第14話「遭遇。」




「はぁ…はぁ……!」



 ガサガサと、身の丈の長い草を掻き分ける音が鳴る。地面を蹴り、巧みに木を避けながら息を荒くさせながらも、がむしゃらに走る。



「はぁ……はぁ…っ、えいっ!!」



 後ろを何度も振り返りながら走る。姿は見えない。自分を追いかける気配はするが、姿が一切見えない。

 当てずっぽうに後ろに向かって手に持つ長い杖のようなものを振るう。振るわれた杖は所有者の意に従いその力を振るう。



「何処に撃ってんだ?」


「!」



 追いかけてくる何かを撃退するために奮ったその力は、森の陰へと隠れていく。しかし、その意に反して森の中から違う圧の声が鳴る。



「ちょこまかと動きやがって…珍妙な魔法も使いやがる。」



 森に透き通るのは男の声。



「小さいから見つけにくいっスもんねぇ。」


「泣きごとを言うな。俺たちの野望のためだ、必ず捕まえて、情報を吐かせる。」



 1つじゃない。今聞こえるのは3つ。

 一つは気持ちが入ってないような軽い声。

 二つ目はそれを戒めるような、冷静な声。

 三つ目は落ち着きがあるが、意思の籠った圧のある声。



「いや、近寄らないで……!」



 それらの声に聞き覚えはある。知り合いという訳では無い、むしろ逃げ回る者にとっては敵対する相手だ。それでも何度も聞き覚えがあるのは、それ程出会っているからだ。



「近寄るなって言っても、毎回近寄ってくんのはオマエの方だろうに。」



 呆れたような声が耳に入ると、後方から何かが素早く飛んでくる音が聞こえてくる。



「っ!」



 ソレに気づいた時には既に遅く、どデカい魔力の塊が木々を避けながらも的確に近づいてくる。



「くぅ……っ!?」



 反撃しようとするも、行動に移す前に放たれた魔力は、逃げ回る少女の背中に直撃していた。

 当たった衝撃によって、その軽い体は吹き飛ばされ坂を転がり落ちる。



「うぅ…っ!」



 全身を守るように体を丸め、手で顔を覆いながら坂を転がっていく。その体は石ころや尖った木の枝などにぶつかり、小さな傷がいくつもつけられていた。



「……はぁ…はぁ…っ、うぅ!!」



 ようやく平らな地面へと放り出された傷だらけの体にムチを打つように、よろよろと立ち上がり、またもや走り出す。

 身体中が痛む。ズキズキと色んなところが。だが、それでも走る。奪われた、大切なものを取り戻すために。そして、これから奪われることがないように。

 その小さな体にある大きな心で、そう唱え続けた。









♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢










「ふーむ。3人でって言ったけど、見つかんないもんは見つかんないね。」


「カナン、ちゃんと探しているんですの?貴方さっきから前しか見てないような気がするのですが。」


「えぇー?だってあたしいる場所は真ん中でしょ?リリーが右で、お嬢が左。なら見る場所は真ん中じゃん?」


「皆で全ての方向を探す!なぜ自分の場所しか見ないという発想にいたるんですの!?」


