第2話 去りゆく記憶を巡りだす。
アパートを後にした春輝は、エントランスまで降りるとアパート下の駐車場にある駐輪所から自分の自転車を出して、春日原駅へと漕ぎ始めた。
春輝の高校は福岡で有名な太宰府天満宮の近くにある「土筆高校」という高校に通っており、その太宰府駅へは春日原駅からは乗り換えなく約十六分ほどでつく。
春日原駅のすぐ近くに自転車を止めるて買ったばかりで新品同様の定期券で改札を通ると、
太宰府駅に停まる〇〇方面の〇〇乗り場まで行き電車を待つ。いざ電車来て、ぼーっと乗っていれば、十六分なんてあっという間に経ってしまうもので、電車はもう太宰府駅についていた。ふと我に帰りそのことに気づくと春輝は少し焦りつつも車両から降り、改札を通り駅を出た。
まだ入学して一週間ほどしか立っていないのもあって、まだ慣れない制服と落ち着かない街並みに少し居心地の悪さを感じつつも、同じ高校に通う生徒たちに紛れて猫背でひっそりと歩く。
太宰府駅から七分ほどで土筆台高校の校門に着く。それから、校舎までの長い坂道を息を切らしながら歩く。
靴箱から上靴を取り出し、脱いだ靴を靴箱に直して上靴に履き直した。
「あ〜…疲れた。」
そう小さく呟くと、予鈴が鳴った。
【キーンコーンカーンコーン】
「ありがとうございました〜。」
あれから、高校一年生の日常をまっとうした春輝は、ゆっくりと荷物をまとめて、クラスメイトとは一足遅れて教室から出ようとしていた。
(教室の鍵閉めは…あ、まだ一人残ってるから大丈夫か。)
自分が最後の一人じゃないか確認し、教室の鍵を閉めることなく教室から出ようとしたそのとき。
(…?……なんか目の前が、白く…なってきたぞ?…あれ…おか…しいい……な…)
目の前が白くなり、春輝はその場に倒れた。
「ごめんね、ハル。」
先程の春樹が見かけた生徒が、いつの間にか背後に移動していた。
(僕の…ことなのか……?)
その場に倒れた春輝は、今までの記憶が溢れてくるような不思議な感覚の中…夢を見る。
小二の頃、初めて好きな人が出来た。
それからの毎日が楽しくて、俺は初めての好きな人ができたことを俺は、幼馴染に話した。
それからだ…
事あるごとに、俺の好きな人の前で茶化してきた。
そんな事から、だんだんひどくなっていって……気づけば僕はいじめられっ子の泣き虫になっていた。
小4になった時、俺を女1人で俺を育ててくれた母が死んだ。
それが引き金になって今まで受けていたいじめに対する怒りが抑えきれなくなって、教室で大暴れした。
喧嘩で勝てるわけもないし、それ以前に人に暴力をふるったこともない。
第一、自分がされて嫌なことをしてしまうと、自分に帰ってきそうで怖くて…誰にも当たらないように、机を蹴ったり椅子を投げたりした。
全身で怒りをぶつけた……も…物にだけど。
でも、そんなの無駄でしかなくて…誰にもこの心の怒りは苦しみは悲しみは……誰かの心に届くわけがなくて。
そんなことお構い無しに、クラスのみんなは俺に軽蔑の目を向けてこそこそと何か話しいて…一部の奴らは俺を見て嘲笑っている。
そんな今の状況が悔しくて、情けなくて、怖くて……逃げたいって心からそう思った。
それからは、学校に行く回数もだんだん減っていった。
中学に入った時、やっといじめから解放されたかと思えば…俺の噂は、光の速さで広がっていていじめから解放されるなんてことはなくて、中二になった今でも、状況は小学の時となんらかわらなかった。
「あいつマジキモくね?いなくなって欲しいんだけど」
そう、今だって国語の授業を黙って受けていればいいのに…先生も聞こえないふりなんかするから調子乗って言い続けるんだろ……。
って、俺が反撃して先生が無視出来ない状況にすればいいだけか…そんな事する勇気ないけど……。
(ああ、ダメだ……挫けそ。このクラスには、俺の味方は1人も居ないと思うと更に…とりあえず、保健室でサボろう。)
春輝は誰もいない廊下を、寂しそうに、猫背で心地の高さにそぐわない弱々しさを醸し出しながら歩き、二年の教室がある二棟の三階から三年の教室や職員室などがある一棟への渡り廊下に向かっている。
