第10話「異世界かくれんぼ。」




 空からさんさんと降り注ぐ陽の光も、大きく、そして多く生い茂る木々に阻まれ地面に到達する途中でその存在を無くしている。

 あまり光の入らないこの森では、よく陽がさしている昼過ぎでもよく見ておかないと分からないぐらいに、足元が暗い。気を抜けば思わず足元をすくわれそうだ。


 でも、そんな森も別段嫌なものだけではない。

 森の中で聞こえてくるのは鳥のさえずる声と、穏やかで心地よい風が吹き、それになびく木々の音、それと自分の足音だけ。そんな静かな空間もとても居心地がいい。


 だが、油断はしてはいけない。自分はあくまで目的があってこの森に足を踏み入れているのだから。



「ー!」



 ガサッ。


 草木が揺れる音がした。たいした風も吹いていないことから、これが自然的な音ではないのはすぐに分かった。

 音の正体を探るため揺れたであろう草木に注目しながら近寄っていく。



「…?キュ??」



 目的のものが居るのかと探りを入れていたが、恐る恐る進んでみれば見に映ったのは、ただ森の中を散歩していた小動物だった。



「…はぁ、なんだ動物か。」



 標的を仕留めるためにと、肩から下げた相棒である長い剣から手を離し、ふぅと一息つく。



「ゴメンな驚かせて。ほら、これはお詫びだよ。」



 ポーチから非常食用に取っておいた菓子を一口大にちぎりって投げる。

 小動物は投げられた菓子を器用にジャンプしてキャッチすると、咥えたまま森の奥へと駆けて行った。



「さーて、流石は盗賊って所だな。上手く隠れやがって………探すのムズいなぁ。」



 少女は小動物の姿を見送ると、気を取り直して自分も森の中へと足を踏み入れていくのだった。








◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇








「ふわぁ……!」



 キラキラと金色に輝く目を輝かせながら、璃々花は思わず感嘆する。その目に映るのはとてもではないが賑わっているとは言い難い簡素な村だった。

 人が住むのに最低限の範囲だけが揃えられており、広さも一キロメートルあるかどうかという少し狭く感じる程。だが、流石に失礼とは思ったがここまで「村」という雰囲気を醸し出す場所を初めて見た彼女は思わず声が出てしまったのだ。



