第7話「私の新しいやりたいこと。」




「ーーさて、始めるとしようか。」



 お昼ご飯を終えて、サリアに連れてこられた場所は、先程フィリアに丸焦げにされたらとても大きな庭だった。

 お昼ご飯を食べつつ、サリアと情報共有をして、璃々花は自分がどういう状況に置かれているのかというのを少しは理解した。



「リリカくん。君の考える魔法とはどんなものだ?」


「えっ?うーん…やっぱり、こうポンって炎を出したり、風を操ったり、空を飛んだり…とか?」


「うむ、そうだ。君の考えは正しい。結果的に、それも簡略してみれば満点正解だ。ただ、リリカくんのその考えは、言わば魔法においての初歩に当たる場所に当たるんだ。」



 まるで学校の先生のように説明をしながら、サリアは懐から、多少形はついているものの装飾などはされていない棒のようなものを取り出す。



「魔法とは自然現象を生み出すことだけじゃない。そこから一歩先に行くんだ。こういうふうにね。」



 サリアの体から何か『気』のような、ありきたりな言い方をすれば何かの力のようなモノが漂い始める。

 その力は手に持つ小さな棒に集められると、チカチカと光る火花のようなものが溢れ始めやがて火の玉のようにかたどられる。

 しかし、サリアはそれに留まらず少し力を込めると火の玉は形を変え、リングのように円を描く。



「わぁ……!」


「魔法を扱う事において、自然現象を起こすのは当たり前、魔術師であるならそれに自分の思い描いた『形』を与えることが必要だ。」



 璃々花に見えやすい場所で出した火のリングを、サリアはクイッと弾き飛ばすように軽く上方へ飛ばす。

 棒から離れ空へと飛ばされたリングは、その体を今以上に光らせるとボンッと花火のようにその体を爆発させた。



「もちろん、ただの火の玉でも効果はあるとも。魔力の量が多ければただの火の玉でも驚異になりうる。だが、それは魔力の多い人のみだ。普通の魔術師はそんなに魔力を持っていない。」



 サリアは先程の軽々とした表情を引きしめ、力いっぱい棒に気を込める。すると、先程の大きさとは比較にならないほどの、小柄な璃々花の体なら二人分は包み込めるほどの火の玉ができる。



「これが、私の魔力でできる最大の大きささ。」


「わぁ、凄い大きいですねっ!やっぱり魔法が得意だとこんなに大きくできるんですか?」


「いや、これはまだまださ。世の中には太陽に見間違えるほどの大きさにも出来る魔術師はいるし、この大きさなら数十個分を同時に造り出す人もいる。」


「太陽って、そんなに大きくですかっ!?」


「太陽、とはあくまで比喩的で、それに見間違えるほど大きいということですわ。まぁ、と言っても私も見たことがありませんが。」



「因みに私はこれくらい」とフィリアも自分の作り出せる最大の火の玉を眼前に出現させる。サリア程ではないが、それでも十分驚くほど大きい。



「この世界は皆魔力を持っている。子供であろうと老人であろうと。だが自然に比べれば人の持つ魔力なんてこれっぽっちだ。だから私たち魔術師は、『自然の魔力』を借りて『己の魔力』と掛け合わせ魔法を使う。それが“魔法”と呼ばれるものだ。」



