当事者の一人
思わぬ形で<ダンピール問題>に触れることになって、
だけど、そういうことがあるのは最初から分かっていたことなんだ。それ以前に、この世というものは、自分にとっては好ましくないことの方が圧倒的に多い。
事実、吸血鬼にとって人間の存在そのものが好ましくないからね。
でも、『自分にとって好ましくない』からといって安易に排除することはできない。その現実を受け止められない者が、問題を起こす。問題をさらに大きくする。
僕はそれを望まない。悠里や安和がそうなってしまうことを望まない。
部屋に入って寛ぎながら、アオとのビデオ通話を繋ぐ。ちょうど起きてきたところだった彼女に、起こったことを正直に告げると、
「そっか…そんなことがあったんだ……だけど、悠里と安和が気にする必要はないよ。だって、悠里と安和を勝手にこの世に送り出したのは、私とパパだからね。私とパパには責任があるけど、悠里と安和にはそんなのないよ」
と言ってくれた。だけど、悠里と安和は、
「でも、それでお母さんとお父さんが責められたりするのも嫌だな」
「そうだよ。ママやパパが悪いわけじゃないじゃん。ダンピールに恨まれるようなことをした本人が悪いんだし、そうやって自分の恨みを関係ない相手にまでまき散らす方が悪いんじゃん」
と言ってくれる。本当に優しい子達だな。しかも、優しいだけじゃなくて、
「それで言ったら、エンディミオン小父さんも、自分の恨みを関係ない相手にまでぶつけてたくさんの吸血鬼や人間を傷付けてきたけど、それが正しくないことだって分かったから今は抑えられてるんでしょ?」
「そうだよそうだよ。エンディミオン小父さんができるんなら、他のダンピールだってできて当然じゃん。それをやらない方が悪い!」
とも。二人も、幼いなりにいろいろと考えてくれているんだ。考えているからこそ、ショックを受けてしまう。
「そうだね。二人の言うとおりだ。だからこそ、事実を受け止められなくて姿を隠したりするのは、その吸血鬼自身の問題なんだ。悠里や安和が気にする必要はないんだよ」
セルゲイがそう諭してくれる。二人に必要な言葉を掛けてくれる。
悠里や安和が生まれることになった経緯には、セルゲイも関与してる。だからこそ彼は、
『生まれたら後は知らない』
とは言わないんだ。この結果をもたらすきっかけになった当事者の一人として、しっかりとその後も推移を見守り、フォローしてくれる。
そういう彼だからこそ、安和も惹かれたんだろうな。
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