「ちぇー……はいはい、分かりましたよー。」


「…あ、あはは……」



 少し風が寒くなってきた森の中で、3人、ではなく約2名は目を血眼にして盗賊の姿を探していた。

 しかし、フィリアとカナン、この2人はよく何かを言い争う。やれカナンの歩くスピードが速いだの、フィリアが運動不足なのが悪いだのと。

 はて、この二人は昔の旧知の仲だと聞いたはずなのだが。

 実際にそれを問い正せば、フィリア曰く「小さい頃もこうだった」と言われたのだが。



「あの、カナンさん…。」


「ん?どうしたリリー、そんな小さい声で。」



 カナンに呆れかえり、説得を諦めたフィリアが辺りを見渡し始めた時、璃々花はソソーっとカナンに近づくとフィリアに聞こえないように小さく話しかける。



「いえ……カナンさんって小さい頃フィリアさんと友達だったんですよね?」


「うん?そうだよ?さっきも言ったけど、私の親父とお母さんが雇われてたからさ。私もよく遊びに行ったんだ。………それで、それがどうかした?」


「どうかというか……あのぉ……」


「?」


「…あの、フィリアさんの小さい時ってどんな感じだったんですか?」



 璃々花は恥ずかしそうに顔を赤めながらカナンに耳打ちをする。カナンは律儀に璃々花が話しやすいように少し身を屈める。



「んー?リリー、お嬢のこと知りたいの?」


「…まぁ…ちょっとぐらいは……」


「ふーん…」



 璃々花の気持ちとカナンの言葉に違いはないが、その言われ方だと少し照れてしまう。

 目の前でニヤニヤされると一層に。



「リリー、お嬢の事好きなんだー。」


「うぇっ!?ち、ちちちち違いますよっ!そういうのじゃなくって……そのー……」



 カナンの思わぬ言葉に思わず体全体を使って否定してしまった。

 違わないことには違わないが、カナンの言葉は違った言葉に聞こえる。



「…ただ、フィリアさんはすごく優しくて。この世界に急に来た私を、優しく迎えてくれたんです。今も家に居候させてもらってますし。」


「へぇー。お嬢もそんな一面がねー。」


「…だから、フィリアさんは私にとって……うん。フィリアさんは、私のお姉ちゃんなんです。私一人っ子だったから、お姉ちゃんが居たらこんな感じなんだろうなぁ、って。えへへ………そんなこと勝手に思ってらダメですよね。」



 兄弟や姉妹はおらず特別親しい友達もおらず、いつも一人でいた璃々花にとって、これだけ世話を焼いてくれるフィリアは、まるで姉のように映っていた。

 時に厳しく。けど最後には全て受け入れてくれそうなフィリアには、ついつい甘えてしまう。



「だから知りたいんです。もっと知って、私の事も持って知ってもらって、もっともっと、仲良くなりたいなぁ、なんて……」


「……うん。リリーは本当に可愛いなぁ。あたしの妹にも負けないくらいだよ。」


「カナンさん、妹さんがいるんですか??」


「うん。エマっていうんだけどね。当時まだエマは小さかったし、お嬢の家には連れて来れなかったから、それもあってあんまり懐いてくれなくってさ。だから羨ましいなー。こんなに想われてるなんてさー。ねー、お嬢ー?」



