ルドルフ
ただ、地下鉄の駅はすごく手が込んだ豪奢な作りだったけど、地下鉄の車両そのものは、ごくごく一般的なそれだった。
「そりゃまあそうか」
『駅が豪華だったから車両も』と少し思ってしまってた
「あはは…」
日本のように電車に乗ってる間に熟睡できるほど油断はできないけど、だからといって、日常的になにか大変な事件が起こるわけでもなく、僕達は目的の駅に到着した。ここでも、普通に人間達は暮らしてて人生を送ってる。それは、どこでも変わらない。
人間は、どこでも<人間>なんだ。
そうして地上に出てしばらく歩くと、少しくたびれた印象のある、よく言えば『歴史を感じさせる』建物が見えてきた。
「あれが、ここでの宿だ」
セルゲイの言葉に、
「コロンビアの時とかみたいなのはカンベン…!」
安和がしみじみ口にする。
「確かにね。さすがに僕もあれはないって思った」
「大丈夫。見た目だけだよ。中はそれなりに綺麗だから」
セルゲイの言葉に、
「だといいんだけど……」
安和は心配げ。
でも、玄関をくぐりロビーに入ると、
「あ、よかった。まともそう」
ホッとした様子。
すると、
「やあ、セルゲイ。久しぶりだね」
セルゲイに似た感じの長身の男性が声を掛けてきた。ホテルの受付係だ。と言っても、一応はホテルとしても機能しているというだけで、先にも言ったとおり、ここはあくまで吸血鬼の互助組織の事務所が本来の役目だ。だから、何度も利用しているセルゲイはそれこそ顔馴染みだった。
「やあ、ルドルフ。元気だったかい? またここの勤務になったんだ?」
「ああ、去年からだ。今回、君が来ると聞いて楽しみにしていたよ」
「そうか。僕も会えて嬉しいよ」
安和を抱いたまま右手を差し出し、がっちりと握手を交わした。するとルドルフは次に僕を見て、
「ミハイルか? 大きくなったな。と言っても、覚えてないかもしれないが。君がまだ赤ん坊の時以来だからね」
笑顔を浮かべる。
「はい。よろしくお願いします」
言われたとおり、僕は彼のことを覚えていなかった。けれど、不思議と懐かしさも感じる。はっきりとした記憶としては思い出せなくても、吸血鬼としての感覚は覚えているんだろうな。
それから彼は、安和と悠里を見て、
「君達がそうか。なるほど、希望そのものを形にしたかのようだ。素晴らしい!」
彼も、安和と悠里が<ダンピール>であることは知っている。しかも、セルゲイの研究に協力してくれた一人だそうだ。
いわば、安和と悠里が生まれてこれるきっかけを作ってくれた吸血鬼なんだ。
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