 サリアの説明を聞いて、璃々花はポカーンと口を開ける。

 魔法とはどういうものなのか、その説明を聞きはした。理解もした。だが、実感が湧かない。

 元の世界で周りや自分が想像していた魔法とは少し違っていて、「そういうものなのか」という漠然とした感覚でしか受け入れられない。



「魔法って、もっと便利で簡単なものだって思ってました。」


「慣れれば簡単さ。ただ扱えるレベルなら、10歳を超える頃には魔法が使えるとも。」


「そんな小さな時から使えるものなんですね……」


「うむ。まぁ、君はこの世界に来てまだ日が浅い。気にする必要は無いよ。」



 璃々花のことを励ましてくれたサリアは、魔力を自分の中に引っこめる。

 と、その時。今まで気づかなかったが、サリアの背中から翼のようなものがフッと消えるのを目撃する。



「?サリアさん、今背中に何か翼みたいなものが……」


「翼?……あぁ!《翼紋》の事かい?」


「よくもん?」


「あぁ。所謂、魔法の証。僕たち魔法を使う人は、体にその証が浮かび上がるんだ。男性なら翼の形に。女性なら花の形にね。」



 そう言うと、見せびらかすようにサリアは再び魔力を込める。すると、サリアの背中に、紅く染まった4枚の翼が現れる。



「私の場合は花ですわね。これを《紋証》と言い、男性は翼の紋証で《翼紋》。女性なら花の紋証で《花紋》と呼ぶんです。」



 フィリアもまた、璃々花に見せるために、魔力を込める。すると、フィリアの右手に紅く染った4枚の花弁が付いた花が浮かび上がる。



「わぁ、とっても綺麗です!花紋は右手なんですね!」


「あぁ、いえ。翼紋とは違い、花紋は人によって現れる場所が変わるのです。なぜ違うのかはあまり分かってはいませんが……。」


「へぇ〜……サリアさんの翼紋もフィリアさんの花紋も、どっちも赤色なんですね。」


「えぇ。紋証は属性によって色が変わるのです。原則として1つの色に1属性。赤色は炎。青なら水や氷。緑なら風と言った自然の魔法。私とお父様は家族ですので、遺伝で同じ色なのです。」


「ほぇ〜いいなぁ…。」


「?リリカさんも出していましたわよ。チビドラの時に。」


「ーーえ?」



 初耳。当の本人には出した記憶なんてこれっぽっちも無い。

 だが、言われてみればあの時、トーラの元へと駆け走った瞬間に、まるで自分の体じゃないかのような気分になった。もしかすると、あの時に無自覚で使ったのだろうか?



「ほう。もしや、君は既に魔法が使えたりするんじゃないか?実は天才気質かもしれんな、リリカくんは。」


「うぇ〜?いやぁ、そんなことは〜……えへへ。」



 平凡だと思っていた自分が、実は天才かもしれないと分かり、喜びを顔から隠しきれない璃々花だった。



「………いえ、多分それは、ないと思いますわ。」



 ーーが。そんな自惚れはフィリアの一言で無惨に消え去るのだった。



「あの時もそうでしたが……リリカさんからは、魔力が一切感じられないのです。」


「あぁ、やはりフィリアもかい?僕もそう思ってたんだが。」



 思ってたのだったら自惚れさせないで欲しかった。

 人を上げといてすんなりと落とすところは、やはり親子と言うべきか似ている。



「いや、喜んでたから言いにくくてね。実を言うと、僕はお昼の時点で気づいていたんだ。」



 お昼というと、アルティナに二人を呼ぶよう言われ元気よくその場に居合わせたのだが、何故か火の玉が自分に直撃した時のことだろう。



「魔術師は漠然とだが、周囲の魔術師の魔力量などが分かるんだ。それを魔力感知と呼ぶのだが…リリカくんにはそれが効かなかった。効かない、というよりはリリカくん自体が魔力を“一切”持っていないと言うべきだろう。」


「私は、この世界ではない人、と聞いて感知しようとも思っていませんでしたが……改めて今やっても、リリカさんからは特に何も感じるものはありませんわね。」



 フィリアもサリアに言われ魔力感知をしているが、手応えが無かったのか何かを考えるように少し眉を下げる。



「…リリカくん。逆に、私たちの魔力を感知できるかい?」


「私、ですか?えーっと…どうやればいいんですか?」


「そんなに難しくはない。相手の奥底を見よう、感じようとすれば出来るはずだ。」



 璃々花はサリアのアドバイス通りに、目で見える二人の姿ではなく、その奥を見ようと目をこらす。



「……うーーん、何も、感じません。」



 しかし、やってみても目が乾くだけで何かを感じとったりは出来なかった。



「となると、やはりリリカくんは魔力が無いということか。なら…少し困ったな。」



 何か困ることがあるようでサリアは難しい顔をしたまま顎に手を当てて思考を巡らせる。



「別に、この街から一生出なければ魔法が使えなくてもなんら問題はないんだ。なんだが……」


「一生……ですか。それは、ちょっと嫌です…。」



 安全なことに越したことはないが、出ることが出来ないとなると、まるで縛られているようで嫌な気持ちになる。

 



