集団登校のための待ち合わせ中に突然嘔吐してしまった子の母親は、夫以外の男性を家に招き入れるために、早々に帰りたかったらしい。

僕は、母親が夫以外の男性を家に招き入れるところも、何度か目撃したことがある。

男性の方は、作業服を着て何らかの作業のために訪れた風を装っていたけど、僕には、二人が性的に興奮している人間が出す匂いを強烈に放っているのが分かってしまう。

しかもその後、女性の嬌声まで聞こえてきたよ。

椿や、恵莉花（えりか）や、秋生（あきお）の登校を見守るために通る道に面した家だから、聞こうとしなくても聞こえてしまうって形でね。

だけど僕は、その家庭に対しては干渉しない。フードファイターを目指しカナダの大学に通う美千穂が誘拐された時のように、命にも関わるような状況であれば手を出すこともあっても、そこまでじゃないなら、たとえ家庭が崩壊するような事態だとしても手出しはしない。

それはあくまで、当人の問題だから。

加えて、世の中には、互いに不貞を働いていてもお互いに関知しないという形を取っている夫婦もいたりするからね。余所の家庭の機微については、僕には分からない。

でも、この時、自分の子供が明らかに体調が悪く嘔吐までしたのに、『約束があるから』と病院にさえ連れて行こうとしない母親には、僕も内心では呆れていた。

しかも、体調悪そうな様子に気付いて声を掛けた椿に怒声を浴びせたことは、許し難い。

ただ、それでも、近くで見守り活動をしていて異変を察し駆け付けてくれた＜地域見守り隊＞の女性がその場を仕切ってくれたことで、僕はそちらは任せて、

「大丈夫？　椿」

気配を消したまま、椿にだけ聞こえるように声を掛けた。すると椿も心得たもので、

「うん、大丈夫だよ。お父さん」

僕にだけ聞こえる小さな声で応えてくれたんだ。

こうやって、世の中には、自分が何もしてなくても嫌な思いをすることはある。だから僕は、僕の傍にいる時には安心してもらいたいんだ。心穏やかでいてほしいんだ。

そうでないと心のバランスを保つのは難しいと思う。事実、他人を攻撃することで安定を保とうとする人は多いよね。

この母親も、夫じゃない男性と悦楽を得てもまだ足りないのか、すごく攻撃的だし。

そんな中、椿（つばき）を含めた他の子供達は、出発の時間が来たことで学校に向かった。僕はもちろん、椿を見守るために電柱の上や、ビルの屋上を移動して、学校に到着するまでを見届ける。

それから、さすがに気になったから集合場所に戻ると、救急車が到着して、吐いた子は収容されていた。

しかも、子供の救急ということもあって警察も来てた。今は、消防と警察が連携して、子供の救急要請があると消防から警察に連絡がいって、警官が立ち会うことになっているそうだ。

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。（ログインが必要です）

新規登録で充実の読書を

マイページ: 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる; 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める; フォローしたユーザーの活動を追える
通知: 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴: 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい