恵莉花の日常 その14

時間の経過と共にどうにか現実と折り合いを付けられるようになっていった千華ちかは、それに伴って周囲への反発も再び見せるようになっていった。


とは言え、それは、他人に対しては以前ほど苛烈なものではなく、教師の言うことには素直には従わないものの、罵詈雑言を浴びせたりというほどではなくなってもいた。


彼女の反発は両親に対して強く向けられ、特に実の母親に対しては、


「お前のコーディネートとか着れるか!!」


と宣言。母親が推奨する組み合わせや着方を無視。徹底的にだらしなく着崩して、母親の作った服を貶めるようにした。


母親はそれに対して顔を合わせる度に叱責したものの千華は応じず、そして遂に怒りが頂点に達した母親は、千華の小学校卒業直前、家にあった服を全て処分してしまうという暴挙に出た。


すると千華は、母親の行為について自ら児童相談所に通告。さすがに、


『着る服が一着もないのは異常』


『子供が自分の提唱するコーディネートに従わないという理由で服を与えないのは、親の監督権、懲戒権の濫用である』


と判断されて行政が介入する事態へと至った。


だが、小学校の卒業式には間に合わず、千華は卒業式を欠席。集合写真も撮れずに、クラスの集合写真の右上に丸く囲われた別撮り写真が組み合わされるという形の写真となってしまった。


しかも、中学は制服であり、シッターが取りに行ってくれたので制服だけは着ることができたものの、実は母親は下着や靴下の類さえ全て処分しており、千華は、


『制服の下は体操服。靴下はなし』


という状態で、入学式に参加している。


体操服はともかく靴下を着けていない状態での参加は、普通ならば学校としても認め難いものの、児童相談所を通じて事情が学校側にも告げられていたので、特例として参加が認められたという経緯があった。


さらにその後も、行政による指導に母親が譲歩するまで数週間を要し、その間、千華は、


『体操服を下着代わりに身に着け、靴下は学校が用意したものを履いて』


一日を過ごしたのだった。


ちなみに、家の中にいる時には開き直って全裸である。何しろ、母親は彼女が自分で服を買うこともできないように小遣いすら渡さなかったのだ。


そしてこの頃、同じクラスとなった月城つきしろ恵莉花えりか朔也礼司さくやれいじと出逢い、なぜか互いにシンパシーを感じて意気投合、友人となった。


実は、礼司の境遇もなかなかに波乱万丈なものであったのだが、まあそれについては次の機会に譲るとして、『人間とダンピールの間に生まれた』恵莉花にとっても千華の存在は何かを訴えかけるものであったのかもしれない。


いずれにせよ、こうして恵莉花と千華は友人となったのだった。


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