第8話「冒険者志願と賑やかな集団」



 ふわっと、緩やかに強く流れる風が髪の毛を押し上げる。風になびく髪を手で抑え、青く澄渡る空を見上げ微笑む。

 心の底からワクワクが止まらない。この感覚を知っている。


ー例えば、初めての場所へと旅行に行く時。

ー例えば、学校生活で初めての文化祭などの行事に参加する時。


 そう。これは、初めてのことを知るときのワクワクと一緒だ。

 だが、旅行に行くのと、今から行く理由も場所も大違い。これから行くのはどんな場所なのか、どんな生き物が住んでいるのか分からない、想像も出来ない場所に向かうのだ。



「よーっし!張り切っていきましょー!!」



 白に近い、光に当たれば綺麗な白髪に見える水色の髪を荒ぶらせながら右手を勢いよく空へとつきあげる。

 その行動からとても活き活きしてるのがよく見て取れる。



「私的には、心配で仕方がないのですが……まぁ、なるようにしかなりませんわよね…。」



 が、それとは対照的にテンションがダダ落ちな少女が隣に立っている。

 堂々と上をむく少女と、片や落胆し下を向く少女。空を飛ぶ鳥達はなんだコイツらと言わんばかりに、少女達を見ていた。


 何故、二人がこんなことになっているのかと言うとーーー








◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇









「ーー今、なんて言ったのかな…?」



 璃々花の言葉を聞き、サリアは動きをピタッと止めて、聞き返す。



「?私、スキルっていうのを持ってるんですけど…何なのか知らなくって……教えて欲しいんですけど…。」



 サリアに全力で攻撃した時や、フィリアの魔法に当たってしまった時とは違う、本気の驚愕。

 サリアとフィリアは目を大きく見開き、リリカに問いかける。



「ーーーそう、か。君は、スキルを与えられたんだね。」


「ーー??」



 デッドスキルの名を聞いた時、サリアはまるで何かを悲しむような表情になったが、璃々花が話しかけた時には、その言葉によって表情は璃々花を慈しむ表情へと変わっていた。



「いや大丈夫、問題ない。あぁ、でもそうか…スキル持ちか。これは中々、ややこしくなりそうだ。」


「サリアさん、やっぱりスキルのことを知ってるんですか?」


「もちろん。ただ、僕もフィリアも持ってないし、人から聞いた事しかないけどね。」


「やっぱり、魔法に詳しいからですか?」


「いやぁ、そういう訳では無いんだが………うむ。こんな所ではなんだ、少し休みながら話そう。」



 「場所を移そう」と、サリアは2人を連れて、今一度食卓へと戻る。

 机の上は先程まであった昼食の残りは無く、何事も無かったように綺麗になっていた。

 紅茶に似た飲み物をいただき、落ち着いた璃々花はもう一度デッドスキルについて話し始める。



「ーーこの世界に来る時に、女神様に会ったんです。」



 澄んだ色をしたお茶を喉に通し、カタンと音を立ててお皿に載せる。スッキリとした味わいで、とても心が落ち着く。



「女神様が言うには、私の元いた世界から選ばれた人が、この世界に移動できるらしいんです。それでその際に、一つだけスキルっていうものが貰えたらしいんですが……」



 選ぶ、と言っても所詮はルーレットだったが。本当に女神が選んだものなのか、はたまた適当に選んだものなのかは、正に神のみぞ知るだろう。



「女神と別れる時に、どんなスキルなのかを聞いたんです。そしたらーー」





〜〜〜〜〜〜〜〜



『おめでとう!当たったのは、残念賞ね!』


『ーーーー!!?え、ちょっと待ってください女神様。スキルに残念賞とかあるんですか!?』


『モチのロン♪君に与えられたスキルの名はーーーー』



〜〜〜〜〜〜〜



「ーー不運。確か、そう言ってたんです。」



 何も知らず、何も持たない自分にはとても心強い力になると思った矢先がコレだ。

 普通、女神とは人々に優しいものだと思うんですけど……



「アンラッキー、不運ですか。それはまた、悪趣味なスキルを……」



 フォローするところなかったらしく、フィリアは苦笑いをする。