 羨ましそうに璃々花の頭をポンポンと、軽く撫でるように叩くと、カナンは独り言のように大きく話しかける。



「……うるさい…ですわね……。」



 カナンの言葉の矛先が自分だと分かっていた約一名は頬と言わず顔全体を真っ赤に染めあげていた。

 こっちの会話が聞こえてたらしい。逆にこちらも恥ずかしくなる。

 フィリアは何とか反論しようとしているが、言葉が詰まって出てこないのか口をモゴモゴさせている。

 うん。可愛い。



「いいなーお嬢。こんな可愛い妹がいてさー。」


「妹っ……のように見ているのは認めますが……っ!それはそれ!異世界に来て困ってるだろうからと、私は善意で、そう善意でやってるだけですわ。」


「素直じゃないなーお嬢は。」


「…っ!もうっ!いいから探しますわよ!!」



 拗ねてしまったフィリアは照れ隠しも含め先頭を歩いていく。

 フィリアの反応に璃々花とカナンはお互い顔を合わせ微笑むのだった。








♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢








「ふーん。じゃあ、リリーはその転移者ってやつってこと?」


「はい。なので戦い方もよく分からないんです。それに、貰ったスキルが邪魔しますし……。」



 森を進み、敷かれた道が薄れ始める。地肌が生い茂る草に隠れ、木がそこら中に生え始め、いかにも森という雰囲気になってきた。

 そんな中でもお構い無しに、ズンズンと先に進むフィリアの背中を追いかる二人は、談笑を続けがらもフィリアを目で追いかけつつ盗賊探しを続けていた。



「不運ねぇ……与えられるっていうか、無理やり持たされたみたいだね。ひどい話だね、本当に。」


「はい…なので基本的にこの鉄棒で殴るしか出来ないんです。」


「うーん。私は別にいいと思うけどなぁ、そのスタイル。」



 カナンはうんうんと頷きながら璃々花の持つ鉄棒を見る。

 先程の戦闘を見ても、カナンも璃々花と同じく物理的な戦い方をしていた。戦い方が似ている二人には通じるものがあるのだろう。



「でも、よくお嬢はリリーが冒険者になるって許したね。そんなに大事にしてるんなら、危ないって言って家に置いとくと思ったのに。」


「…カナン。人の後ろで悪口を言うのは感心しませんわ。」


「悪口じゃないし、それに聞こえてんじゃんお嬢。そんな速く歩いたら盗賊がもし居ても気づかないよー。」



 今の今までカナンと璃々花の話に入ってこなかったフィリアが背中を見せたまま呟く。



「貴方たちにも問題はありますわよ。聞いていればワイワイ楽しそうに話していますが、ちゃんと探しているんですの?」


「なんだ、お嬢羨ましかったんだ。話に入ってくれば良かったのに。」


「羨ましくありません。今は任務中です。………それに、別に話くらい家に帰ってからできますし。」


「ふふふーん。お嬢もホント素直じゃないねー。大丈夫だって、話してはいたけど、ちゃんと探してもいるよ。」


「………だといいのですが。」



 何度か話に夢中になった時はあったが、談笑している間も人の気配がないか、カナンと璃々花はちゃんと探していた。

 だが、今のところ他の人の気配はしない上に、何故か魔物や獣の気配もしない。

 先程会えたのは余程運が良かったのだろう。あそこで目を覚ますのを待ち、情報を聞き出すのがベストだったかもと少し悔やむフィリアだった。



「それにしても、人どころか動物さんの気配もしないですね。カナンさんと会う前までは、小動物とかは見かけたんですけど…」


「うん、同じく。あたしもそう思ってたよリリー。ここ、獣の気配すらない。なんだろう、すごく違和感がする。ここいら一帯だけ、不自然に生物の気配がしない。」



 カナンは鍛えた耳や鼻で辺りを探る。しかし耳には生活音は聞こえず、鼻も獣の匂いや血の匂いなどは臭わない。臭いがしないということは獣が狩られたりした訳ではないという事だ。つまり、普段獣がいてもおかしくない森の中枢から、獣が逃げ出しているという事になる。



(ここいらはおかしいな……薄々気づいてはいたけど、変に自然的すぎる。)



 人の進める範囲までが人為的に道を補強される場所ではあるが、何かがおかしい。補強された道が徐々に自然化するならまだしも、気づいた時には風景が文字通りの自然に戻っている。

