何とか上手くいった……

その日、椿つばきが学校に行くと、


桐佐目きりさめさん。ちょっとお願いされてくれない?」


クラスの女子生徒二人組にそんな風に言われた。


「何?」


椿は、


『またか~』


と思いつつもそれは口には出さずに応える。するとその女子生徒は、いわゆる<ティーン雑誌>を手にして、


「私はこの服が似合うと思うんだけど、リサはこっちのが似合うって言うんだよ。桐佐目きりさめさんはどっちのが私に似合うと思う?」


と訊いてきた。


正直、


『別にどっちでも好きなの着たらいいじゃん』


とは思うものの、


「そうだなあ。私は大木さんと同じ意見かな。岩井さんはシュッとした印象だから、こういうちょっと大人っぽいのが似合うかもって思う。


でも、岩井さんはこっちのカワイイ感じのが好きなんだよね? だとしたら髪型とかをふわっとした感じにして、顔のシルエットを柔らかい印象にするとこっちのカワイイ系のも似合いそうかなって気はする」


五年生になると、不思議と周りの女子がファッションとかに興味を持ち出して、ティーン誌とかで見かけた服が似合うかどうかみたいなことを気にし始めるようになった。


椿自身はそっちにはさほど興味はないけれど、ただ、あきらのことが好きなだけあって、『好きな人からカワイイと思われたい』みたいな気持ちについては分からないでもなかった。


椿に意見を求めてきた<岩井さん>がどういう経緯でファッションに興味を持つようになったのかは分からないけれど、そういうことを意識してしまう気持ちは否定しちゃいけないんだろうなと思っていた。


だからなるべく丁寧に答えようと思った。


これも結局は、普段、アオやミハエルが椿に対してしてくれてることの真似だった。


そして椿にはそう考えることができるだけの頭のよさがあった。


ミハエルが<自宅学習>という形で勉強を見てくれて、すでに中学卒業レベルまでは進んでいるけれど、それとはまた違う意味で。


椿がそうやって丁寧に答えてくれるからか、<ちょっと大人っぽい方>が似合うと言っていたという、リサ(大木さん)も、


「あ~、言われてみれば確かにそうかも。ユカはカッコイイ系なんだよ。だから大人っぽいのが似合うと私は思ったんだ。でも、そうだよね。髪型とかで印象変えたらカワイイのも似合うかも。ユカ、顔がいいからさ」


と、椿の意見に乗ってきてくれた。


どちらの意見も蔑ろにしない椿だからこそかもしれない。


するとユカ(岩井さん)も、


「ありがと~、桐佐目きりさめさん! なんかすっきりしたら確かにリサが言うのもいい気がしてきた! 今度お母さんにねだってみよ~♡」


機嫌よく笑顔で言ってくれた。


そうして自分達の席に戻って、二人は一緒にティーン誌を読み始めた。その様子を見て、椿も、


『あ~、よかった。何とか上手くいった……』


などと胸を撫で下ろしていたのだった。


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