 むしろ笑われた方がいい気もするけど。



「………あぁ。本当に、悪趣味なことだ。」



 女神、そう聞いたサリアは険しい顔つきになるが、璃々花がサリアに向いた頃には、いつもの柔らかい表情に戻っていた。



「リリカくん。君のそれは、恐らくデッドスキルというものだね。」


「デッドスキル、ですか?」


「あぁ、《デッドスキル》意味はそのまま、"死んでいるスキル"。つまりは使えないスキルという事さ。」



 なんとも単調で分かりやすい名前なのだろう。このスキルの能力は聞くまでもなく想像できるが、正にピッタリな名前だ。



「スキルはね、希少だけどチラホラと持っている人は居るんだ。特別なことには変わりないが、精々“スキルを持ってる自分ラッキー”程度だね。でも、そんなスキルの中でもとびっきりに珍しいものが、リリカくんの持つデッドスキルさ。」


「……デッドスキルを持ってる人って、どのくらい居るんですか?」


「そうだね。一大陸に一人居るか居ないか、ぐらいだろう。」


「うぇ……そんなに居ないんですか?」


「うむ。誇れることではないが、君なこの街のある大陸で唯一のデッドスキル持ちだろう。」



 励ましも含めてなんだろうけど、全然嬉しくない。



「昨日起きたトーラちゃんの事件に巻き込まれたのも、多分このスキルのせいかもしれないんです……」


「かもしれませんわね。ただ、不運という概念なために、それがスキルのせいなのかたまたまなのかも判断しかねますけど…。」


「あー、後はアレじゃないか?お昼前のフィリアの魔法にリリカくんが当たったアレだ。こちらの不注意でもあるが、明らかに放った場所とはリリカくんの立ち位置が違ったからね。吸いよられたとしか言い様がない。」



 出していけばキリがない。

 ただ、この世界に来て2日しか経っていないのにコレだ。

 1日1回アンラッキーなんて事になったらシャレにならない。



「うーん………戦闘以前に、私このままやっていけるか心配になってきました…。」


「やっぱり、リリカさんは冒険者になるのはやめた方がいいのでは…?そのスキルのせいで大怪我でもしたら…」


「!!いえ、それは絶対に大丈夫です!もう私はフィリアさんと一緒に冒険者になるのは確定です!!」



 まずい。せっかくフィリアを説得させたのに、ここでまた振り出しに戻ってしまうのはめんど………うん、面倒くさいことになる。



 今までの生活を変えたくてこの世界に来たのに…。

 不運。それのせいで、また大変な日常になるなんて、微塵にも思ってもいなかったです……。








◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇








「うわぁ〜!すっごく、大っきい……ここがギルドなんですね…!」



 そんなこんながあり、多少のアクシデントはあったものの、フィリアの説得を終え結局ギルドに加入する事に決まった。

 日を改めて家を出た二人は、賑わう街中を抜けて、ドンと構えるギルドの前に立っていた。



「ここがこの街に構えるギルドです。ここでギルドへの加入もできますわ。」



 「どうぞ」とフィリアは璃々花を前に出す。開放された扉からは中が少し見えており、中からは色んな人の話し声が薄らと聞こえてくる。

 意を決した璃々花はたどたどしくその足を進めて、扉の中へと踏み出す。



「…わぁ……っ!!」



 ガヤガヤといろんな人達の会話が入り乱れる場所で璃々花は感嘆の声を上げる。

 ギルドの中に踏み入れてみると、先程よりもギルドの内装がよく見える。

 ギルドの中は一階と二階に別けられており、ギルドの中央半分ほどから迂回するようにぐるっと階段が設けられている。



「一階と二階に別けられているようですわね。」



 フィリアも中に来たのは初めてらしく、興味ありげに周囲を見渡している。

 一階には中央に輪っかのように円形のテーブルがあり、その中に数人同じ格好をした男女が立っている。ギルドは酒場のようにもなってるらしく、奥の壁際に料理をオーダーする所、そして広い空間にいくつもの丸や長い四角のテーブルが設置されている。

