密猟者

「僕は、チームのリーダーに、『ヒグマがこちらの様子を窺っているようだ。注意を怠らないでほしい』と告げると、彼は、『承知した』と応えてくれた。油断しない、自然を侮らない、優秀な人物だった。だから僕は、彼のチームに同行することを承諾した。無謀な人間のお守りは大変だからね。


こうして、ヒグマにも警戒しつつ、密猟者を探した。


そして二日目。僕達はついに密猟者を発見した。けれど、それは銃声の後だった。僕達が駆け付けた時には、すでに母熊が撃たれていた。母熊は子を二頭連れていて、子熊達は捕らえられ、檻に入れられていた。たぶん、子熊を餌でおびき出して檻に閉じ込めた後、それを助けようとした母熊を撃ったんだろう。


密猟者達は、その場で母熊の解体を始めようとした。<熊の手>や<熊肝>という形で、それぞれの部位が別々に売れるから、解体した方が運搬も楽になるんだ。


残酷なように思えるかもしれないけど、ヒグマの狩猟そのものは、許可制という形で認められている。その許可を得ず、不法に狩猟を行うことが禁じられているんだ。そうしないと、絶滅するまで狩り尽くすことになるからね。事実、そういう形で、ヒグマが絶滅した地域もある。ヒグマに限らず、人間はこれまで、数多くの種を同じようにして絶滅に追い込んだ。


一人一人の人間はとても非力だけれど、武器や道具を手に集まれば、地球上で人間に敵う生き物はほとんどいない。それこそ、一部のウイルスや昆虫や僕達吸血鬼くらいだろう。


ヒグマがどれほど危険な動物であっても、集団としての人間に比べれば非力なものなんだよ。銃や爆弾ではなく、弓矢しか持たなかった人間でさえ、いくつもの動物を絶滅に追い込んだくらいだからね。


そんな人間が『危険だからあらかじめ駆除しよう』と考えれば、この地球上の多くの生き物が絶滅に追い込まれるのは明らかだ。人間がそれを本気で実行するとなれば、僕達吸血鬼も、危険な人間を駆除しなければならなくなるだろうね。


だから、生きるために命をいただくことはあっても、限度を超えた殺戮となる密漁を認めることはできない。


僕達のチームも、密猟者達を取り押さえるために動いた。


だけど、その時、密猟者達を襲った者がいた。


ヒグマだった。僕達のチームをつけ狙っていたヒグマが、密猟者達に狙いを変えたんだ。僕はそれに気付いていたから、『人間の味を覚えたヒグマがそちらに向かってる! 早く投降してこちらに来るんだ!』と警告したんだけど、密猟者達は、『そんなので騙されるとでも思ってんのか!?』と嘲いながら銃を撃ってきたよ」


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