二〇二号室

ルドルフは、セルゲイの研究に共感し、協力してくれた者達の一人だった。


「まあ、いろいろ募る話もあるが、まずは部屋に案内しよう」


そう言って僕達を案内してくれた。


「二〇二号室。ここが、君達の部屋だ」


ドアを開けたそこには、なるほどさっぱりとした清潔な部屋があった。特別華美でもないけれど、だからといって貧相でもない。実に堅実な印象を受ける。


「ん、まあまあね。合格」


セルゲイに床に下ろしてもらった安和アンナが一通りチェックして、少し芝居がかった様子で口にした。


「ありがとうございます。姫様」


彼女の言葉に、ルドルフもやや芝居がかった仕草で深く頭を下げる。


「やれやれ……」


悠里ユーリは安和のそれにちょっと呆れ顔だ。彼にはまだ、この手のユーモアは理解できないんだろう。


「当ホテルはWi-Fiのみならず、有線LANも完備しております。こちらは一部屋一部屋それぞれを暗号化し盗聴対策も完備のそれですので、ご安心してお使いいただけます」


ルドルフの言うとおり、吸血鬼の互助組織は、いろいろと対処しないといけないことが多いので、セキュリティについても気を遣ってる。そこが運営するホテルとなれば、当然、そういう部分も対策済みということだね。


「ありがとう。それじゃ、四日間、よろしく頼むよ」


チップを渡しながら、セルゲイが言った。


「どうぞ、お寛ぎくださいませ」


言いつつルドルフが出ていくと、僕達はまず荷物を下ろし、タブレットをWi-Fiに繋いでアオに連絡を取る。


「ミハエルぅ~!」


ビデオ通話が繋がった途端、画面いっぱいにアオの姿が。


「あはは♡ 無事、部屋に到着したよ」


僕も、アオの顔を見られてホッとする。


「ママ、またお土産送るからね」


「僕達はちゃんとやれてるから心配要らないよ」


安和と悠里も僕の両脇に来て、笑顔を向けた。


「うん、もうすっかり慣れたみたいだね。なんか、成長を感じるよ」


二人の様子に、アオも安心した表情になった。


「だけど、逆にちょっと寂しいかな。なんだかんだでちょっと前まで赤ちゃんだったのにな。子供ってすぐ成長しちゃう」


とも言いつつね。


「あはは、見た目はこんなだけどね!」


安和がポーズを付けながら応えた。


確かに。外見は三歳くらいなのも事実だ。でも、アオの言うとおり、安和も悠里も間違いなく成長してきてる。僕もそれを、『父親として』実感してる。


重要なのは<外見>じゃない。本人がどれだけのことを自覚できてるかだと、自分が親になったからこそ思う。


僕ももう、年齢だけで言ったら人間なら<後期高齢者>だ。吸血鬼として見ればまだ<子供>の範疇だっていうだけでね。


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