 二階は、下の階にいる璃々花達からは奥まではよく見えないが、二階でもまたテーブルに料理を載せ、豪快にお酒らしきものを飲み干す者がいるため、恐らく二階と同じように無数のテーブルが並べられているのだろう。



「私も初めて来ましたが、想像通り活気がありますわね。」



 初めて見る光景に周りを見れば、いろんな人達の生活を垣間見える。とても若い男女グループやとても怖そうな雰囲気の厳つい男の人たち。

 数多な人達はこのギルドと呼ばれる場所で各々のことをしている。先程見た厳つい男たちは任務帰りだろうか、ビールを楽しげに口へと運んでいる。若いグループは次の作戦か何かを話し合っている。



「凄いです……こんなに沢山の人が冒険者なんですねっ!!」



 先程から璃々花は興奮しっぱなしである。見るもの全てが新しい発見で、どれだけ見ても見飽きない。

 そんなテンションの上がり切った璃々花にビールを飲み上機嫌な厳つい男達が話しかけてくる。



「おうよ嬢ちゃん!嬢ちゃんはギルドが初めてかぁ?ならビックリするだろうさ!俺たち冒険者にとってはここは第二のホームだからなぁ!!」



 ガハハハッと豪快に笑う男がビールを片手に近づいてくる。璃々花は最初はビックリしたが、心から楽しそうに話す男に思わず微笑んでしまう。酔っているせいもあるだろうが、見た目によらず親切な人だ。



