じっくりと考えることもできる
『とてもダンピールとは思えねえ!』
受付の男性がそう口にしたのも、当然だろうな。吸血鬼を激しく憎んでいるダンピールは、嫌悪感や敵愾心を隠そうともしないからね。自分がダンピールであることを悟られて攻撃を受けることも厭わない。むしろ、そうやって吸血鬼をおびき寄せようともしてるくらいだから。
けれど、ダンピールの吸血鬼への激しい憎悪は、所詮、過酷な境遇からくる後天的なものであることが、
長らく信じられていたものがただの迷信に過ぎなかったことを喜ぶ吸血鬼も多い。これによって、自身が実はダンピールであったことをカミングアウトする吸血鬼も何人も現れたそうだ。
「いやあ、実は、俺の百年来のダチもよ、実は自分がダンピールだったことを打ち明けてくれたんだ。そりゃ、最初は驚いたさ。だが、百年も付き合ってきて気付かなかったくらいだ。ダンピールは確かに吸血鬼と変わらねえ」
受付の男性のその言葉に、セルゲイも表情が和らいだ。悠里と安和の事例が良い形に動いてることを実感できたからだろう。だけど、
「でも、受け入れられない奴には受け入れられないみたいだけどな……」
男性は険しい表情になって、そう付け加えた。その上で、
「俺とは違って、古い付き合いがあった相手がダンピールだとカミングアウトした後、姿を消した吸血鬼もいる。関係が壊れたと思ったんだろうな」
とも。
「そうか……予測はしていたが、やはりそういう事例も出るか……」
セルゲイからも、笑みが消えていた。そして……
「おっと、お前さん達がそんな表情する必要はねえ」
男性が言ったとおり、悠里と安和が悲しそうな表情をしていた。自分達のことで不幸になった者がいたことにショックを受けているんだろう。それに対して、男性は、
「それまで信じられていたものが覆る時には、必ず、それを受け入れられない奴が出てくるもんだ。そういうものなんだよ。お前さん達には何の責任もない。悲しむ必要もない。これは、正しくねえ考えに囚われてきた俺達大人の側の問題なんだ。だから俺達大人自身が解決しなきゃいけねえんだ」
まっすぐに悠里と安和を見つめて丁寧に話す男性に、二人も少しだけホッとした様子だった。
受付の男性の言うとおり、自分が信じてきたことが正しくないものであったとしても『正しくない』と認めるのを拒む者もいる。それは、人間も吸血鬼も変わらない。
ただ僕達吸血鬼には時間的な余裕があるから、じっくりと考えることもできるというだけなんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます