第15話 ホットレモンティーを冷ましすぎた小さくて弱い鼠。
(…レモンティーは、ないか。じゃあ、あったかいのに。……?ホットレモンティー…これにしよう。)
飲み物を選び手の取った春輝は、すぐ後ろの椅子を引き腰を下ろし、少し力を入れてペットボトルを開けると飲もうとしたのだが
「あっつ……!。」
かなり熱かったのだろうが、真夜中の病院なことにとっさに気づいた春輝は声を抑えた。
舌をやけどした春輝は、ホットレモンティーのふたは開けたままにして、テーブルに置き冷めるのを待つことにした。
「にしても、暗くて寂しいのはやっぱこえーな。」
テーブルに置いたホットレモンティーから出る湯気を眺めながら、椅子の上に両足を上げ体操座りの体制なって膝に頭をつけた春輝は、幼いころから変わらない恐怖感や孤独感とはまた違う何かを感じると、ふと叔母のことが頭の中によぎった。
「理由…か。」
今思えば、両親を亡くしてから受けていた世の言ういじめというものに耐えてこれたのは、挫けそうに、泣きそうになる春輝の支えに…いや、そんな自分を誤魔化し、抑え込んで、大人のように冷静に、心を強く持とうとする「理由」になっていたのかもしれない。またそれと同じように、暗くて寂しさから感じる何かを気にすることなく過ごすことができていた。
そんな大切な人が今、この世からいなくなろうとしている。
事故になんて合わなかったら、叔母はまだ生きてくれていただろうか。…とも考えたが、こういう運命だったのだろう、神様が決めた流れゆく時間の一つの小さな出来事に過ぎないのだろう。
そう…そうやって割り切れるほど、春輝は冷静じゃない、受け入れるのにだって時間がいる。ただ、分かったことがある…春輝はあの時、両親を亡くしたあの時から何も変わっていない、何の成長もしていない。あの時同じように、今の状況を受け入れたくない自分がいるのだ。
春輝の内面は成長なんてしていなかった。ただ、叔母と過ごした時間が鼠が潮を引くように積りに積もって自分が大きく成長したように感じただけだったのだと。
無意識にペットボトルへと手が伸びた。そして冷ましていたホットレモンティーを口に運ぶと…
「ぬっ…る……。」
冷ましてしていたホットレモンティーが冷たくなるほどの時間、考えいたのだろうか。春輝にはそれほどの時間がたっているとは思わなかった。
そしてもう一度、ぬるいとわかっているホットでもアイスでもないレモンティーを口に運ぶ。
「やっぱ、ぬるい…。てか、すっぱ……。」
そっと、ペットボトルを机に置くと、ぽろぽろと涙がこぼれ出た。
「やっぱり成長しないなぁ~僕。理由がないとこれか…泣き虫だなぁ~。」
(このレモンティーだって、お母さんが一番好きだった飲み物だ。)
今だけじゃない、春輝は何度だって誰かを求め支えにしてきた。苦しいことに挫けて泣きそうになるたびに逃げてしまう自分が嫌いで嫌いでしかたがなくて、そんな自分をおさえつけていた理由はもうない。
叔母との大切な時間を積み重ねて大きく見せていた時間は、小さくて弱い鼠が引いていた塩は、あっけなく消え去ってしまった。
今だって、そんなことを思っている間にも、涙は止まらない。
涙が止まるころには、泣き疲れて春輝は最初の体制のまま寝てしまっていた。
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