「ごめんなさい。この子と私は今から冒険者に登録するの。もう、言っていいかしら。」



 そんな男たちが苦手なのか、フィリアは璃々花を引き寄せると受付と思われる場所へと向かう。

 フィリアに引っ張られる璃々花は慌てて男たちに手を振る。急なフィリアの行動に怒ることなく、男たちもまた璃々花に対し笑顔で手を振り返してくれた。



「フィリアさん、登録って何をするんですか?」



 フィリアに引っ張られながら璃々花は問いかける。



「詳しくは知りませんが、別に難しくはないと聞いてますわ。お父様に聞いた話では名前と年齢、まぁそこらの一般情報と後は自分の得意とする戦い方とか。」



 フィリアは予め、サリアに聞いたり勉強していた知識を璃々花に説明をしながら歩いていく。

 受付場はギルドに入った扉からはそう離れていないため、少し歩けば直ぐに辿り着いてしまった。

 机の上で何か作業をしてた受付の女性は、近づいてくる二人に気づくと作業を止め、笑顔で待ってくれている。



「初めまして、よね?私はこのギルドの受付嬢をしてるリナって言うの。あなた達は見ない顔ね。他の街から来たの?」


「いいえ。実は私たち、今日は冒険者としてこのギルドに登録しに来たのだけれど。」


「ーーあぁ!冒険者登録ね。ちょっと待っててね。」



 受付嬢ーーリナはフィリアの言葉を聞くと笑顔で応えてくれた。

 後ろに構える棚にかなりの量が重ねられた紙から目当てのモノを取り出すと、一枚の紙とペンを持ち見やすい位置に差し出す。



「お待たせしました。それじゃあ、一人づつ名前と年齢、あとはあなた達の花紋の属性、それと希望する依頼の種類を聞いてもいいかな?」



 先程フィリアが言っていた通りの質問が投げかけられる。最後の依頼の種類というのが璃々花には理解できなかったが。

 フィリアと璃々花はお互い譲るように目を合わせるが、ここは年上からという璃々花の無言の圧力を受けたフィリアは目線を戻す。



「それでは、まずは私から。名前はフィリア・ティラエル。年齢は17。花紋は《赤の炎》ですわ。依頼は、特に決まっていませんが、魔法が使えるのなら何でも。」


「はい。フィリア・ティラエル、っと………ん?ティラエル…?あら…もしかして、あなたがあのティラエル家のご子息?」



 フィリアの名前を聞くなり、受付嬢を始め、会話を盗み聞きしていた近くの人たちも驚いた目でフィリアの方をマジマジと見つめる。



「おいおい、聞いたか。あの背の高い美人は令嬢だってよ。」


「いやー、俺もそんな気はしたんだ。あの立ち振る舞いは普通とは違うってな!」


「違ぇねぇ。あんな美人で若い女の子がこのギルドに来るなんて、そんなの正に……」



「「「一輪の花ってやつだろ!!!」」」




 何やら後ろで男性陣が喜びの舞を踊っているみたいだが、男性陣の様子を見ようとした目はフィリアの手によって遮られる。




「ーーーーコホンッ!!えぇ、証拠という訳ではありませんが……これはティラエル家の紋章ですわ。あとは、お父様…現当主のサリア・ティラエルからも推薦状を貰ってます。」




 フィリアは洋服の胸の辺りに付けられた紋章のバッジを見せつつ、ポーチから予め貰っていた推薦状を取り出す。

 家を出た時からなんのバッジなのだろうと思っていたが、それがティラエル家を示すバッジだったとは知らなかった。



「推薦状だってよ。んなもん、俺だってあの娘に《世界一美人で賞》っていう推薦状送りたいぜ…」


「馬鹿野郎。そんなお前には《世界で一番おバカで賞》っていう推薦状を送ってやるよ。」


「なんだと!!?お前も一緒だろうが!!」


「いや、そこは否定しろよ……。」



「ーーーこら、そこ!!一回一回茶化さない!!!次茶化したら依頼回さないわよ!!」


「「「へいへーーい。」」」



 リナの言葉によって、男性陣たちは自分たちの席へと戻っていく。

 ちょっと怖いけど、楽しそうでいい雰囲気だなぁ…………って言ったらフィリアさんに怒られそうだから言わない。



「ごめんね、2人とも……悪い人たちじゃないし、許してやってね。それと、ちゃんと確認致しました。ティラエル家の人だったら特に心配はいりませんね。こちら、冒険者を示す物です。これは常に持ち歩くようお願いしますね。」