「いや、当初はリリカくんもフィリアと一緒に冒険者としてやっていけたら……と思っていたんだがなぁ。」


「……冒険者?」



 サリアが悩みながらポロッと口にした単語に璃々花は機敏に反応する。



「ーーこの世界にはギルドというものがあって、大陸の内と外、色んな所から依頼が来るのです。そこで依頼をこなし、報酬を貰う。そんな仕事をしているのが、“冒険者”と言うのです。」



 サリアに変わり、フィリアが反応した単語について説明してくれる。

 冒険者。

 ギルド。

 依頼。

 それらは全て、璃々花がいた世界にも、ゲームなどの中で見たことがある。



「フィリアは元々から、ティラエル家を継ぐためにも、魔法の鍛錬として冒険者になるつもりだったんだ。それで、せっかく出来た歳の近い友達が居ることだし、一緒にと思ったんだがーーー」


「やりますっ!やりたいですっ、フィリアさんと一緒にっ!!!」



 サリアの言葉を遮って璃々花はバッと手を勢いよくあげる。自分でも思ってもいない声量が出てビックリしたが、自分よりもサリアとフィリアの方がビックリしている。



「いや、だが君は、魔法が使えないじゃないか。ギルドに来る依頼たちは魔法が使える人、もしくは力がある人を前提にして出してある。そんなギルドに魔法が使えない君が入たとしても……」



 それもそうだ。魔法が使える人を前提にして出される依頼を、なんの力も持たない自分がやりたいと立候補した所で、拒否されるだけだ。



「……もしかしたら、大丈夫かも知れませんわ。ただ、"かも"ですが。」



 璃々花のことを案じて却下するサリアとは対照的に、フィリアは一つ思うところがあるのか手を上げる。



「昨日の事件の時、リリカさんが私の静止を聞かずにチビドラの所に駆け出したのは覚えてますか?」


「はい。しっかりと覚えてます。」


「あの時のリリカさんは、有り得ないほどの速さで走っていました。恐らく、全魔力を身体能力強化に使った私や、武術を鍛え身体能力の上がった武術家たちと同等ぐらいでしたわ。」


「ーーえ?私、そんなに速かったんですか?」



 璃々花はあまり運動が得意では無かった方で、運動会などでも出た種目はビリから三位以内。殆どを観客席から見ていた程だ。

 そんな自分とは思えない程に速く走れていた気は確かにしていたが、そこまでとは思っていなかった。



「それに、木材の破片でチビドラの腹部を思いっきり殴った結果、その衝撃でチビドラが元に戻った訳ですし。…あれ、結構効いてたと思いますわよ。」



 璃々花の頭の中に昨日の光景が映し出される。

 あの時は「もしや」と、閃きによって暴れている原因が分かり、それを解決する方法として選んだものだ。



「私、トーラちゃんに酷いことしなぁ…今度謝りに行かなくちゃ…」



 効くとは思っていなかった上に、結果としては正しかったから良かったものの、腹を全力で殴るなど暴力以外のなんでもない。

 自分のやったことがかなり酷いことに今更気がつく。



「確かにちゃんとあの時に、リリカさんからは花紋が見えましたわ。ただ、珍しい色をしていたので、今の今まで見間違いかもと思っていたのですが…」


「ふむふむ………なるほど。うむ、ではリリカくん。一発全力で僕に向かって殴りかかってくれ。」






「……え?」






 この人は一体突然何を言い出すのか。

 言葉は理解したが意味を理解できないでいると、サリアは己の魔力を放出する。

 みるみるうちに魔力はサリアを囲うように集まると、ドーム状に壁のようなものが出来あがった。



「これは魔壁層。魔力を何枚の板にして層を作って壁にしているんだ。魔術師っていうのは基本魔法の打ち合いだからね。こうやって防がないと、痛みの我慢大会になるのさ。だから、相手の魔法を防ぐために、魔術師がよく使う魔法なんだ。」