「街からもそれ程遠くはないですし、名前までは聞いてはいましたが……まさかここまで小さな村でしたとは…」



 隣では、村の状況をマジマジと見ていたフィリアが嘆く。



「あ、ダメですよフィリアさん。見た目で判断してはいけません!中に入ってみれば案外活気に満ちてるかもしれませんよ!」


「見た目も何も、外からでも中の様子が分かってしまいますわ。」



 せめてのものと反論するが、ぐうの音も出ない言葉で跳ね返される。



「まぁ村の様子はともかく、依頼が来たのはここで間違いありませんわ。村長に会いに行きましょう、リリカさん。」



 フィリアは一瞬の躊躇いを覚えつつも、村の門をくぐる。外からは閑散としていた雰囲気が漂っていたが、実際に入ってみれば、先程までの印象とは少し違っていた。

 自分たちのいた街のように、キラキラとした街灯や補整された道路などは無く、村の外で思っていた印象とは打って代わり、良い意味で古き良き調和の取れたいい村だと感じた。


 村の中心であろう円形に広がる広場では綺麗に整備された噴水が、水を空に吹き出している。

 畑も完備しており、村人たちはマイペースに自分たちの仕事をこなしている。

 活気がある、とは違うが、少なくとも村全体が寂しいような感じではなく安心した。

 しかし、チラホラと何かむずかしそう顔をした人も見かける。



「あっ、あそこの家だけ他とはちょっと違って豪華ですね。」



 様子のおかしい大人たちに話を聞こうとすると、不意に璃々花に話しかけられる。



「えぇ…確かに。恐らく、あそこがこの村の村長が住んでいるお家なのでしょう。」



 目的地であろう場所を見つけ、ひとまず大人たちに事情を聞くのを後にする。

 まずは依頼主である村長に話を聞くのが先だ。そこで違和感もぬぐえるだろう。



「えーっと…お、お邪魔しまーす……」



 家の入口は扉ではなく、入り口を阻むように布が垂れ下がっている。風で少しなびく布をめくり、おずおずと声をかける。



「…誰も居ませんわね。」



 勇気を出して扉をくぐってはみたが、家の中には人一人として居なかった。

 もしやすると場所が違ったのではと思い、出直そうとすると、不意に背後から声をかけられる。



「あら、あなた達見ない顔ね。ジニーさんに何か用があるの?」



 不意に声をかけられ後ろを向くと、そこにはこの村の住人である夫婦らしき二人が話しかけてきていた。



「ジニーさん?ここはジニーさんって言う人の家なんですか?」


「えぇ、そうよ。この村で一番偉い人。それがジニーさん。村長さんだし、威厳だけは残さないとって一番大きな家に住んでるの。」



 璃々花の問いに、優しそうな女性が詳しく説明してくれる。

 予想通り、ここが村長の家で間違いは無いみたいだ。



「すみません、私達はこのナールダ村の村長から依頼を受けて来たのですが、姿が見当たらなくて…何処にいらっしゃるか知っていますか?」



 フィリアは自分たちが依頼を受けた冒険者だということを話す。

 村人たちが友好的だと分かれば、こちらが素性を隠す必要はない。



「依頼!って事は、君たちが冒険者ってことか。ありがたい…!これでこの村も穏やかになる。」



 男は璃々花たちが冒険者であると分かると嬉しそうきほっと胸をなでおろす。

 村の住民たちがここまで安心するという事は、それだけ依頼内容である盗賊というのが被害をもたらしているのだろうか。



「ジニーさんは今はお出かけ中ですか?」


「あぁ、えっと…ジニーさんは、今はここ数日の間でお孫さんが居なくなったって言って、森の中を探しているよ。俺達も毎日交代で探してはいるんだが見つからなくて……」


「…お孫さんが?」


「そうなの。そうね、丁度貴方と同じくらいの歳でね、この村で唯一の魔術師なの。村のみんなで大事に見守ってきたんだけど…」


「そんな子が、どうして行方不明に?」


「それが分からないの。二日前ぐらいに急に姿が見えなくなって…もしかしたら盗賊を退治しに行ったのかもって、森を探してるんだけど……」


「でも、あの子はそんなに強い子じゃないからなぁ。魔法だってまだまだ上手くこなせないし…ただ、ここは森に囲まれてるから森以外には行かないはずなんだが…」



 村人は腕を組みながら、いなくなった少女のことを考える。

 そんな中、フィリアは少しマズそうな顔をして腕を組む。

 自分の大切な家族が居なくなったとなれば、親も心配になってしまうだろう。

 その上、フィリアは一つの予測を立てる。もし予測通りであれば、村長も含め早く見つけださなければいけない。



「分かりましたわ。協力ありがとうございます。私たちは森の方を探してみますわ。」


「えぇ、でも気をつけてね。森には魔物も住んでるし、その上盗賊たちが屯ってるかもしれないし…油断してはダメよ?」



 女性の言葉を聞き届け、璃々花たちはお礼を言ってその場を離れる。



「フィリアさん、さっき難しい顔してましたが、どうかしたんですか?」


「えぇ、少しだけ。村の雰囲気を見て、この村は生活に魔法が使われていないのが分かりますわ。その上、ジニーさんのお孫さんは魔法が上手く使えないとおっしゃってましたし。」



 魔法を生活に活用している人は多くいる。

 しかし、魔法の鍛錬をしていたフィリアならまだしも、村長の孫は魔法を指導する人が居ないこの村で育った子だ。まだ生活に活用出来るまでに成長していないのは理解出来る。




「村長であるジニーさんも魔法が使えないとすると、戦う術を持たない者が魔物の出る森に行くというのは、あまりオススメはしません。」



 いくら孫が心配だからといって、居るともしれない森に行き魔物にでも襲われようものなら、ミイラ取りがミイラになるというものだ。

 魔物ならまだしも、相手が悩みの種である盗賊だった場合、最悪のケースもありうる。



「なら、尚更急がないとですね。」


「えぇ、まずはジニーさんを見つけだして話を聞きましょう。」










◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇









ーー

ーーー

ーーーー


 小鳥のさえずる声。木々の揺れる音。自然溢れる森の中で、二人はよく目を凝らしながら歩いていた。



「結構薄暗いんですね。空気は美味しいですけど、なんだか少し不気味です。」


「確かに。太陽の光もあまり届いてはいないようですし、少し視界が悪いですわね。訓練した私や、視力の良いリリカさんでさえ見にくいのですから、ジニーさんはもっと動きづらいでしょう。」



