Большо́й Моско́вский госуда́рственный цирк

明け方、セルゲイと悠里ユーリが戻ってきて、僕達は食事にして、部屋で寛ぎ、それから睡眠をとった。


さすがに吸血鬼の互助組織が運営するホテルだけあって、元々、完全に日光を遮断できる造りになっていて実に快適だ。


そのせいか、いつもよりぐっすりと眠れて、昼過ぎまで眠ってしまった。本当なら三時間も眠れば十分なのに。


「はあ~、すごいね」


悠里が感心したように吐息を漏らす。


「マジで夢も見ないで寝た気がする」


安和も驚いていた。


「そうだね」


セルゲイが優しく微笑むと、


「セルゲイ~♡」


安和は嬉しそうに抱きついていく。


「今日は、<ボリショイ・モスクワ国立サーカス>に行こう。ちょうど、熊のサーカスが上演中なんだ」


「いくいく~っ♡」


セルゲイと安和のそのやり取りで、今日は、<Большо́й Моско́вский госуда́рственный цирк>、ボリショイ・モスクワ国立サーカスに行くことになった。


元々、モスクワの滞在中に行く予定にはしてたんだけどね。


これといって厳密に決められたスケジュールはないから、その時の思い付きが優先される。


しかも、今回は、セルゲイ自身、ボリショイ・モスクワ国立サーカスに行きたい理由があったそうだ。


こうして僕達は、<雀が丘Воробьёвы го́ры>へとやってきた。


「お~! おっきい!」


雀が丘Воробьёвы го́ры>にあるボリショイ・モスクワ国立サーカスの建物を見た安和が声を上げる。確かに、日本では<サーカス>と言うと臨時の大きなテントを立てて行うものというイメージがあるけど、ボリショイ・モスクワ国立サーカスは専用の建物があるんだ。


サーカスのテントをイメージしたデザインではあるけど、ビルなどと同じ鉄筋とコンクリートで作られた建造物ではある。


それでいて、中に入るとまさしく<サーカス>の雰囲気があった。


そして今日の演目は、動物達がメインのそれだった。


「わ~♡」


次々と現れる動物達が見せる演技に、安和も頬がほころぶ。その中でも、熊による大きなリングを自在に操ってのパフォーマンスには観客からの惜しみない拍手が寄せられる。


「なんか、人間が入ってんじゃないの? ってくらいに完璧だよね…!」


悠里ユーリも感心しきりだった。


すると、セルゲイが、ある一頭の熊を見て、


「アナスタシア……元気そうで良かった……」


安和に向けるそれと変わらない優しい笑顔を浮かべる。その、<アナスタシア>という熊が、セルゲイの目的だったらしい。


「<アナスタシア>はね。密猟者に親を殺されて違法に輸出されそうになっていたところを、僕と仲間で救い出したんだ……」


静かにそう語りだしたのだった。


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