第10話 人が無自覚に起こす多数決の原理の裏

「私は!?なに!?」


その一言で春輝の行動はかき消され苓の選択を急かせ追い詰める。

今この場で生み出されてしまった傲慢で、身勝手で、悍しくて、凶悪な「波」は、凄まじい勢いで苓に襲い掛かり今にも呑み込もうとしている。

こうなってしまっては、苓にはどうすることもできない。抗う以前に、急かされ追い詰められてい苓に、勇気を振り絞るための理由を作る時間さえない。


「いや、私も  ーーーーー   」


現代には、一つの議題に幾つかの意見が出た時に、多数派の意見を尊重する多数決原理というものがある。全員が賛成できる意見が出なかった時に多数が賛成できる意見を尊重することはいつまでも無駄な話し合いをするより、ずっと効率的だ。

しかし、これには大きな欠点が一つある。それは、少数派の意見が看過され多数派の意見に陥ってしまう可能性があるということだ。

現代においていじめの原理は大抵これにもとずているだろう。

最初は特定の相手に対する一人が勝手に行う嫌がらせかもしれない。しかし、それが一人から二人また三人へと人数を増やすことで、嫌がらせはいじめへと変貌する。

理由は何にせよ、根本的にはいじめは一人を陥れ下に見て、自分たちが普通なんだと言い聞かせようと必死になっているだけなのだ。そしてその考えは、多数になることでその考えを正当化してしまう。

そうなれば、いじめは過激化してだれにも止められなくなる。

よくテレビなどでいじめについて報道しているとき、「自分も同じ目に合うのが怖くて、見て見ぬふりをしてしまう。」なんて言葉を聞かないだろうか、そう、これが「波」だ。

先ほどから言っている、誰にも敵わない「波」の正体は「集団的圧力による恐怖」なのだ。

これを踏まえて、もう一度言おう。

この世には誰にも敵わない「波」があることを、決して忘れてはいけない。でなければ、淡い希望を掲げたところでそんなものポキッと簡単におられて、絶望を味わうだけなのだから。


「私もそう思う。」

苓は俯いたまま、たった一言小さく呟いた。

「だよねぇ…無理にあんな女といないでいいよぉ〜……。」

「そうそう。私たちと帰ろ?」

「賛成〜。苓ちゃんあんな奴がいる教室早く出よ…!」

苓は俯いたままだった。しかし、両手を握り締め、歯を食いしばり、力強く目をつぶっている。

こんな事が簡単に起こってしまうこの世の中がどうしようもない反面、結局は何もできななかった自分が情けなくて、悔しくて仕方がなかっただろう。

でも、彼女は泣かない。なぜなら、今自分以上に、悔しくて、苦しくて何より悲しいのは菜苳乃なのだとわかっているからだ。

更には、自分も菜苳乃にそんな思いをさせているウチの一人であると思ったら、苓は自分の事が許せなくて、許せるわけがなくて、だから彼女に泣くことはできないのだ。

そんなことを知るよしも無く、 二人は苓の手を取り教室からでるように引っ張っていく。

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