付き合っている二人らしいことを何もしないで終わっているのに。例え朝谷さんが『元カノ』と言っても、それを支えるだけの出来事は、俺たちの間には――。


「……こっちを見て言って?」

「っ……」


 目を合わせることが出来ずにいた。そんな俺の内心を見通したように、朝谷さんが言う。


 何も言葉が出てこない。ただ、俺を見上げるようにしてくる朝谷さんを見返すだけで精一杯だ。


「……なんて。ナギ君、無理してるみたいで、ちょっと気になっちゃった」

「無理は……」


 していない、と言うのは簡単だ。でもその嘘は『友達』に対してつくべきじゃない。


「……ごめん。少しだけ、してたかもしれない。朝谷さんと一緒の班でも、何も変わらずにいるのは難しかった」

「……私も。私はね、鷹音さんも一緒が良かったなって思ったの。でもサユちゃんも、伊名ちゃんも、大事な友達だから」

「鷹音さんと、何か話したいことがあるとか……?」

「ううん。そうじゃない」


 それなら、どうして――そう言う前に、朝谷さんが目を伏せる。


 こっちを見てと言った彼女が、目をそらす。それは、簡単に言えないことを言おうとしているからなのか。


「ナギ君と鷹音さんが一緒なら、私は……」


 ――その時、ナップザックから振動音が聞こえてきた。スマホに着信が入っている。


「……いいよ」


 朝谷さんから離れて、スマホを確認する。電話をかけてくれたのは鷹音さんだった。


「はいもしもし、千田です」

『もしもし、鷹音です。薙人さん、大雨は大丈夫でしたか?』

「ああ、大丈夫。鷹音さんは大丈夫だった?」

『はい、ハイキングコースの休憩所にいます。緊急の場合の避難所にもなっているので』

「良かった。中野さんと高寺たちは?」

『途中で雨の中を走ったので、今は温かいものを飲んで身体を温めています』

「鷹音さんも、身体を冷やさないようにね」

『……はい。薙人さん、朝谷さんたちは一緒ですか?』

「今、俺と朝谷さんで雨宿りしてるんだ。途中で、他の班員とは別行動になって……でも大丈夫だよ、雨が弱まったら俺たちもそっちに……」

「――おーい、霧ちゃーん、千田くーん!」


 この声は――山口さんたちと一緒にいたはずの、伊名川さんだ。その他にも、先生らしい声が聞こえてくる。


『薙人さん、何かありましたか?』

「ああ、先生たちが来てくれた。鷹音さん、電話してくれてありがとう。凄く安心した」

『はい……薙人さん、気をつけて来てください』


 電話を切ると、ずっとこちらを見ていた朝谷さんが微笑む。正直に状況を話したのを朝谷さんも肯定してくれていると、そう思える。


 屋根の下にいるうちに、少し雨は和らいでいた。離れたところに車が止まっている――あれで靴擦れを起こした人を運ぶのだろう。


「雷雨が少しおさまってきたから、もう少し行ったところにある休憩所まで行って待機しましょう。クラスの他の子たちもいるそうだから」

「はい、ありがとうございます」


 朝谷さんはすぐに動かずに、こちらを見ている。やはり少し寒そうだ――風邪を引かないうちに移動した方がいい。


「朝谷さん、行こう」

「……うん」


 オリエンテーリングのコース整備業者の人が手配した車に乗り、歩きの山道を外れて車道で移動する。


 正規のルートでゴールできなかったのは少し残念だが、天候の問題は仕方がない。


「霧ちゃん、めっちゃ手が冷たくなってる。あっためたげるね」

「ありがとう、伊名ちゃん」

「千田君、無事に合流できて良かった。それにしても、思ったより移動してたね」

「天気のこともあるし、早めにと思ったんだけど。見つけてもらえて良かったよ」


 佐藤君と話しつつ、しばらくして他の班が避難している休憩所に到着する。車を降りて建物に入ると、高寺と荻島が駆け寄ってきて、なぜかハイタッチをすることになった――無事で良かったというには大袈裟か。


 朝谷さんは鷹音さんに向けて手を上げて、近づいていく。鷹音さんもそれに手を上げ返すと、何か一緒に話しているようだった。


「ナギセン、霧ちゃんと一緒でどうだった? ……なんて、からかってるつもりでもなくてね、これは結構真面目に」

「事情で二人行動になったり、急に雨に降られたりしたけど、二人とも元気だよ」

「あ、めっちゃ落ち着いてる。っていうことは、何も心配すること無かった感じ?」

「心配するようなことは、オリエンテーリングじゃそうそう起こらないよ」

「雷とかゴロゴロしてたし、きゃー怖ーいってなったりしなかったの?」

「っ……」

「あはは、めっちゃ動揺してる。うちらはそういうの無かったよ、でも結構ここに来るまでに濡れちゃって。みんなで早く温泉入りた―いって話してたの」


 中野さんは俺とひとしきり話したあと、鷹音さんと朝谷さんのところに行く。


「千田、生きて再会できてマジ良かったわ」

「山の悪天候って、大丈夫って思っててもハラハラするよね」

「ゴールデンウィークに遊びに行くってのに、お前を失ったら俺たちはどうなるのかって……」

「それ言ってたの高寺だけだけどね。」


 この二人はたくましいな、と変なところで感心する。そんな俺の反応が不思議だったのか、高寺と荻島は怪訝そうな顔をしていた。

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