 実戦のためにとサリアに訓練されたフィリアや、こちらの世界に来てからすこぶる体の調子のいい璃々花はあまり苦にもならないが、これがただの一般人であれば歩くのも一苦労だろう。更には視界も悪いとくれば、無事に帰還できるかも分からない。

 最悪の状況にならない為にも、早急に助け出さないといけない。璃々花たちは少し足を速めながらも森の中を探す。



「!この音…」



 ガサガサガサと、フィリアの隣で不自然に草が揺れる。その感じはまるで、さっき戦っていたスライムたちと状況が似ていた。



「…魔物、ですの?」



 街からは近いとはいえ少し疲れるぐらいには歩いてきた。その間にも数回スライムに出会っては討伐したり撃退したりを繰り返していたのだが、その中でも璃々花のカンはとても鋭かった。もはや野生の勘と言わんばかりに訓練されたフィリアよりも早く敵の気配を察する。

 その事を把握していたフィリアは揺れる草を警戒し腰のポケットから小さな杖を取り出す。そんなフィリアを見習い、璃々花も草むらに注意して構える。



「ー来ます。」



 草の揺れが止まり、何か生き物の気配が漂う。いつでも撃退できるように構えていた二人の目の前に、謎の音の正体が草むらから姿を現す。



「ーキュキュ??」



 草むらから飛び出したのは、人に危害を加えるような魔物ではなく、この森に住むただの小動物。集中していた2人は正体に気づくとホッと息を吐き安心する。



「ふぅ…何かと思えば、テュリーでしたか。」


「テュリー?この子の名前ですか?」


「テュリーとは色んな地方でも存在が確認されている動物ですわ。他の生物に危害を与えることは無く、逆に人に懐っこい個体もいるぐらいです。動物としてはかなり有名な方ですわ。」


「へぇ〜、あなたテュリーって言うんですね。えへへっ、可愛い。おいでおいで〜。」



 すっかり目的を忘れ目の前の愛くるしい動物にメロメロになっている璃々花を横目に、フィリアは呆れつつも周りを見渡す。

 案外、こういった小動物が情報源になったりする。

 他の生物に危害を与えないとは言っても仮にも小さなか弱い動物。それこそ魔物にとって、テュリーなどは格好の餌になってしまう。そんなテュリーが何の警戒心もなく歩いているというのなら、恐らくこの辺りには魔物はいないということだ。


 森に入りそこまで深くまでは入ってはいない。森の近くに住んでいるとはいえ、魔法を使えず体も鍛えられていない一般人が、森の奥まで進んでいくとは思えない。なら、一般人がギリギリ進めるこの辺りに魔物が居ないのなら、誤って森に入ってしまっても襲われることはないだろう。



「あれ?これは………お菓子?」



 そんな中、テュリーとじゃれあっていた璃々花は、テュリーが隠し持っていた食べ物を見つける。それは自然界には存在しない、人が加工した食べ物だ。どこかからか盗んできたのだろうか。



「ダメですよ〜盗んできちゃ。……でも、こんなお菓子あの村にあったっけ……?」



 村の中で食べ物を売っていた家は見る限り一つしか無かったように思える。外から見た中でも、テュリーが持っているような見た目の食べ物は売ってなかったはずだ。

 ならこの食べ物は一体どこから持ってきたのだろうか。



「「!!」」



 考えを巡らしていた瞬間、獣のカンで気配を感じたテュリーと、耳の良さと同じく気配を感じた璃々花は耳をピクピクと動かす。



「ーー!なにか音がしますっ!」



 自然の音以外しないこの森の中で、自分たちとは違う誰かの人の声がかすかに聞こえた。人の声だけでは無い。声に混じり、何か激しい音も聞こえてくる。



「キュッ!!」



 気配を察知したテュリーは一目散に逃げていく。小動物が怯え逃げていく理由。それはひとつしかない。



「はぁっ、はぁっ……!!」



 かすかに聞こえていた人の声も、鮮明に聞こえるようになる。そこでやっと気づいたフィリアも異変に気づく。



「あちらですわ!」



 音の方向を指さすフィリアの視線の先には、汗を流しながら必死にこちらに向かって走ってくる男性が居た。



「たっ、助けてくれぇっ!!」



 そんな男性の背後には、獲物を狙うようにその鋭い目を光らせた獣がいた。姿は璃々花もテレビ等で見た事のある狼に近い。だが璃々花の知る狼とは少し違い牙と爪が鋭く発達しており、牙は口から抑えきれずに出てきている。

