恵莉花の日常 その20
『それはダメだ!』
とは言わなかった。
その辺りについてはアオが散々、復讐について語って聞かせてくれたことと、エンディミオンの性格を考えれば頭ごなしに否定したところでかえって意固地になることは容易に想像できたから言わないようにしていたというのもある。
虐げられてきた者にとっては、被害者にとっては、
『復讐したい!』
と思ってしまうのは当然の感情だということは、恵莉花にも分かる。エンディミオンの境遇をミハエルから聞かされた時には、
「そんなの、復讐して当然じゃん!」
と言ってしまったことさえある。だから実際に苦しめられた者にとっては自然な感情なのだとも実感していた。
けれど、それでも、復讐が実行されれば多くの場合、まったく無関係な人間が巻き添えになる危険性が高いことも、エンディミオンの事例で思い知らされている。
だからこそ、実行されるべきではないことも痛感している。
その一方で、『泣き寝入りは嫌だ!!』と思ってしまうのも当然の反応。
だとしたら、その気持ちを受け止めることで少しでも気持ちを和らげる手伝いをしたい。
ただ単に、
『復讐は犯罪だから許されない!』
ではなくて、苦痛を和らげることで、気持ちが楽になるように力になりたかった。
ただただ泣き寝入りしているだけにならないように心を配りたかった。
無論、世界中の全ての<復讐を願う者>を同じように思いとどまらせることはできなくても、少なくとも自分の親しい者が、無関係な者を巻き添えにして、
『復讐する側から復讐される側になる』
ことは回避したかった。ただでさえ傷付いているのに、そこにさらに<負い目>を背負い込むようなことはしてほしくなったから、できる範囲のことはしたい。
本来なら千華の親がするべきことではあるものの、一方的に頼られるだけだったら無理なものの、恵莉花自身、千華の存在によって救われている部分があるのは事実だから、彼女にも救われてほしい。
単純にそう思う。
自分が両親やアオやミハエルからしてもらってることの、十分の一でも百分の一でもいいからできればと思うのだ。
こうやって親がやらなかったことを他人が負担する形で、それで<最悪の事態>が回避されている。
『家庭環境が悪くても、全員が全員、犯罪者になるわけじゃない』
というのは、結局、<親以外の誰か>のおかげで何とかなっているだけというのが実情だと思われる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます