第20話 おばさん呼びはやめるべき。
「夜が怖いなら、このまま寝ないで夜更かししちゃおっか。」
「よふかし?」
「そう、夜更かし。夜に寝ないでさっきみたいに楽しくお話しするの。どう?お姉ちゃんが付き合ってあげるから怖くないでしょ?」
菜苳乃から出た急な提案に、春輝はきょとんと首をかしげる。そんな春輝にやさしく微笑みながら、わかりやすいように説明する。
深夜の真っ暗な病院で自動販売機の光だけが、二人を照らしていた。
すると、しばらくの沈黙のあとで
「…する。」
と、春輝が小声でぼそっと答えた。
「じゃ、後ろのソファーにでも座ろうか。クッションも無い椅子だと何かと疲れちゃうと思うし。」
「うん。」
菜苳乃の提案に春輝は一つ返事で椅子を下りたかと思えば、直ぐ近くの自動販売機とこではなく。奥の窓際、夜の空が良く見える少し暗い方のソファーへと向かった。とことこ歩く姿は十歳の割には幼いように菜苳乃には見えた。
「暗いのは怖いんじゃないの。」
「暗いのは怖い。夜も怖い。」
「?…。じゃあ、なんでここより暗いところにいったの?」
菜苳乃は暗いのが怖い春輝が、自動販売機の光がそばにある場所にいたはずなのに、それよりも暗い奥の窓際へ行ったのかを不思議に思った。
ただ単純に、自動販売機の隣の方が明るくて良かっただろうにと。しかし、春輝の方もすごく単純な理由が返ってきた。
「おばさんが居てくれるなら怖く無いよ。(うん…怖く……ないかな。)」
菜苳乃の真っ直ぐみている春輝の口から出た、すごく単純な理由と心の声は。
何処か、菜苳乃の心を優しく包み込み引き寄せてられるような感覚がそよ風の様に吹き抜けた。
「そっか…それもそうだね。……でも、おばさんじゃなくてさっき教えた名前で呼んで欲しかなぁ〜。」
最初は、夜の月明かりが照らす爽やかな笑顔を見せた菜苳乃だったが、春輝に近くにつれ月明かりが当たらなくなったせいか、とても恐怖感のある笑顔へと変わった。
それを見た春輝は「じゃあ、菜苳乃さんで。」っと、反射的に震えた体に比例するかのように思わず「おばさん」から「さん」付けまでに昇格した。
「うーん。まぁ、そこは年齢的にお姉ちゃんぐらいが良かったけど…それでもいっか。」
「ふぅ〜…。(もう、おばさんと呼んでしまわない様に気を付けることにしよう…。なんか、へんな汗も出たし……。)」
「ふふ…。えっとー、さっきまでなに話してたんだっけ。」
「ウィザーとか、ウェントバスターズの話だよ!」
「あ〜、そうだっけか。」
「そうそう!それでね!」
春輝との菜苳乃夜更かしは、一時間にも満たなかった。
十歳の春輝は22:32と日付を跨ぐ前に体力の限界を迎え眠りについた。
菜苳乃は自分の太ももを枕がわりにするような形で春輝を仰向けに寝かすと春輝が先ほど使っていた机の上から持ち出して手に握っていた、もう冷めたてしまったホットレモンティーを飲み干した。
それから暫くして菜苳乃も、日付を跨ぐ寸前で撮影の疲れもあってか呆気なく眠りについた。
吸血鬼とレモンティー @EnHt_919
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