 矛盾した話だがこれはおそらくーー



「…気をつけて、リリー、お嬢。この辺りからは、人為的に自然な風景にされてる。」


「人為的に……じゃあ、これは盗賊たちの……?」


「多分。でも、村で盗みを働く盗賊たちがなんでこんな森の中に…?」



 村から盗みを働くのであれば、村人たちがここまで来れないことは知っているはずだ。なのに、ここに誰かを陥れる罠を張っている。

 まるで何かの生物を欺くために作られたと言わんばかりな風景に、カナンは警戒を強める。



「お嬢、は大丈夫だと思うけど…リリー、気をつけてね。変に何かを触ったりしたら危ないから。」


「ーーーうぇっ。変にって……もしかして、このツタとか、ですか?」



「「え?」」



 カナンの忠告は一瞬遅かった。警戒を強めさせようと注意したその時には、璃々花は既に変に垂さがるツタを触っていた。



「リリーっ!そこから離れて!!」



 カナンの力強い声が森に響き、璃々花は慌ててツタから手を離す。

 しかし時既に遅し。興味本位で引っ張られたツタがスイッチとなり、頭上にある無数の葉っぱに紛れ、何かが一直線に回転しながら飛んでくる。



「うわわわっ!!」



 音を鳴らしながら何処かからか発射されたソレを、璃々花は鉄棒ではじき返す。

 集中力を高めていたおかげか感覚が研ぎ覚まされた璃々花は、これを難なく逃れるが、驚いた拍子に数歩だけ後退する。

 体制を整えるためにと足に力を込めた時、踏んでいた石が、地面の中へとめり込む。ガコッという音と共に。



「…んん?」



 明らかに変な音だった事に疑問を持った璃々花は、次の瞬間には地面に落ちた落ち葉や草に紛れた網によってその体を空中へと連れ去られる。



「うわぁっ!!?何これ!?」



 網は次第にその口を閉じ、璃々花は完全に網の中へと閉じ込められてしまった。



「明らかに、これは何かを捕まえるための罠だ!間違いない。ここはもう盗賊のテリトリーに入ってる!」



 為す術なく捕まった璃々花を助けるために、手を伸ばそうとしたカナンは、遠くから近づいてくる何かに気づく。



「…っ!お嬢、どいて!」



 カナンはフィリアを遠ざけ、璃々花を庇うように前に出る。

 カナンの勘通り、木々が立ち並ぶ奥からカナンの感じた正体である、謎の魔力の塊が向かってくる。



「くっ!」



 カナンはそれを自慢の脚力で弾き返す。

 しかし、1つだけかと思われた魔力は、続けて2発3発と連続で向かってくる。カナンはそれも難なく弾き返すと、少しの違和感に気づく。



「なんだこの魔力。リリーを狙ったにしては、命中の精度が低いぞ…」



 捕まった璃々花に対する攻撃にしては少し威力が弱く、思わず全ての攻撃に対応してしまったが、おそらく少し遅れた2発は何もしなくても璃々花には当たらなかっただろう。



「今の攻撃、リリカさんや貴方を狙ったわけではなさそうですわね。」



 傍から見ていたフィリアもそのことに気づいたのか、攻撃された森の奥を見据える。



「!カナンさん、フィリアさん!この感じ、奥に誰かいますっ!」



 気づく、とは少し違う。フィリアは罠が作動した瞬間から行っていた魔力感知によって、そして璃々花とカナンは持ち前の察知能力によって、森の奥から人の気配がするのを感じていた。



「まぁ、こんな何処にいるやつなんて、十中八九、盗賊だろうけどね…!」



 感じる無数の魔力や気配に、フィリアとカナンは身を構える。

 程なくして無数の気配が近づいて来る。近づくにつれ、より細かく感じ取ることが出来はじめる。

 一つの人の気配を筆頭に、その離れた少し奥から5は超える数の魔力。



「……来る。」



 視界の悪い森では目よりも気配の方が役に立つ。その気配がすぐ目の前まで感じる。

 木々の間から、気配の正体が3人の目の前に現れるーーー




「……っ、はぁっ、はぁ…!……っ、きゃっ!!」




 その目で鉢合わせした瞬間から戦闘が始まると思い、人影が見えた時から拳に力を込めていたカナンやフィリアの目に映ったのは、汗を流し息を切らしながら走る少女の姿だった。



「……女の子?」



 目の前で木の根っこに躓き転ぶ少女に、カナンは思わず体の力を抜く。カナンだけではなく、フィリアや璃々花もまた、現れた正体に目を丸くする。



「うぅ………っ!人…?」



 少女は涙を浮かべるその目で3人を見ると、焦り、喜び、恐怖、色んな感情を含めた複雑な表情を見せる。



「……お願い、します…!助けて、くださいっ!」


「…たす、ける?」



 少女は目に浮かべた涙をポロポロと流すと、精一杯に掠れた声で叫ぶ。

 想像していたものとは違うものが現れた3人は、その少女の言葉に驚く。

 見た目はただの少女。しかしもしかしたら、この少女が盗賊だという可能性も捨てきれない。その考えから言葉を返せずにいたカナンとフィリアとは裏腹に、少女の目を見ていた璃々花が応える。



