安和の作品
『ダンピールは人間じゃない。れっきとした<別の種族>なんだ』
これは、動かしようもない厳然たる事実。その事実から目を背けてダンピールが人間として生きようとしても、当然、上手くいかない。
僕達吸血鬼は、それをもう理解してる。人間の法律や社会の仕組みに合わせようとしても、無理なんだ。場合によっては数千年を生きることもある吸血鬼が、人間のタイムスケジュールを基に作り上げられた社会にそのまま適応できるはずがない。
人間にとっての一年は、吸血鬼にとっては一ヶ月程度だからね。僕だって、アオの祖父母よりも年齢は上だけど、外見上はようやく十一歳くらいだし、
人間の学校に通ってたら、どうしたって誤魔化せない。
だからこうして、学校には通わず、一年の半分を海外を転々として過ごすんだ。身分はその都度新たに作って。
人間の法律やルールや社会の仕組みには完全には合わせられない。人間が僕達吸血鬼やダンピールの存在を認め、それに即した法律やルールや社会の仕組みを作り上げない限りね。
その一方で、僕達吸血鬼の大部分と、悠里と安和は、人間を積極的に害そうとは思わない。だから、人間の法律やルールや社会の仕組みには合わせられなくても、合わせられないなりに、穏当な対処は心掛ける。
『人間こそが吸血鬼に従え!』
とは言わない。
そんなことをしても人間は従ってくれないし、不毛な衝突が起こるだけなのは分かっているから。
それを、悠里と安和にも実際に示すんだ。
『こうすればいいんだよ』
とね。
人間達と同じように、ドゥオーモ(ミラノ大聖堂)の中を見て回る。人間達の途轍もない<情熱>に触れていく。
すると、安和は気付いたように言った。
「そっか、こうやって自分が経験したことを、書けばいいのか……」
そんな彼女に、僕も応える。
「そうだね。他の人間達の作品を<模倣>することで<作品の作り方>を学びつつ、同時に、自身の作品の内容は、自分自身が経験したことを落とし込んでいけば、それは<他の創作者の模倣>じゃなくなるからね。こうして安和自身が経験したことは、安和だけのものだ。安和がここで見て、感じて、記憶に焼き付けたものを描写すれば、<模倣>にはなりえない。それこそが、<安和の作品>になると僕は思う」
その僕の言葉に、悠里も呟いた。
「そっか、だから、アニメとかのクリエイターには、『たくさんの経験を積むことが大事』って言うのがいるんだ……」
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