 フィリアはギルドのハンコが押された認定証のようなものを受け取ると、腰にかけているポーチに入れる。

 ティラエル家が有名な一家だということは聞いていて、もしやと思っていたが、ここまで有名だとは。一見ではそうは見えなくとも、サリアも偉い人なのだと実感する。



「それでは、次の方お願いします。」



 フィリアの登録が終わった受付嬢はフィリアから目を外し、璃々花に顔を向ける。



「は、はいっ!えーっと、名前は綾瀬璃々花です。年齢は15歳。花紋は………」


「ーー《無空の空》ですわ。」


「あ、えっと、花紋は《無色の空》です。」




「「「無色だって!!!!??」」」




 さっき注意された男性陣が、璃々花の言葉を聞き慌てて立ち上がる。

 しかしそれは、また茶化しに来たわけではなく、純粋に驚いているみたいだ。

 実際、男の叫んだ言葉を聞いた周りの冒険者や、リナでさえも驚いた顔をしている。



「まさか、無色の花紋持ちの人に会えるなんて思ってなかったわ!!えーっと、ねぇねぇリリカちゃん!あなた、どんな魔法を使うの!!?」



 興奮した様子でリナはカウンターから身を少し乗り出し、目を輝かせて問いかける。

 リナだけではなく、自分も自分もと周りの冒険者が聞き耳を立てている。



「うぇ…いや、あの、私まだ花紋が咲いてなくって……魔力もないので、何が使えるかは分かんないんです……」



 周りの期待に応えることは出来ないこう言う以外言葉は無い。



「ふぅん。でもまだまだ成長できるってことでしょ?これ以降が楽しみね。」



 特に何か言われるわけでもなく、リナはすんなりと姿勢を戻す。

 しかし、まさかここまで食いつかれるとは思っていなかった。余程、無色の花紋は珍しいのだろう。




「あ、遮っちゃってごめんね。えーっと……アヤセリリカちゃんね……うーん、あまり聞かな名前。どこか違う地方から来たの?」



 元の業務に戻ったリナは、璃々花の名前を聞くなり不思議そうな顔をして情報を紙に書き込む。

 ラクやラカンたちと話し合っていた時もそうだったが、やはり、自分の名前はこの世界の人たちはあまり聞かないのだろう。疑われているという訳では無いらしいが、聞き馴染みのない名前にただ単純に不思議がっているとう感じだ。



「ごめんなさい。この子、部分部分の記憶がないらしいの。だから、あまり自分の出身が分かってないらしくて…」



 するとフィリアは、本人である璃々花の代わりに事情を話す。

 フィリアと璃々花の間では、璃々花は記憶喪失で生まれ育った場所などを忘れているという設定になっている。

 実際、何故そんなことになったのかというのは、サリアの考えによるものだった。



『ーー転移者っていうのは、基本冒険者たちにとってはあまりいい名ではない。戦い事を知らない人が冒険者をやるのは気に食わない、と敵対視する人も少なくはないからね。』



 説明を受けて確かにと納得する。

 この世界に来たばっかりで魔法などをよく知らないという事や、この世界には家族がいないそもそもここの出身じゃないため生まれが分からない。そういった現状が記憶喪失には都合がいいという事で、その設定で貫くことになった。



「まぁ…まだそんなに小さいのに、大変だったのね。」



 璃々花の事情を聞いたリナは眉を下げ悲しげな顔をする。騙しているようで少し心が痛む。

 確かに痛む。ズキズキと。

 恐らく嫌味などひとつも無く、ただ単純に若いという意味で小さいと言ったのだろう。だがそれは背が小さいことに少しコンプレックスを抱いている璃々花にとっては、何故かその言葉が引っかかてしまう。



「い、いえ!いつか思い出せればいいかなーって思ってますし……それより!依頼の種類について教えて欲しいですっ!!」



 嘘をついた事の罪悪感を紛らわすために、無理やり話を変える。

 リナはそれ以上は何も聞かず、少し微笑むと棚から数枚の紙を取り出し机に並べる。



「ギルドに来る依頼には複数の種類があるの。1つは『戦闘』村や町に被害をかけている魔物などを倒したり、依頼者に迷惑をかけている人たちを懲らしめたりする依頼。2つ目は『助っ人』これは魔法などを上手く使えない人達が、手伝って欲しい時に出す依頼なの。3つ目は『採集』これは魔法使いなどでしか行けないような場所にある素材などを採取し、依頼主に納品する依頼。まぁ、これは『助っ人』の依頼に少し類似してるけど。」



