墓参
「これが、お祖母ちゃんと、宗十郎のお墓……?」
タイガの奥地。短い夏の間に競うように伸びた下草が覆うそこを見ながら、
「そうだね。人間に荒らされたりすると困るから、<お墓らしいお墓>にはしなかったけど」
僕がそう応えたように、吸血鬼である僕達には、<匂い>や<気配>でそこに誰かが埋葬されていることが分かってしまう。特に吸血鬼は、<寿命>を迎えて肉体的には人間と変わらなくなってしまっても、死んだ後にも、やはり独特の<気配>を発しているんだ。
それが何であるかはまだ解明されていないけど、そこは特に問題じゃない。
「僕も初めて参ったけど、マルーシャは幸せだったようだね」
安和の後に立ったセルゲイが穏やかな表情でつぶやく。
<マルーシャ>は、母の名前の一つで、生まれた時に付けられたものらしい。ちなみに、<エカチェリーナ>と名乗ってた時期もあったとのこと。ただこれは、有名な<エカチェリーナ二世>と同じになってしまったことで名乗らなくなったとも聞いたことがある。
さらに、セルゲイの隣では、
僕達は、また半年間の世界探訪の旅に出て、その途中に、母と宗十郎の墓参に立ち寄ったということだ。
今はちょうど夏なので、シベリアのタイガと言っても過ごしやすい気候ではある。
母と宗十郎の墓を参った後で僕達が住んでいた<家>にも立ち寄ったけど、誰も住まなくなったそれは完全に朽ち果てていた。多分、雪の重みで倒壊したんだろう。
加えて、誰か人間が見付けて持ち去ったのか、残していった調度品のいくつかが見当たらなくなっていた。
「やれやれ、浅ましいことで……」
安和が呆れたように肩を竦めた。
それでも一応、アオと椿への<土産話>にするために、スマホで写真を撮っておく。
タイガの自然の景色も含めてね。
その時、
ターン!
と遠くで音がした。銃声だ。おそらく一般的な猟銃の。誰かがトナカイを狩っているのかもしれない。
僕が住んでいた頃にはまったく他の人間の気配はなかったのに、こんなところにまで。
もしかすると、<温暖化>で足を踏み入れやすくなったのかもね。
「あまり長居をすると面倒なことにもなりそうだ。名残惜しいけど、早々に立ち去ろう」
セルゲイの提案に従い、
「はあ……まったく、人間様には敵わないってか」
ちょっと不満げな安和も彼に抱かれるとおとなしく連れられて、僕達はその場を後にした。
僕達には時間があるからね。また機会もあるだろう。
こうして僕達は、次の目的地、
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