 その数は合計で三匹。男性をしつこく追いかけ回している。



「リリカさん、行きまーーーって、言わなくても分かってましたわね。」



 声をかけようとしたフィリアは、既に隣から璃々花がいないことに気づく。



「やぁぁあ!!!」



 璃々花はフィリアの合図よりも早く、その自慢の足の速さで既に獣の目の前に陣取っていた。



「グッ!?」



 獲物を追いかけ回していた筈が、見知らぬ人間がいつの間にか目の前にいるという状況に、思わず獣は驚き駆ける足をゆるめる。

 その隙を逃さず、璃々花は腰に携えていた自前の武器を全力で振るう。

 急所に当たったとはいえ、ドラゴンにすら効く璃々花のスイングは勿論のごとく、獣にも有効だった。



「ギャァウッ!!!」



 自分の駆けていたスピードも相まって、璃々花の全力フルスイングをまともに受けた一匹は叫び声を上げながら吹き飛ばされる。



「すごい…サリアさんがくれたコレ、とっても使いやすい…!」


 璃々花の手には、ティラエル家の財産で作られた璃々花専用武器(棒)が握られている。

 璃々花が扱いやすいようにとサリアが調整した武器の成果に璃々花は感嘆する。



「早く、あなたはこちらへ!後ろに隠れていてください!」



 獣から命からがら逃げてきた男性は、フィリアたちの後方に逃げ込む。それを見届けたフィリアは、前方で戦う璃々花の手助けをする。



「リリカさん、スライムの時と同じ要領でいきますわよ!」



 スライムと違い四足歩行で地を駆ける獣たちは掴むことは出来ない。なら、璃々花に吸い寄せられる可能性のある魔法を敵になすり付ける作戦も、少しやり方を変えなければいけない。

 それも伝えようと思ったが、そもそもこの作戦を考え出したのは璃々花本人だ。恐らく、フィリアが言うまでもなく、その考えまで至っているだろう。



「大丈夫です!やっちゃってください!!」



 その証拠に璃々花は何も臆することなく、笑顔で援護を頼む。流石と思いながらも、フィリアは先の戦闘と同じ要領で、魔力を込めて編んだ炎の弾を放出する。

 またも一寸の狂いもなく、炎弾は璃々花の元へと吸い寄せられていく。自分と炎弾との距離を把握した璃々花はタイミングよく目の前にいる獣の上を飛び越えるように跳躍する。



「グルッ!!?」



 璃々花が影となり見えていなかった炎弾が、璃々花がその場から飛んだため視界に入る。突如現れた攻撃に慌てながらも、獣はその場から逃げようとする。



「逃がしませんっ!!」



 しかし着地して獣の反対側に位置する璃々花は逃がすまいと獣を武器で殴打する。



「グギャァウ!」



 先程とは違い少し軽めに振るった武器であっても、それだけでも中々のダメージになる。そして、その衝撃で吹き飛ばされた獣は逃げるすべも無くフィリアの魔法に身を包まれる。



「グルッッ………!!」



 その光景を目にした残りの一匹は勝ち目がないと悟ったのか、悔しそうに呻くとそのまま森の奥へと帰っていった。

 助けに入るために撃退していたため、無駄に追いかける必要は無い。逃げていった獣を見送ると、璃々花はフィリアの元へと帰っていく。



「決まりましたね、フィリアさん!」


「はい。私も何となく戦い方が分かってきた気がします。」



 スライムに続きまたもや戦闘に勝利した結果に二人はハイタッチをする。お互いに笑い合っていると、息を切らしていた男性は呼吸を整え二人の元へと近寄ってくる。



「いやぁ、すまないね。魔物とかに襲われるのは覚悟していたんだが、いざ目の前にするとやっぱり怖い。あぁ、ええっと…私はジニー。この森の近くにある村で村長をしている者です。」



