三話
この会に参加するようになって僕は一日も集まりをすっぽかすことはなかった。中には僕と同じ日に勧誘されその日のうちに来なくなった人もいた。けれども僕はこの会へ不信感を全く持たず、辞めたやつが中途半端な奴なだけだと思っていた。
僕はこの会にとってとても良い貢献者であった。時にはこの会は勧誘や金集めで汚い手(所謂法に触れること)を使うこともあった。けれど僕はそのやり方に一切歯向かわず従い、そして実行した。
Pをはじめとする幹部の人たちは僕を可愛がり、僕は四六時中その人たちと一緒に居たがった。法に触れるスリリングなゲームは僕を興奮させ、僕にその会の人たちから愛される権利を与えてくれた。
「うみは海を見たことがあるか?」
ある日Pは僕に聞いた。僕はあの汚い海を想像し顔をしかめながら頷いた。
「確かに今の海は汚いけれど、でもずっと昔は本当に綺麗な水の集まりだったんだ。塩の味がして、青くて澄んでいたんだって」
そう言ってPは昔の海が映っている写真を僕に見せた。昔の海は確かに青くて綺麗で、僕が知っているあのどす黒い汚い海とはまるでかけ離れていた。
「昔の海とうみは似ているな。きっとうみのご両親はその澄んだ青の海をイメージしてうみにうみと名付けたんだろうなぁ」
Pは僕の頭を撫で、その写真あげるよ。と言って外に出て行った。
――どうして両親は僕にうみと名付けたんだろうか。
今はもう顔を思い出すことが出来ない両親の影を頭に思い浮かべる。その影は僕をあざ笑い、僕を不幸にしようとしている。
――僕は昔の海のように澄んだ色をしているのだろうか?
そう昔の海の写真を見ながら思った。そこで同時に思い出すのは、この会に入ってからした法に触れる数々のこと。存在を認めてもらえるなら僕はどんなことだってできると思っていた。けれど僕にも残っていたわずかな良心のせいで今すごく胸がチクチクする。昔の綺麗な海は僕をあざ笑い、お前は今の汚い海そのものだよ、なんて言っている気がする。
海は人間によって汚染されあんな色になった。けれど僕は自らこの会の人たちに愛されるために汚れ重い十字架を背負った。
その十字架が重くなればなるほど、この会の人たちの僕への愛は大きくなっていくような気がした。イエスは人間のために十字架を背負った。僕は自分のために十字架を背負った。ならば死ぬときはきっと僕の方がイエスよりも何十倍も苦しい思いをするだろう。僕はもう引き返すことはできない。どうせ苦しむのなら僕は生き延びて少しでも長くこの会で愛されたい。
僕は覚悟を決めて写真をポケットの奥底にしまった。
そして僕はより一層この会にのめりこんでいった。
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