第57話
「うわああっ!」
僕はただ悲鳴をあげるだけだったが、ウニルの反応は俊敏だった。彼女はすぐに上に方向転換し、それらの直撃を避けた。ありがとう、ブリリアントウニル号!
「あ、あぶなかった……。あいつら、僕を殺す気かよ」
「出る杭は打たれるってものさ。君は特に、彼らにとって未知の存在だろう。早めに叩いておこうって考えなのかもしれない」
「だからって、よってたかってはないだろう」
死ぬかと思ったんだぞ!
「じゃあ、君も彼らに反撃すればいい。やられたらやりかえず、それだけのことだ」
「ワッフドゥイヒ、君は……」
なんだか、さっきから、彼は捕まる前の自信に満ちた彼に戻っている気がした。本当に、今僕と話をしているのは、第三詰所の牢屋に閉じ込められて、みじめにしおれていた彼なんだろうか?
しかし、その自信に満ちた声は、僕に勇気を与えてくれるようだった。「そうだね。こっちも攻撃だ!」うなずき、眼下の先頭集団に向けて、手をかざした。食らえ、必殺の一撃!
ぽふっ!
光の球は出ることには出た……のだが、またしても、ゆっくり進行だった。そして、僕達はそれなりの速さで前に進んでいるわけで、僕の手から出た光の球は、まるでシャボン玉のように後ろに飛んで行って消えてしまった……。
「ヨシカズ、今のはなんだ?」
「え、えっと……照明魔法だよ。今暗いからさ、はは」
「にしては、すさまじい魔力を感じたぞ? 君は周りを明るくするのに、人を殺せるような照明を作るのか?」
「殺せないから大丈夫だよ。まず当たらないし……」
「……そうだな。あれでは当たらないな」
彼は呆れたようにため息をついた。くそ! ノーコンだって馬鹿にしやがって! その通りだけど!
「もしかして、君が使える魔法はこれだけなのか?」
「うん……」
「なら、一つ提案がある。君にしかできない、原始的でかつ暴力的な戦法だ」
「なんだよそれ?」
「君自身の体内の
「あ、そうか!」
すぐにピンときた。強すぎる
「でも、
「俺の剣を使うといい。それは優れた魔法触媒でもあるんだ」
「この腕輪を?」
僕はふと、右手でそれに触れてみた。すると、たちまちそれは剣となり、僕の右手に吸いつくようにおさまった。
「いきなり剣になったけど……」
「それは使用者の意志を反映する。君が剣のことを考えながら触れたから、そうなったのさ。さらに君が
「なるほど。便利なものなんだな」
「よし! じゃあ、派手にぶちかますぞ!」
剣を両手で握りしめ、
瞬間、もやっとしたものが刃から出た。そう、無色透明のもやっとした何か。それはイメージ通りに先頭集団に向けて降り注いだ。そして、彼らはたちまち痙攣し始め、殺虫剤を浴びせられたハエのように次々と下に舞い降りて行った……。
「やったじゃないか、ヨシカズ!」
「う、うん……」
確かにそうなんだけど、素直に喜べないような。全然かっこよくないし、爽快感もない。おまけに、すごく卑怯なことをした気がする。
「もっと胸を張ったらどうだ? これは君にしかできない戦法なんだぞ」
「そうなのか?」
「ああ。普通の術士が同じことをやれば、とたんに体内の
「お、おう……」
褒められてるんだよな、一応? やっぱり素直に喜べない。
だが、おかげで僕が一躍トップになったのは間違いなかった。前にも横にも誰もいない、僕だけの空が広がっている。それはやはりとても気分がよかった。後ろから時々他の選手が追いついてきたが、
だが、コースも終盤に差しかかったときだった。ワッフドゥイヒは急に声を上げた。
「ヨシカズ、右に飛べ!」
「え――」
瞬間、僕の左側を何者かが弾丸のような速さで通り過ぎた。その腕に握った槍斧の刃で、ウニルの左翼を斬り裂きながら――。
「うわあっ!」
傷を負ったウニルはたちまち速度を落とし、その場で旋回し始めた。あわてて手綱を引き、ホバリング飛行に戻した。見ると、左翼の真ん中ぐらいにかなり深い切り傷を負っているようだった。肉が露出し、じわじわ出血している。
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