安和の日常 その1
けれどその外見は、さらさらとしたプラチナブロンドの髪と、それこそイラストのような整った顔立ちが見る者を惹きつけてやまないながら、どう見ても三歳くらいの幼女でしかなかった。
しかも成長が非常に遅いので、今はまだとても学校に通うことはできないし、人間の感覚ではまったく成長しているように見えないことを不審がられても困るため、普段は家族以外に対しては気配を消して存在を悟られないようにしている。
万が一、姿を見られても、
『知人の子供を預かっている』
ということで誤魔化すことになっていた。
それ自体は決して好ましいことではないけれど、今はまだ人間が吸血鬼の存在を受け入れられないことで、当然、ダンピールである自分の存在も受け入れられることはないと承知していていて、それほど気にしていない。
けれどそれもこれも、両親や兄妹や、自分にとって大切な人達が自分の存在を全肯定してくれている実感があればこそのものだった。
その実感がなければ、家族や身近な人間以外の誰か、見ず知らずの他人に求めるしかなかっただろう。
でも、安和にはその必要がまったくなかった。だからインターネット上に自身が気になる品物をレビューするサイトを運営していても、それは自身の承認欲求を満たすためのものではない。
なので、サイトを通しての交流は基本的にただのサービスのようなものだった。
そして、<人間>というものを学ぶための。
けれどその中にいるのは、当然、品行方正な人間ばかりではないことも事実。
何が気に入らないのか滅多やたらと安和を攻撃してくる者もいる。
しかも、他の閲覧者に、
『やめなよ、いったい何がしたいの?』
『ただのジェラシーだよね。ウザい』
とたしなめられると、
『言論封殺! 言いたいことを言えないとかおかしい!』
などと反論し、たまたまその時にニュースなどで大きく取り上げられていた事件を挙げて、
『こんな時にこんなことしてるとか叩かれて当然! 叩かれる原因を作る方が悪い!! 叩かれるのが嫌ならネットすんな!!』
とまで。
<人間という生き物の現実>
を安和に突き付けてくる。
「はあ~…やれやれ……」
それを見て溜め息を吐きながら首を横に振る。
「相変わらず大変そうね」
アオが画面を覗き込みながら声を掛ける。すると安和も、
「あ~、うん。大丈夫だよ、ママ。でもさ、なんか悲しくって……」
苦笑いを浮かべながら応えた。
そんな彼女の表情や口調や目の動きを、アオはよく見ていた。それによって我が子の精神状態を探るために。
そして、『なんか悲しくって』と口にしたのは、自分が攻撃されてることが悲しいのではなくて、誰かを攻撃せずにいられない人がいることが悲しいのだと悟る。
だから、
「そうだね……自分の憤りをきちんと受け止めてくれる人が身近にいないからこうやって見ず知らずの他人を攻撃しなきゃいけなくなるんだもんね……」
と、静かに語りかけたのだった。
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