「そんな便利な魔法があるんですね……。」



 璃々花はコンコンと軽く壁を叩く。叩いてみた感じ、まるで石壁を叩いているかのように硬い。



「うぅ、でもこれ私の手が痛くなりそう……」


「大丈夫。魔力というのは有るようで無いもの。攻撃性を持つ壁もあるが、今は特に守ることを特化させてある。いくら殴っても大して痛くはならないはずだ。」


「攻撃する防御とかあるんですね……魔法って奥が深いです……。」



 魔法にも多彩な種類があることを実感しつつも、痛みはしないと聞いて璃々花は少し安心する。

 サリアは自分の力を試そうとしているのだろうが、幾らドラゴンに効いたとしても、大した力はでないとは思う。



「それじゃあ、いきますね。」



 璃々花は一歩その場から飛び跳ねるように後退すると、右足だけを地面に接着させる。



「すぅー……」



 軽くお腹の底に息を吹き込み、全身に力を入れる。

 すると、身体の隅から隅へと力が回り花の証が現れる。

 そして、上げていた左足を叩きつけるように地面に踏み込んだ。



「ーーーやぁぁああっ!!!」



 地面に踏み込んだ力が、身体中を巡りその力を右手に集中させ勢いよく前へと突き出す。





 ーーーピシッ。






「…ん?」






 サリアにとって何か嫌な音が耳に入ってくる。しかし、気づくのが少し遅かった。



「おっと、これはまずっーーーーーー」



 何かを言いかけたサリアは、その言葉と共に遥か後方へと吹き飛ばされる。

 壁が壊れた衝撃、では無く。跡形もなく破壊された壁を越え、璃々花のパンチが見事サリアのお腹へと直撃したためだ。



「さ、サリアさーーーんっ!!!!??」



 やってしまったと、璃々花は目の前の状況を飲み込み悲鳴をあげる。



「お父様の魔壁層を破壊するだけじゃなく、それを超えるとは………やはり、リリカさんは武術の素質があるのでしょう。」


「いやいやいや、そんな呑気なこと言ってる場合じゃないですよっ!!」



 実の父親が吹き飛ばされたというのに、フィリアは至って真面目に璃々花の力を考察する。

 先程もそうだが、フィリアはサリアに対して何故か当たりが強いように感じる。



「いやぁ、流石だね……これ程とは…ケホッ。」



 吹き飛ばされ壁に埋まっていたサリアが砂埃の中から声を上げる。



「わわわっ、すみませんサリアさん〜っ!今

すぐ起こします!」


「ははは……ありがとう。この年でぎっくり腰どころか全身複雑骨折なんてシャレにならないぞ私……」



 至極真面目そうに自分の体を労りながらサリアは璃々花に引っ張られ瓦礫の中から救出される。



「それと、リリカくん。自分の姿を見て、何か思うところはないかな?」


「え?思うところって言っても……!」



 サリアに言われるままに身体を見ると、そこにはフィリアに咲いていたように、璃々花にもまた花紋が現れていた。

 フィリアの右手とは違い、璃々花の場合は胸の真ん中に咲いていた。

 咲いていた、と言うよりは。



「透明…《無色の空》とはまた珍しい色だーーーん?」



 璃々花に咲いた花紋の花弁を調べようとしていたサリアの目に映ったのは、これまたフィリアとは違い、その花を咲かせることなくつぼみの状態の花紋だった。



「これって、つぼみですか?もしかして、失敗したとか………?」


「いいや、大丈夫。つぼみの状態というのは、まだ進化する余地が残されているという証。それに、この世界に来たばっかり、それも君に魔力がないのなら、この状態でも頷ける。」


「もしかしたら、魔力がない理由も、まだつぼみの状態、しかも珍しい無色の理由も、リリカさんは何か特別な力を持ってる可能性がなのかも知れませんわね。」



 つぼみ。それは花が未だに姿を表さない、幼体のようなもの。

 これからが楽しみと言わんばかりに、サリアはうんうんと頷く。



「まぁ…今ので分かった通り、やはり君は魔法ではなく身体能力が群を抜いて高いみたいだ。確かに、これだけの強さがあるのなら冒険者としても何とかやってはいけるだろう。」


「!本当ですか?」


「うむ……あまりオススメはしないがね。君はの世界に来たばっかりだ。戦いなんてものもした事がないだろう。右も左も分からず、慣れない戦いに身を投じるというのは……大人としても、君を預かっている者としても、とても喜ばしいことでは無いからね。」



 サリアは服に付いた砂埃を軽くはらいながら、璃々花へ自分の考えを語る。

 サリアの言い分ももっともだろう。彼が心配している事はその全てが当てはまっている。



「…サリアさんの言う通り、私はケンカとかそんなことしたことがありません。運動だってすごく苦手だったし。この世界の事も全く知りません。でもーーーでもっ!!!」



 璃々花は思い出していた。昨日起こった事件やフィリアと共に過ごした短く充実した夜のことを。それらは璃々花が元いた世界では体験したことのない、とても得難い日常だった。