 受付嬢は実際の依頼書を見本に分かりやすく説明をしてくれている。大体のことは知っているであろうフィリアも璃々花の横から覗き込むようにして見てる。

 聞けば聞くほど、ゲームや漫画で見た内容と酷似している。これならば璃々花でも何とか理解できる。

 戦闘慣れしている冒険者は特に「戦闘」を手伝うのだろう。逆に戦うのが苦手な人は助っ人など平和的な依頼をこなすといった所とみた。

 『助っ人』と言っても、簡単に言えば『お手伝い』という事だ。ただのお手伝いであれば、命に危険は迫らないだろう。



「うーん……私は何が得意なのか分からないので…どうしようかな……?」



「ふふっ。別に、今無理して決めなくても良いのよ。絶対に答えて欲しい、というわけでもないし、よく知らないのであればこれから決めていけばいいわ。」



 リナは微笑むと依頼書を直し、璃々花用に認定証を差し出す。



「まずは色んな依頼をこなして、それから自分の得意な依頼を見つけていきましょう。」



 色んな冒険者たちを見守ってきたリナだからだろう。人の心に寄り添うのがとても上手い。その優しさに触れ璃々花は心がほっこりする。



「はい、それではお二人の冒険者登録はおしまいです。安全に元気に、色んな依頼をこなしてくださいね。」


「……!はいっ!」



 リナのエールを受け、背中を押された気分になる。璃々花は大きな声で返事をしリナから依頼の一覧の紙を受け取る。



「なるほど、その人に合った依頼が一覧として渡されると。…どれにします?私はどれでも良いのですが、リリカさんは戦闘慣れしてませんし……」



 二人は空いている席を探し、受け取った依頼の紙を広げる。

 受付嬢が渡した紙には自分たちに合った難易度の依頼が一覧で綴ってある。



「色んな依頼があるんですねぇ…」



 簡単な所では山で採れる山菜集めや、とある商店街の手伝いなどがある。少し難しそうな所では、商人団体の護衛や、とある村に被害をもたらしてる魔獣の討伐など様々な依頼がある。

 どんな依頼を見ても心がとても惹かれしまう。山菜摘みなども一見地味そうな依頼だが、触れる全てが初めての璃々花にとってはそれだけでもとても心くすぐられる。



「やはり、戦闘慣れしていない上に、デッドスキルを持っているリリカさんですし、最初はコツコツと簡単なものから始めましょうか。」



 戦闘力ではフィリアは魔法を人並み以上に扱えるため、多少の危険な依頼はクリア出来るが、自分だけで依頼に行く訳では無いので、フィリアは戦闘など行ったことの無い璃々花を考慮して、難易度の低い物を選ぼうとする。



「いや。ここはやっぱり大きくいきましょう!山菜摘みも楽しそうですけど、最初なんですしパーッと大きな依頼をこなしましょう!と、いうわけで…」



 そんなフィリアの考慮を思いっきり無視し、璃々花かは『戦闘』の欄を探し始める。

 村を襲う魔獣種の退治に、海でのバカンスをぶち壊す海獣種の討伐。色々な種類の依頼を見ていくと、璃々花は一つの依頼に目が止まる。



「これって……」



 璃々花の目に止まった依頼には、【盗賊の捕縛もしくは撃退】と書いてあった。



「これは、魔獣等の討伐とは違った依頼ですわね。えーっと……場所はナールダ村ですか。この街からはそんなに離れてはいませんわね。そのナールダ村から色んなものが盗まれていると。その盗人は村の裏に構える木が生い茂る森山を根城にしているらしいですわ。」



 盗賊。璃々花の元いた世界でもそう称される人たちはいたが、森に隠れ盗みを働き依頼が出るレベルで迷惑をかけているとは、やはりこの世界は色々とレベルが違う。



「そんな盗人を捕獲し連れていく、もしくは盗人を森から追い出し平穏を手に入れる。というのが依頼内容らしいです。」



 内容を見るに、魔獣などを相手にするなどのただ倒すだけの依頼よりも少し難しいものらしい。恐らく、フィリアが居るから少し難しい依頼でも大丈夫だろうとリナが追加したのだろう。



「これは、少し難しいんじゃありませんか?私も魔法は多少扱えますが、人相手には使ったことは無いですし。リリカさんなど一層……」


「決めました!これにしましょう!!」



 内容を噛み締めた上で、自分たちの経験不足を踏まえフィリアはこの依頼を止めさせようとしたが、忠告はフィリアが喋っている途中で遮られた。



「よーし、そうと決まれば早速受けに行きましょう。思い立ったが吉ですよ。」


「え、ちょっ、リリカさんっ!?」



 流石に受けるとは言うまいと思っていたフィリアは、思わぬ言葉と共に素早く行動する璃々花に一瞬着いていけず、遅れてしまう。

 その間にもフィリアの静止も気に停めず、璃々花は依頼書を受付嬢の所に持って行ってしまったのだった。

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