プロになるって
ミハエルは元々ロシアの出身ではあるものの、吸血鬼として世界を転々とした経験もあり、英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語をはじめとした主要な言語は習熟済みだった。
特に英語は使う機会も多かったので、そこそこスラング的なものまで知っているし、ビジネス用語の類も把握していた。
<契約書>を読み解くことができる程度には。
で、美千穂が受け取った<契約書の草案>の画像を送ってもらい、パソコンの画面でそれを拡大しながら読み込んでいった。
すると、
「うん。これはごくごく普通の契約書だと思う。もちろんいろんな制限は付けられてるけど、明らかに契約者にとって一方的に不利益になるようなことは書かれてない。
とは言え、ミチホ自身がどうしたいのかっていうこととの兼ね合いも含めると、ここに書かれてる内容で納得できるかどうかはミチホ自身の問題だけど」
と、丁寧に説明してくれた。
その上で、ミハエルが契約書に書かれた<制限>について日本語で読み上げていく。
内容は、大まかに言って、
「契約選手は、当団体が認めるフードファイト大会にのみ参加ができる。現時点で参加が認められる大会は、以下―――――」
と、ずらずらと<参加可能な大会>の一覧が並び、さらに、
「なお、以下の大会に参加することは厳に禁ず」
と断った上で、<参加不可能な大会>の一覧が並んだ後で、
「これらの大会の参加の是非については、今後も随時見直しが行われる可能性があるものとする」
とも注釈がつけられていた。
加えて、かいつまんで要約すると、
「契約者はアメリカ合衆国の定める法のみならず、活動を予定している諸外国の現地の法を遵守し、当団体に損害を与えないことを誓うものとする」
旨の注意事項がずらりと並べられている。
それを聞いた美千穂は、
「正直、半分も頭に入ってきませんでした……」
困惑しきりだった。
「プロになるって、ホントに大変なんですね……」
しみじみそう口にする。しかしすぐに、
「でも、大手を振って<プロ>って言えるようになるには必要なことなんですよね。じゃあ、頑張るしかないです……!」
胸の前で両拳を握り締め、力強く応える。
そんな彼女を、ミハエルも、アオも、
正直、まだまだ未熟なところもある彼女だけれど、それはこれから経験を積むことで成長していく部分でもある。
誰も、最初から一人前ではいられない。
それはミハエルもそうだった。とてつもなく大きな器を持っているように見える彼でも、幼い頃からそうだったわけじゃない。
長い人生の中でそうなれただけだ。
だから美千穂のことも見守れるのだった。
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