「ーーはい、もちろん!助けますよ!」


「…………え?」


「…っ!?リリカさん、一体何をーー」



 璃々花の応えに璃々花の方を向いたカナンとフィリアは、少女の後方から現れた存在の発するオーラを体全体で感じる。






「……チッ。まずったな。」




「「「…………!!!!?」」」





 その声は、誰かに向けられた言葉でもなく。ただ己の不甲斐なさを嘆くように呟かれた。



「うーん、こりゃやっちまったスね。」


「はぁ……それもこれも、ガキを捕まえきれなかったトボロのせいだがな。」


「いや、ホントにムズいっスよ。なんか変な魔法使うし。」



 カナンとフィリアは恐る恐る振り向く。

 カナンは既に戦闘姿勢に入っていた。フィリアは今までに発したことの無い敵意を剥き出しにしていた。

 何故かは簡単。振り向いたその目に映った男たちは、カナンもフィリアでさえも知らない、魔力の量、そして威圧感を放っていたからだ。



(あの魔力。多分、あたしの勘が間違ってなければ………)



 一瞬にして緊張感が高まる場に一つの風が吹く。その風は、男たちの象徴とも呼べる顔を隠すフードを揺らす。



「………お嬢。その子をお願い。」



 カナンはすぐさま冷静さを持つと、左手で少女を守りつつ、フィリアへと預ける。

 ここで出会うとは思っていなかった。盗賊に、では無い。盗賊のリーダー、にだ。



「ふむ……」



 男はカナンたちを一瞥すると、腕を組み考え事をし始める。



「構えるのはいい。お前たちのその行動は正解だ。ただ……そこのガキを早く下ろした方がいいと思うが?」


「ーーえ?」



 男が示すように空を指さす。空というか、カナンのすぐ横上だ。



「……あ、そろそろ、血が昇ってきたので、助けてくれると嬉しいんですが……」


「わぁっ、ごめんリリー!」



 上を見れば宙ずりになり顔面蒼白になった璃々花の姿が。まずい、敵の登場に完璧に忘れていた。



「敵なのに、優しいんですのね。」


「優しい?そりゃあ嬉しい言葉だがーー生憎、そうでもない。交渉するにはまず対等にならなければな。」


 このまま何も言わなければ約一名がダウンしたというのに、敵はわざわざ教えてくれた。

 ほんの一雫の希望を持って問うが、やはり敵は善意で助けた訳では無いらしい。



「……俺が用があんのは、お前らじゃなくてその小娘だ。お前らがギルドから来た冒険者ってのは知ってる。だから交渉する。ソイツ渡してくれるなら、直ぐにでもここから消えてやるが?」



 男はその手をこちら側に差し出す。

 渡せ、という意思表示に、カナンは強く睨みつける。



「…そう言われて、泣きながら助けを求めたこの子を渡すような人だと思う?」



 カナンの返答を聞いた男は、その言葉にニッと不敵に笑うと、一本だけ足を動かす。



「ハッハッハッハ。…あぁ、そりゃそうだよな。そう言われることぐらい知ってるさ。だったら…やるしかねぇよなぁ!!」



 男はその言葉を合図に、己の持つ魔力を高める。魔力は可視化され、男の周りを漂い始める。



「この魔力…お父様よりも……」



 フィリアは身近にいる魔法を扱う中で強い分類に入る人物を思い浮かべる。

 だが、目の前にいる男は、その人物よりも超える魔力を持つ事実を肌で感じとる。



「トボロ、グエン。それと下っ端ども。お前らは待機だ。コイツら相手は、俺一人でする。」



 圧倒的な自信を持つのか、男は他の仲間達を制し前に出る。

 璃々花達は一層警戒を強める。この男には、それを出来るだけの力を持っているだろうと分かっているからだ。



「お嬢はその子を守って。リリーは……」


「…まだクラクラしますけど。私も、戦いますよ。カナンさん。」


「ーー了解。やるよ、リリー。」



 太陽が沈み、空が青から赤、そして黒へと変わる時刻。森の中で出会った3人の少女と盗賊たちは、己の目的のためにぶつかり合うのだった。

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