勿論、今春輝が向かっている保健室も一棟の一階にある。
(やっぱ、一年の時よりかは一階近くなったとしても…遠いんだよな〜、保健室。……ああ、やっぱりぐしゃぐしゃする…こうゆう時は、寝て現実逃避に限る。…ああ、俺ダサ…)
そう思いいつつ、春輝は保健室の扉に手を掛けた…でもその瞬間、扉に触れている手に涙がポタポタと落ちた…。
「(クソ……なんで俺は、弱くて泣き虫で…こんなにも、こんなにも惨めなんだよ!…………!!!)会いたよ母さん」
春輝が激しく自分を責めた後、ぽつりと弱音を吐いた。すると…急激に吐き気やめまい頭痛が襲い、春輝は耐えきれず、扉の前でうずくまった。
(急に…なんだよこれ……気持ち…わりぃ…!!!!……。)
【ガラガラ】
そんな中、保健室の扉を白衣を着た女性、保険の先生が開けた。
「ちょっと!凪雲君?どうしたの!」
扉の前にうずくまっていた春輝に気づいた先生は、焦りつつも次の行動に移った。
名前を覚えていたのは、保健室の常連客だったからだろう。
「凪雲君、ちょっとごめんね。」
「…はぁ……はぁ。」
先生が春輝の額に手を当てると「うわ、すごい熱。」っと小声で呟くと春輝に自分の判断を告げる。
「凪雲君、今日はもう家に帰って休もうか。」
「……。」
春輝は何も言わず、うなずいた。
「じゃあ、立てるかな。そこの椅子に座って待っててもらえると嬉しいいな。」
「……。」
春輝はなんとか自分の力で椅子にすわった。
それからは、先生が念の為春輝に体温計を渡し熱を計らせると、保健室から出て行ってしまい。
体温計の【ピピピ…ピピピ…ピピピ】っという音が鳴ってしばらくすると先生が春輝の荷物をまとめて、保健室に持ってきてくれた。
ちなみに熱は、三十八度ピッタシっだった。きつさの割に熱はそれほどないらしい
「一人で歩いて帰れる?」
「…はい。大丈夫です。」
「わかった。保護者の人には連絡したから、今日は孤児院の方に帰ってね。」
そう告げると、春輝に荷物を渡した。
春輝は荷物を受け取り、保健室を出てすぐ目の前の靴箱で靴を履くと。
「じゃあ、気をつけてね。帰ったら、ちゃんと休むんだよ。」
そう先生が声をかけると、前々から保健室の常連ということもあって心配していたのだろう。春輝が校門から出るまでじっと見つめていた。
「はぁ…はぁ……。(気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い!…誰か……誰か助けてよ。)」
意識が朦朧とする中、心の中でそう叫び続けた。
しかし帰って休まないことにはこの苦しみからは解放されないので、校門を出てすぐ左に曲がり、中学校のグランド沿いを進み、そこで右に曲がると二つの公園がならんでいるのが見える。その公園沿いの道に入ったところで公園から一人の女子が小走りで春輝の元へやって来た。
「君、大丈夫?…どうりで、物凄い心の声が聞こえると思った!君……大丈夫⁉︎」
だが、その声は届かない。なぜなら、春輝は、歩くので精一杯。
そのため、彼女がかけた心配のの言葉は届きはせず、春輝は苦しみ続ける。
(やばい、なんか吐きそう…もう、無理…)
その瞬間、春輝は大量の血を吐血、その場に倒れる。
「え?嘘……大丈夫だよね…?」
そう彼女は口を手で塞ぎながら呟くと、青ざめた表情で膝から崩れ落ちる様に後ろに下がりながら尻餅をついた。
そのまま、春輝の様子を伺おうとしたその時。
「きゃ!」
春輝が彼女に飛びかかり押し倒した。
「ハァ……ハァ…。」
押し倒した春輝の呼吸は乱れており、しばらく無言で
俯いたままだったが…
(え?な、なに……痛!)
口の中の鋭い歯を見せた瞬間、勢いよく彼女の首元に噛み付いた。
そのままの勢いで春輝は、彼女の血を大量に吸った。
すると、先程吐血したちの量と同じくらいの量を吸った春輝と急激に大量の血がなくなった彼女の二人は、ともに意識を失った。
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