「だからこそ、私は冒険者になってみたいんです!色んな依頼を受けて、色んな人と出会って、色んな世界を見て、もっともーっと、この世界のことを知りたいんですっ!!」



 正直に言えばトーラが暴れていた時、あの時は何も分からない所に急に移動させられ、死ぬような思いをして、とても怖かった。生まれて初めて、身近に大怪我をするようなものが存在するのだと、やっと実感した。

 それでも、とても怖かったその思いの中に、ほんの少しだけ、雀の涙ほどだが、とてもワクワクした『楽しさ』があった。

 知らない何かを知る。それは人であるなら皆が持つ、楽しみの一つなのだ。



「それに、怖い思いは沢山すると思います。昨日も怖かったですし。でも、あの事件に巻き込まれなかったら、私はトーラちゃんやラクさん、ラカンさん。そして、フィリアさんとサリアさん、アルティナさんにも出会えなかったっ!」


「!」


「怖い思いもする。辛い気持ちにもなる。でも、それだけ沢山の人に出会えるって思うと、私、すっっっごく!ワクワクするんですっ!!」



 自分の思いを弾け出す璃々花の目は、とてもキラキラしていてまるで将来の夢を語る子供のように、真っ直ぐで熱い気持ちが思っていた。



「……フ。」



 その目を見ていると何故か心配事が消えていくように感じる。

 この子なら何も心配する必要も無い。何があっても、自分で乗り越えていける。そうサリアこ心が感じ取った。



「君は、強いんだな。」



 その目に負けたサリアは、むしろ清々しい気持ちでやれやれと首を横に振る。



「分かった。認めよう。ギルドには私かは推薦状を二人分出しておこう。」


「……!!サリアさん!ありがとうございますっ!!」


「ただ、一つ聞きたいことがある。リリカくんはフィリアと一緒に冒険者をやっていくのかい?」


「はい…さっきはあんなこと言いましたけど、私何も知らないので……フィリアさんと一緒がいいなぁって思うんですけど……」


「っ……いえ、私は構いませんわ。一人でやるよりも、リリカさんがいた方が楽しいでしょうし。…ですが、やっぱり……私は賛成できません。」


 ねだるようにチラッと視線を向けられたフィリアは最初こそ嬉しそうに微笑むが、リリカのことを考え徐々に表情を曇らせる。


「ダメ、ですか……?」


「………ダメじゃないんです。ただ、心配しているのですわ。冒険者になれば、苦しいことなんてそれこそ沢山あるはず。そんな所に、リリカさんを連れていくなんて………」



 悲しそうな目で見てくる璃々花を見て、フィリアの心が申し訳なさで苛まれる。



「フィリアさん………」


「っ、あ、うっ……………!」



 しかもこの目だ。まるで縋るように涙を瞳に貯めてみるこの目が、フィリアの心を撃ち抜く。

 共に冒険者として依頼をこなせたらどれだけ楽しいものか。

 そんな楽しみと、危険が付きまとう冒険者に連れていくことの心配。この2つが、フィリアの中でぶつかり合う。



「………………………………、しょうが、ないですわね…。」



「ーーーーっ!!!!フィリアさんっ!!!」



 長考した結果、璃々花の望みに押し負けたフィリアは、渋々ながらに認めてしまう。

 何よりもあの目がとてもズルい。



「へぇ。あのフィリアが押し負けるなんてね。余程、リリカくんを気に入ってるんだねぇ。」


「一度その口を閉じてもらえますか、お父様……!」



 顔を赤く染めたフィリアが、実の父親にしないような目付きで睨む。

 だが、璃々花はそんなことに気づかないほどに喜んでいた。



「よし!そうと決まれば、とりあえず一通りの事は教えないとな。ギルドに入るのならば、例え使えなくとも魔法や戦い方を知らなければな!」


「お父様…上手いこと逃げましたわね…。」



 フィリアを華麗にスルーし、サリアは意気揚々と手を打つ。



「あっ。それなら私、教えて欲しいことがあるんですけど。」


「ん?何かな?僕たちに分かることならなんでも答えよう。」



 魔法に詳しいサリアならば、分かることだろう。











「ーー"スキル"って何ですか?」












 女神から与えてもらった、いらない能力のことを。

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