<完璧王子>と<エリートニート>

安和アンナまでが知っていたことに苦笑いを向けながらも、恵莉花は続けた。


「知ってるってか、悪い意味で有名人だったんだよ。クラスで孤立してるボッチで勉強ばっかりしてて、でも在学中一度も学年一位を取れなくてさ。


しかも一位はいっつも、知的イケメン陽キャメガネっていう、<超人サイボーグ>とか<完璧王子>とか呼ばれてた人でね、その人と比べられてっていう形で有名人だったんだ。


<完璧王子>の方は、『部活はテニス部』『塾には行ってない』に始まって学校では授業は真面目に聞いてるけどそれ以外ではあんまり勉強してるわけじゃなさそうなのにムチャクチャ勉強できて、有名難関国立大学にも上位の成績で合格したって。


だけど、<シュバ>の方は、休憩時間中もずっと勉強して学校が終わったらすぐに有名進学塾に直行っていう感じで。


なのに、そこまでやっても<シュバ>は一度も<完璧王子>に勝てなくて…


大学も<完璧王子>と同じとこ受けたんだけど、補欠でギリ合格って話だったなあ……」


恵莉花えりかはさらに続ける。


「まあ私も話に聞いただけなんだけど、シュバの母親が絵に描いたみたいな<教育ママ>で、『ゲームダメ、テレビダメ、遊んでないで勉強しろ! いい学校行って一流企業に入れば人生バラ色!』みたいに言ってたらしいんだよ。


で、シュバはその通りにしたんだけど結果はさっき言ったとおりで、大学でも授業についていけなくて辞めちゃって、で、今は<自称エリートニート>ってわけ」


すると安和アンナは、


「痛い…痛いよ、これは痛い……」


と眉をしかめた。


椿つばき悠里ユーリ秋生あきおもドン引き状態である。


あきらだけは、


「可哀想に……」


と同情的だったけれど。


さらに恵莉花は、


「で、シュバの家庭で闇が深いのは、こいつの兄貴もまったく同じ形でニートしてんの。兄弟揃ってニートなんだよ。


母親が、兄貴の時の失敗で何も学んでなくて、弟でも同じ失敗したんだ。


救われねーよな」


と、肩を竦め頭を振りながらこぼした。


するとアオが、


「私は、同じ親の立場として、親が罪深いと感じる……」


痛々しそうに顔をしかめながら呟いた。


そこに秋生も、


「確かに。親の所為にしてばかりで開き直ってるこいつを見てるとすごくムカついてくるけど、母親が言ってたっていう、『ゲームダメ、テレビダメ、遊んでないで勉強しろ! いい学校行って一流企業に入れば人生バラ色!』とかいうのも、今時、何言ってんの?って思った。


だってそうだよね? 一流企業のCEOが特別背任やらかして逮捕されたりもするんだよ? それでなくても、検査データ捏造してたりするんだよ? 独禁法違反やらかしたり、社員に自爆営業やらせてたりするんだよ? 終身雇用なんて遠い過去になってリストラが普通になってるんだよ? なのに『いい学校行って一流企業に入れば人生バラ色!』とか本気で言ってたんなら、さすがにね」


と加わったのだった。


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