 ジニーと名乗った男性は苦笑いしながら、二人にお礼をする。



「ジニー…あっ、ジニーさん!そうです、私たちジニーさんを探しに来たんですっ!」



 テュリーのおかげで目的を忘れていた璃々花は思い出したかのようにジニーを見る。



「おや、そうなのかい?それは済まなかったね。どこかに消えてしまった孫を探して森に来たのはいいが……やはり、今日も見つからなかった。あの子の事だ、森を抜けることは無いだろうが……やっぱり心配で。」


「私たち、あなたの依頼を見て来た冒険者なんです。そのお孫さんのお話を含めて、色々お話をお聞きしたいのですが……よろしいでしょうか?」


「冒険者…!そうか、ギルドが動いてくれたのか。それはとても嬉しい……嬉しいが…いや、まぁいい。君たちは私の命の恩人だ。ぜひ私の家に来てくれ。お昼過ぎだし、なにか飲み物でも飲みながら依頼について話させてもらいたい。」



 冒険者と聞きパッと笑顔を見せたジニーだが、すぐに顔を曇らせる。その表情に何かあるのかと聞こうとしたが、ジニーは笑顔に戻りフィリアの提案を飲む。

 ジニーの心情も含めて全ては村に着けば話を聞けば分かるだろう。そう思いフィリアは三人で村へと帰って行った。











「ん?あれ、見たことあるオッサンと少女二人……」



 璃々花とフィリアが獣追い払い、ジニーと共に森を抜けていた時、森の中枢にバレぬように巧みに隠された基地のような場所で、一人の男が双眼鏡を覗いていた。



「ドンの頭〜。なんか森の中であそこの村の村長と思われるデブっちょと、可愛らしい少女が二人居るんスけど。」



 男は双眼鏡で璃々花たちを見据えながら、飄々とした声で問いかける。



「んんん?何その事案。おい誰か警備隊呼んでこいよ。聞くからに事案だろそれ。」



 双眼鏡を覗く男に名を呼ばれたドンの頭は、暇を持て余しているのか顔にタオルを被せ寝転がっている。



「今警備隊を呼んだら真っ先に俺たちが狙われるぞ。…珍しく魔力を感じると思ったが、元凶はその二人か、トボロ。」



 ダラける男を無視し、仮面を被る怪しい男が、これもまたもやダラけている双眼鏡を持った男、トボロに話しかける。



「ッスねぇ。見た感じ身長高い方はかなりの魔力を持ってますけど、もう1人の嬢ちゃんはーーーなんスかあの子?魔力が一切ないっス。」


「……フン。成程、冒険者か。チッ、あの男め…やはりギルドに助けを求めていたか……リック!!」



 リック、と呼ばれた男は寝転がる体を無理やり起こし唸りながら悩む。



「んだよ、うるせぇな。女でしかもガキだろ?どんぐらいの実力かは知らんが、そいつらは放っておきな。俺たちが構えるのは、追い払ってんのに何回も来やがる小娘と、あとは異様に強そうな素手の女だ。」



 リックはあくまで慌てた様子もなく、軽い口調で璃々花たちを『敵』という枠から外す。



「でも、ソイツらって皆俺たちを狙ってるんスよね?なら、手を組まれたらマズイんじゃ?」


「…あー………その通りだトボロ。人員増やすのも手かねぇ。はぁ、メンドくせぇ。」



 リックは立ち上がると、小さなテーブルの上に無造作に置いてあった鍵のようなものを取るとスタスタと重い足取りで歩く。



「武器っつうのは戦うためにある。いくら貯めてても使わなきゃあ意味がねぇ。ある分全部使いな。」


「それじゃあ、ヤツらを?」


「あぁ、面倒だから放っておこうとしたが…ギルドの奴らまで来やがったらやるしかねぇだろ。」



 リックは壁にかけてあった緑色の服を羽織る。それに続きトボロや仮面の男も戦いの準備を始める。



「ここの森に散ってる手下共を集めろ。今日こそ、奇跡を見つけるぞ。」



 森に身を隠す一つの軍団は、静かに、だが強く闘志を漲らせていた。

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