第13話 大切な人を想うこと「理由」

数年前、春輝の両親が死んでしばらく経ち、葬式が行われることになった。

親戚などが黒色の喪服に身を包みぞろぞろと集ろうとしており、小学四年生だった春輝にはまだ両親が死んだ事が信じたくないのに、目の前で起こっている事が両親は死んだんだんだという事実を突き付けてくている。

信じたくない一心で逃げようと心を目の前の景色がそれを許さない。

だから、葬儀場の隅に置いてある大きな椅子に座って下を向いた。これで嫌なものを見なくて済む。

しかし目から意識が離れると今度は、大人たちの嫌な会話が聞こえて来る。

「かわいそうに。まだ小学四年生よ。」

「仕方ないわ、不慮の時期だもの。それより、あの子預かるのはもう限界かわりに誰か預かってくれないかしら。」

「無理よ。うちは三人も子供いるんだから。別をあたってよ。それより、あの子の何が限界なのよ。」

「それがね、あの子一切喋らないし強く言わないと食べ物一切食べないのよ。それが、きつくて。…仕方ないのは、わかってるんんだけど…。」

春輝だって、小学生ながらもこのままではダメだとは薄々勘づいている。でも、どうしても心が、体が、思い通りになってくれないのだ。

少し追い詰められたような感覚に気持ちが張り裂けそうになり、春輝は下を向いたまま手で耳を塞ぐ。

そうして、嫌な事から一旦目背けて整理できないとわかっていながらも考える。これからどう切り替えばいいのか、自分にそれができるかどうか。

それでも、どれだけ目を背けても、心の奥底に閉まっておこうとしても、楽しくて、優しくて、暖かかった両親との思い出が溢れてくるのと同時に、涙が溢れる。

もういない、もう味わうことの出来ない思い出に春輝は孤独を感じながらどれだけの時間、泣き続けたのだろう。

しかし、怖くて耳から手も離せず、前も向けないでいた春輝の肩を誰かがトントンと叩いた。

それに気づいて、思わず耳から手を離し前を向いた。すると、一人のおばあさんが春輝の目の前に立っていた。

「春輝、久しぶりだね〜。やっぱり、親が居なくなって悲しいかい?」

そう話しかけたおばあさんは、春輝の父方の祖母だった。

「寂しいのは、怖いだろう。」

優しさのこもった声だった。でもそれと同時に、今の春輝に対して「逃げるな、事実を受け止めろ」とまっすぐ言ってきている様で、春輝は黙ったまま動けないでいる。

「……。」

しかし、叔母は話を止めなかった。

「まぁ、ゆっくりでいいから、見つけなさいな。理由を。」

「……理由…?」

思わず引っかかったことを声に出てしまった。

(なんの「理由」なのだろうか、今僕が寂しい理由?いや、そんなものはずっと逃げてるものにある。じゃあ、怖い理由?いや違う、それは寂しいから怖いんだ。おばあちゃんは、さっきそう言ってた。)

でも、叔母から出た答えはそんなものではなく。

「そう、理由だよ。春輝の全てに対する理由。1度は、思ったことがあるだろ?勉強頑張ったらお母さん喜んでくれるかな?とか。要は、その人のために。みたいな、「理由」を見つけるんだよ。今までは、家族だったかもしれない。でも、その家族は今はもう居ない。だから、いつか気持ちを切り替えて探すんだよ。理由を。ゆっくりでいから見つけるんだよ。それがきっと、春輝を強くさせるから。」

当時小四だった春輝には、あまり分からなかった。

でも、春輝には叔母のその言葉に何故か少しの光を感じた。

今思えば、あの時の言葉があったからこそこうやって普通に生活できているのだと思う。

「でも……どうしたら?」

「うちに来な。うちなら、皆喜んで春輝を受け入れてくれるさ。」

「僕…おばあちゃんのところに行き…たい。」

ただ…苦しいだけだった。

大好きだった親が死んで、立ち直ることができないで周りに迷惑をかけ続ける自分が情けなくて、そう思うと同時に、周りから向けられる目が苦しかったし、いじめのこともあり元の生活に戻ろうとすること自体が恐怖だった。

そんな春輝に手を差し伸べてくれた祖母は、父にも同じような言葉をかけたと言っていた。

父は女一人で育ててくれていた母に捨てられ、それからというものあまり素直に他人を信じきれなくなっているときに、孤児院をしていた祖母に引き取られたらしいのだ。


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