第53話
アニィと別れると、僕達はさらに知った顔に遭遇した。クラウン先生とフォルシェリ様だった。グラスマインから出店してきた屋台が多数ひしめく通りで、フォルシェリ様は店から店へせわしなく飛び回り、バーベキューやらクレープやらを次々と強奪している。そして、そのすぐ後には、商品を強奪された店にクラウン先生が駆けこんで金を払っている。なんだこの光景?
やがて、二人の会話が聞こえてきた。
「フォルシェリ、お前は自重という言葉を知らんのか。俺の財布の中身は無限じゃないんだぞ」
「何を。私は竜都長フォルシェリ・フォン・ラーファスだぞ。このラーファスの代表として、侵略してきたグラスマインの軍勢を少しでも多く迎撃せねばならんのだ!」
もぐもぐ。料理を口に運びながら、実にえらそうな口調でフォルシェリ様は言う。その口元にはソースがついている。「相変わらずお前は……」クラウン先生は、重く息を漏らした。
あれ、何だろうこの空気? 妙に親しげに話してるけど……。
「二人は幼馴染なの。仕事以外の時はいつもあんな感じよ」
と、そこでテティアさんが僕達のほうに歩いてきた。
「お、幼馴染?」
先生とフォルシェリ様が? 意外な事実だ。
「でも、学園長って、クラウン先生をゴミのように扱ってましたし、無能とかさんざん罵倒してましたよ」
「彼女は昔からああなの。誰に対してもね。彼は慣れっこでしょ」
「そうなんですか……」
ってか、そもそも二十代後半に見える先生と幼馴染のフォルシェリ様っていくつだ。やっぱり同年代? いや、それ以上? 外見は僕の妹と同じくらいに見えるんだけどなあ。
「でも、なんで、学園長の料理の代金を先生が払ってるんですか?」
「そりゃ、もちろん。デートは男性が払うものじゃない?」
と、テティアさんが言ったところで、「妙なことを言うな!」と、向こうからフォルシェリ様がものすごい勢いで飛んできた。
「よいか。あいつは前の祭りの時、よりによってこの私に飯の代金を払わせたのだ。そして抜け抜けとこう言った。次は自分が払うと。私はその約束を果たさせてやっているにすぎない。妙な勘違いなど、するでないぞ!」
フォルシェリ様は早口でまくしたてた。なんだか少し顔が赤かった。
「まあ、そういうことだ。食い意地の張ったこいつは、俺がガキの頃口にした他愛もない約束を忌々しくも覚えていて、こうして今、鬼の首を取ったように俺にたかっているわけだ」
クラウン先生もゆっくりこっちに歩いてきた。「何を言う、ウィンザス! お前はいつも……」フォルシェリ様はますますむきになったようだった。なんか、子供みたいだな。本当にこの人、何歳だ。
「ところで、ヨシカズ・サワラ。お前もグラスマインの名物料理を攻略しに来たのか」
と、そこで、フォルシェリ様はようやく僕のほうに目を向けた。
「私は既に屋台の八割は制圧したぞ? 一足おそかったようだな」
「はあ」
遅かったって何が? しかもなんでいちいち偉そうなんだ。
「あの、学園長……僕との約束、覚えてますよね?」
あまりにも全力で祭りを楽しんでいる様子だったので、尋ねずにはいられなかった。すると、彼女は「無論だ」と即答した。
「だが、正直、期待はしていない。お前はあの軍用レ・ヌーをまるで乗りこなしていないというではないか」
「そ、それはその……僕、本番に強いタイプなんで!」
適当に強がりを言った。本当は本番に弱い方なんだけど……。
「そうか。ならば少しは期待するのもよいか」
フォルシェリ様はふと微笑んだ。そして、ローブの袖の下から、何か小さな、きらきらしたものを取り出し、僕に投げ渡した。見ると、それはワッフドゥイヒが身につけていた腕輪だった。そう、剣にもなる奴だ。
「第三詰所に面会に行った時、あいつに頼まれてな。これをお前に渡してほしいと」
「あいつが? これを?」
大事な父親の遺品じゃなかったのか?
「自分の形見としてお前に持っていてほしいのかも知れんな。まあ、お前にその意思がなくても、これは名工フォン・ヴァーレの遺作だ。闇市場では破格の値段で売れるだろう」
「売りませんよ! それに、あいつの形見にもしません!」
思わず強く叫んだ。
「ならばそれを言葉ではなく行動で証明してみせろ」
フォルシェリ様はそう言い放つと、向こうに飛んで行ってしまった。
「……こちらの準備はできている。あとはお前の結果次第だ」
クラウン先生もまた、そう言うと、フォルシェリ様の後を追って去って行った。
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